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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
219/356

奏の怒り

「父さん、消して!早く消して!」

奏は叫ぶような大声を上げると和からリモコンを奪いオーディオの停止ボタンを押した。

奏の突然の姿に和と綾子が驚いた顔をして奏を見ると

「…なんで?」

と奏は怒りに満ちた顔で和と綾子をにらんだ。

「えっ?」

と和と綾子が奏の言葉と怒ってる意味がわからずにいると

「勝手に俺のPCから持ってきたんでしょ?なんで、そんなことするの?」

と奏は言った。

ますます奏の言ってることの意味がわからない和が

「何のことをいってるんだ?」

と聞くと

「自分の将来は自分で決めろだって?裏でコソコソやってて調子いいこと言うなよ」

と奏は怒りで身体を震わせながら言った。

「奏どうゆうこと?言ってることの意味がわからないんだけど」

と綾子が奏を見てると

「奏 、和と綾子は悪くないんだ。…俺が勝手に自分のPCに転送させてたんだよ。本当にすまない」

と相川は言った。

「相川さんが?」

と奏が驚いた顔をすると

「奏君、君が相川の家で曲作りをするって聞いた時に俺が相川に頼んだんだよ。夏休み中に出来た曲を聴かせてくれって」

と結城は言った。

「結城さんも?」

と奏が更に驚いた顔をすると

「ちょっと待って下さい。話が見えないんですけど…」

と和は言った。

「実は奏は誰にも聴かせたくないって言ってたんだけど、俺が勝手に自分のPCに転送して結城さんに渡したんだ」

と相川が言うと

「それって…。初めから結城さんに渡すつもりで奏に曲を作らせてたってことですか?」

と和は聞いた。

「初めは相川も嫌だって断ってたよ。けど、俺がどうしてもって言って…」

と結城が話してると

「待って下さい。あの…何で突然怒ったんですか?…まさかこの曲も奏が作った曲なんですか? 」

と綾子は相川に聞いた。

「それは…」

と相川が奏をチラッと見ると奏は言わないで欲しいと言うような顔をしてたが

「隠す必要は無いだろ。綾子の言う通り、奏君が作った曲だよ」

と結城は言ったあと奏を見て

「清雅が聴いたのは偶然だったけど、聴いてすぐにこの曲が欲しいこの曲を歌いたいって言われたんだ。でも、この曲にはまだ歌詞がないから和に歌詞を書いて欲しいって頼んだんだ」

と結城は言った。

すると奏はまた怒った顔をして

「でも、この曲は父さんを…」

と言うとハッとしうつむいた。

「…」

和も突然のことに驚き動揺を隠せない顔をしていると

「清雅が30周年の締めくくりに奏君の曲を選んだんだよ。奏君、君の才能が清雅に認められたんだよ」

と結城は奏を見て言った。

「…」

和と奏の姿に何と言っていいのかわからず綾子が困った顔をしてると

「相川さん、さっきの話はお断りします」

と奏は言った。

「えっ?さっきの話って?」

と相川が聞くと

「俺、音楽やめます。バンドもやめるし曲も作りません。だから、事務所にも入らないし相川さんの家にも二度と行きません」

と奏は言うと相川をにらんで

「俺、宝物だって言いましたよね?この曲のことも相川さんに話しましたよね?」

と聞いた。

「」

と相川がすまなそうな顔をしながら黙ってると

「…もう、いいです。俺、音楽やめますからもう二度と構わないで下さい」

と言うと奏はリビングを出て行った。

「奏!」

と相川があとを追おうとすると綾子は相川の腕を掴み

「相川さん、落ち着いて下さい」

と言った。

「でも、俺は奏を裏切って傷付けたから…」

と相川が言うと

「今、相川さんが行っても奏は話を聞かないどころか余計に反発します。奏が落ち着くまで待ちましょう」

と綾子は言った。

「…」

相川がソファーに座ると和は

「…で、どうしてこんなことになったのかを聞きたいんですけど」

と言った。

「…元々は俺が発端なんだよ」

と言うと結城は話を始めた。

「奏君が札幌に来た時、ステージ袖でライブを見学させただろ?あの時の奏君の姿はナゴミよりも鋭い目をして綾子よりも大きなオーラを纏っていて…ステージに立ったらもっと化けるぞって確信したんだ。偶然にも相川が奏君の曲作りに自分の家を貸してやるって約束したのを知って無理やり夏休みが明けたら曲を聴かせろって頼んだんだ」

