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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
222/356

奏が作った曲

相川と一緒にスタジオで曲を聴いた和は驚いた。

まさか、高校生がこんな曲を作るなんて…。

奏の作ったスローテンポの曲はとても優しいメロディーで心が暖かくなるような曲なのにサビは優しさの中に強さみたいなものも感じる。

…もし、曲に色をつけるなら白…それもまだ誰も足を踏み入れてない早朝の朝日に照らされた新雪の白銀。

暖かいと言う表現と新雪の白銀は反する言葉だが、この曲のイメージは真っ白な白銀だと和は思ったと同時にとても優しく美しいメロディーだからこそ、この曲は歌う人を選ぶ難しい曲だとも思った。

「清雅さんが欲しがる訳がわかりますね」

と和が苦笑いすると

「…自分も歌ってみたいと思うか?」

と相川は聞いた。

「そりゃ思いますよ。この曲は真っ白なイメージの曲だから歌う人を選ぶ難しい曲だと思うけど、挑戦してみたいって思いますよ」

と和は言うと悲しそうな顔で笑い

「…また清雅さんに持ってかれちゃうな」

と呟いたので

「…すまん」

と相川は謝った。

綾子が個人活動を始める前から和はソロの曲を綾子に書いてもらいたいと何度も言ってた。

Speranzaが忙しいから他の人の曲まで作る余裕が無いからと何かと理由をつけて諦めさせたが、そこには二人が付き合ってるという理由もあった。

綾子が作った曲を和が歌うって言うことは、二人が付き合ってることを良く思わないファンを煽るような行為にもなるから綾子が曲を作ることを許さなかった。

Speranzaが個人活動に入ることが決まった時に和に綾子に曲を作らせないのはファンを煽る行為になるからだと話をした。

あれから16年、fateを組みたいと言い出すまで和は一度も綾子の曲を歌いたいとは言わずに我慢してきた。

佐伯の言ってた話が本当なら、和はまた我慢しなければならないんだろうか?

一番初めに歌うって約束を叶えさせてあげれないのだろうか?

仕事だと諦めさせて、自分の息子が作った曲に歌詞をつけさせてそれを他人に渡さなきゃならないんだろうか?

それにこの曲は奏が和に作った曲…。

「あのさ…」

と相川が言うと同時に和は

「この曲」

と言ったので相川は慌てて

「なに?」

と聞いた。

「この曲ってどのくらいまで相川さんの意見が入ってるんですか?」

と和が聞くと

「これは、俺は一切口出ししてないよ。ただ、スタジオを貸しただけ」

と相川はこたえた。

「そうですか…。親バカかもしれないけど、奏はいい曲作りますね」

と和はが言うと

「そうだな。俺もこの曲聴いた時は驚いたよ。一人でここまでの曲作れるなんて思ってなかったから」

と相川は言ったあと

「俺はさ…。この曲は清雅が歌うよりナゴミが歌った方が良いと思うんだ。ナゴミに合ってる」

と和を見て言った。

すると和はうつむいて

「いいですよ。そんなお世辞…。むなしくなりますから」

と言った。

「お世辞なんかじゃないよ。本当にこの曲は…」

と相川が言うと和は拳をギュッと握りしめ

「だから!」

と大きな声をあげた。

和の怒りにも似た声に相川は一瞬ビクッと怯んだ。

すると和はため息をつき静かな声で

「だから俺に歌詞を書けって言うんですか?俺に合ってる曲だから、俺なら曲に合う歌詞をつけれるから…。それを清雅さんに歌わせて…30年の節目の曲にして…」

と言った。

「…すまない」

と相川が言うと

「別に謝ることじゃないですよ。奏の曲が評価されたってことですし嬉しいことじゃないですか」

と和は言葉とは裏腹に怒りと悲しみの入り交じった複雑な顔をした。

「和、本当のことを言うと俺はこの曲を清雅には歌わせたくないんだ。多分、奏も断ってくると思う…」

と相川が言うと

「それは俺に気を使って?…俺が奏の曲を一番初めに歌うって約束させたから?」

と和は聞いた。

「約束…?ああ、佐伯さんから聞いたよ。二人が約束してるって。でも、奏が断る理由は違うと思う。約束してなかったとしても断ってくると思う」

と相川が言うと

「違う理由?」

と和は聞いた。

「…」

相川は一瞬、この曲がナゴミのために作られた曲だと言っていいのか?言うことはまた奏を裏切ることになるんじゃないかと迷ったが、もうここまできてしまったら何を隠そうと隠すまいと同じことだと思い

「この曲は、ナゴミをイメージして作られた曲だから奏は断ってくると思うし、ナゴミが歌う方が合ってるんだ」

と言った。

「俺?」

と和はとても驚いた顔をして何度もリプレイされ流れてる奏の曲に耳を傾け

「まかさ…あり得ないでしょ」

と動揺を隠すように笑ったが、相川は真剣な目で真っ直ぐに和を見て

「本当だよ。この曲が完成した時に奏がそう話してた」

と言った。

「そんな…」

と和が動揺を隠す作り笑いさえも出来なくなり瞳を泳がせていると

「奏の目にはナゴミ…いや自分の父親はこの曲のようにうつってるらしいよ。優しくて暖かくて凛とした強さもあって…。曲が出来た時に奏に和に聴かせたらどうだってきっと和は喜ぶぞって言ったんだけど、奏は自分がこうゆう風に見てるって知られるのが恥ずかしいから絶対に聴かせたくないんだって言ってたよ。だから、この曲が流れた時に奏はあんなにも必死になって止めたんだよ」

と相川は言った。

「だったらなんで…俺に作詞の仕事持ってきたんだよ」

と和が頭を抱え呟くと

「それは…」

と言うと相川は次の言葉に困った。

「作詞の話は保留にして下さい。今すぐにこたえは出せません」

と和が言うと

「わかったよ。結城さんにも伝えておく。けど、俺はこの仕事は断っても良いと思うしこの曲を和が欲しいと思うなら和が貰うべきだと思う。事務所の意見に逆らうことになるけど、やっぱりこの曲は和のためにある曲だよ。清雅に歌わせる曲じゃない」

と相川は言った。

「…」

和が何も言わずうつむいていると

「どうして歌詞を和に頼んだのか結城さんと村上さんの考えてる意図もわからないし、それも含めてこの曲の話をもう一度してみるよ」

と言うと相川はスタジオを出ていった。


「はぁ…」

和は深いため息をつくと目を閉じてスタジオに流れてる奏の作った曲に耳を傾けた。

奏の目にうつる自分はこんな自分なのか…。

優しくて暖かくて凛とした強さを感じる真っ白なイメージの曲。

まさか、自分がこんな風に思われてたなんて和は想像もしていなかった。

頼りない情けない父親だと思われてるとばかり思っていたから、こんな風に思われてると知ったのはスゴく嬉しい。

それに、この曲は奏が作った作らないに限らずとても良い曲だ。

独特の普通じゃ考えられないようなところでの転調も良いアクセントになってるし、こうゆう曲は歌う人を選ぶ。

もし、清雅の話が無かったとしたら奏は自分にこの曲を渡しただろうか?

いや、きっと渡さないだろう。

相川が言ってたように、自分だけの物にして誰の耳にも触れることなく埋もれていったに違いない。

こんなに良い曲なのに…。

この曲をどうするかの権利は奏にあるから自分は何も言えない。

だけど、二人でした約束に縛られてこの曲を世間に出すのを諦めるとしたら?

自分に気を使って曲の提供を断ったとしたら?

「…」

昔、綾子の作る曲に嫉妬したことがあった。

自分ではあんな曲を作れないとそんな才能がある人間が羨ましいと嫉妬した。

今は自分も成長し曲も作れるし他の人の曲を客観的に見れる余裕もあるから奏の曲に嫉妬することはないけど、もしあの頃の自分が奏の曲を聴いたら…綾子の時みたいに嫉妬するだろうか?

「なっちゃん?」

綾子の声に我にかえった和が顔を上げると

「入ってもいい?」

と綾子は聞いた。


和の隣に座った綾子の手にある文化祭と書かれたディスクを見て

「それ、見たの?」

と聞いた。

「ううん。まだ。一緒に見ようと思って…」

と綾子が言うと

「そっか。そうだね」

と和は微笑んだ。

スタジオの中に流れてる曲のことを聞いて良いのかどうかと綾子が迷ってると

「この曲が清雅さんの歌う曲なんだって」

と和は言った。

「そうなんだ…。スゴく心地いい優しい曲だね」

と綾子が言うと

「俺もそう思った。…清雅さんが欲しがるなんてどんな曲なんだろう?って思ってたらビックリだよ。うちの子天才じゃない?」

と和は笑った。

「うん。天才だね。ボヤボヤしてるとあっという間に追い越されちゃいそうで怖いね」

と綾子が笑うと

「本当だよ」

と和は笑ったあと

「綾子はこの曲を聴いて何を感じる?」

と聞き返した。

「この曲?」

と綾子が聞き返したあと

「スゴく暖かくて優しい感じがするね。でも、サビはギターのフレーズが良いアクセントになってて…それがこの曲に暖かさと優しくだけじゃなくて強さみたいのを与えてる感じがする」

と言ったあと次の言葉を口にして良いのか悪いのか迷った。

奏に聞いたからと言う理由を抜きにしても、この曲が和をイメージしてるのは何となくわかる。

けど、それを口にして良いのだろうか?

その一言を和はどう感じるだろうか?

それを考えると綾子は次の言葉を飲み込んで

「でも、歌うのが難しそうな曲だね。シンプルであまりにもキレイ過ぎる曲だからこそ歌う方は大変だね。騙し騙し歌うようじゃ曲に負けちゃうし、歌が前に出過ぎても曲の良さを殺しそう。こうゆう曲は誰もが歌えるような曲じゃないし…曲が歌い手を選ぶような曲だね」

と綾子が言うと

「曲が歌い手を選ぶか…」

と和は笑った。

「…」

「…」

和と綾子はお互いに、この曲が和のことを書いた曲だと言うことを話そうか…それとも黙っていた方がいいのかと悩んだ。

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