と結城が言うと

「…相川さんは初めから結城さんに聴かせるために奏の曲作りを見てやる約束をした訳じゃないんですか?」

と和は聞いた。

「相川はずっと嫌がってたよ。奏君が将来について悩んでる途中だから、自分で納得のいく答えが出るまで考えさせて自分の人生は自分で選ばせた方が良いって。けど、これはビジネスだ私情を挟みすぎるなって言って俺が奏君の曲を自分のPCにコピーするように指示したんだ」

と結城が言うと

「…結城さんばかりが悪い訳じゃないんだ。俺は奏の人生は奏に決めさせた方が良いなんていいながらも、本当は事務所に入らせてでも曲の作り方からアレンジの仕方まで俺の持ってるものを奏に全て教えてやりたいって思ってたし、奏の才能を伸ばしてやりたいとも思ってたし、どうにかしてこっちを選ばないかなっていつも考えてたよ」

と相川は言った。

「fateのツアーが終わってから曲を聴かせてもらったら驚くような曲を作るじゃないか。その上、歌も上手いし…。すぐに村上と二人で動き始めてね」

と言って結城はアタッシュケースからクリアファイルを取りだし書類を二人に見せた。

「まだ、決定案ではないけど、奏君の契約書。とりあえず目を通して見て」

と言った。

和が書類を手に取ると綾子も覗きこむように見た。

「契約期間は3年?」

と綾子が聞くと

「奏君がもし、弁護士を目指すなら3年生ぐらいになったら勉強に専念しないとならないだろ。3年やってみて、それからどうするかを自分で決めればいいと思うんだ。だから、契約は3年」

と結城は言った。

「高校卒業するまでは顔出しをしない?」

と和が聞くと

「高校卒業するまでは学校生活のことも考えて顔出しはしない。それから、そこにも書いてあるけどゾロと話し合って活動はゆっくりやっていくから。とりあえず、来年3月までにシングルかアルバムを1枚出すけど、そのあと受験が終わるまでは曲作り期間と言う名の受験勉強期間に充てて受験が終わったあとにシングル、アルバムと出してメディアへの露出も始める。…あとは、綾子の時同様に家族のことは公表しない。これはゾロにも誓約書を交わしてもらうことになってるから、奏君には自分の力だけで頑張ってもらいたい」

と村上は言った。

「…これって、私たちや奏には有難い契約だけど、これで本当に大丈夫なんですか?ほとんど活動しないんだし、高校卒業してから契約交わしても…」

と綾子が言うと

「それじゃ遅いよ。高校卒業するまで待ってなんかいたらよそに持ってかれちゃうよ。なぁ、相川?」

と結城は言った。

「ですね。奏から聞いた話だと何度か街でスカウト受けてるらしいんだ。もちろん街中だから音楽じゃなくてモデルとかのスカウトらしいけど。奏は目立つことがあまり好きじゃないし友だちが騙されたことがあるらしくてスカウトされても受けてはいないみたいだけど…」

と相川は言った。

「今日、ちょっと確認してみたら昨日の文化祭の動画がネットに投稿されてるだ。和たちも村上が撮ったビデオ見たらわかると思うけど、これから奏君にはモデルじゃなくてミュージシャンとしてのスカウトも来ると思う。文化祭でライブやってたし動画には学校名もアップされてるから、奏君が特定されるのはあっという間だよ。だから他の事務所に持っていかれちゃう前に先物買いでも良いから奏君と契約したいんだ」

と結城は言った。

「先物買いって…」

と和が言うと

「結城さんの使った言葉はちょっと悪いかもしれないけど、俺も奏のことは他の事務所に渡したくない。出来れば、自分の手で奏を育ててやりたいんだ。奏は人の意見を素直に聞くし飲み込みも早い。それに一言言えば自分なりにいろいろ考えてより良いものを作る力もある。奏が二人の子どもだからって訳じゃなく若狭奏って一人の人材として俺は育ててみたいし自分の持ってるもの全てを奏に教えてやりたいと思ってるんだ」

と村上は和を真っ直ぐに見て言った。

「…とりあえず、その話は奏が落ち着いてからでしょ」

と和が言うと結城たちは顔を合わせて

「確かに、本人抜きで話をしても仕方ないことだから」

と言った。

「じゃ、この話は保留ってことで。…ところで、清雅さんのシングルって相川さんがプロデュースするんですか?」

と和が聞くと

「まぁ…多分そうなると思うけど」

と村上は言った。

「じゃ、歌詞を書くのに打ち合わせしたいんですけど俺のスタジオでいいですか?」

と和が聞くと

「えっ?いや…。…そうだな。スタジオでしよう」

と相川は戸惑いを隠せない顔でこたえた。

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