お隣の人
「ねぇねぇ、さっきのイケメンって綾子の彼氏?」
綾子の家で家族と一緒に夕食を食べてるボサボサ頭のお隣さんが突然聞いてきたので、綾子の両親と兄は驚きのあまりご飯を吹き出してしまいそうになった。
「綾子、か…彼氏出来たのか?父さんはなっちゃん以外の男は許さんぞ!」
「父さん、なっちゃん以外の男って、そこ間違ってるから。綾子、今度そいつ連れてこいよ。俺がお前に相応しいか判断してやるから」
「だったら、父さんだって判断する」
「まぁまぁ、いいじゃない。綾子だって高校生だもん。彼氏いてもおかしくないでしょ?」
と綾子の家族は盛り上がっていた。
「あのさ、渉は彼氏じゃないから。同じはバンド仲間。暗くなったから送ってくれただけで何もないから」
と綾子は怒って言った。
「そ…そうか。バンド仲間ね。そうかそうか。。それにしてもうちの子供達は誰に似たのか揃いも揃って音楽好きだな…」
と父親は綾子の怒りにこれ以上触れないように恐る恐る言って、兄とボサボサ頭の男の方を見て何か話せって顔をした。
「あ…そういえば昨日」
と兄が話を始めようとすると綾子はスッと席を立ち上がり
「ご馳走さま」
と言って自分の部屋に戻って行った。
「何だよ。久しぶりに家族揃ってご飯食べてるって言うのに…和、お前のせいだぞ」
と兄はブツブツ言った。
部屋に戻りギターを弾いてる綾子はイライラしていた。
「何なのよ。なっちゃんったら。こっちがどんな気分だったと思ってるのよ」
とブツブツと独り言を言ってると
「どんな気分だったの?」
とドアを開けて立ってるボサボサ頭の男が言った。
「なっちゃん!」
と綾子が言うと男は綾子のベッドに横たわり
「綾子の恋路を邪魔したから怒ってるの?」
とまるで雨に濡れた子猫のような寂しげな目で聞いた。
「恋路じゃなくて!あんな事してなっちゃんの正体バレたらどうすんのよ!」
と綾子は怒った。
「正体?」
と意味が分からない顔をしてる男に
「そうだよ。渉はボレロの…ナゴミになら抱かれてもいいっていってるくらいファンなんだよ!それがこんなダラダラしたダサい格好しているなんてバレたら…」
「あー、大丈夫。俺、男に興味ないし」
「そうじゃなくて、イメージってものがさ」
「そっち?でも、バレないでしょ?だって誰も俺がナゴミだなんて気付いたこと無いもん」
と言って男…和は綾子の布団にくるまって
「綾子、俺眠いから子守唄代わりに一曲弾いてよ」
と言った。
綾子はため息をついてから、ギターで今日作ったばかりの曲を弾いた。
「♪~♪~♪」
綾子のギターに合わせて和は鼻唄でメロディーを唄った。
「あ!」
と大きな声を上げて綾子はギター片手にペンを持ってノートに詞を書き始めた。
「あーや…」
と甘えた声で和が声をかけると
「ちょっと黙ってて」
と言って綾子のノートに向かい詞を書いていた。
和は布団にくるまりながら、綾子の背中を見ていたがいつまでたっても綾子が自分の方を見ないので、綾子の隣に座って綾子の書いた詞を見ていた。
「…」
綾子が隣に座ってる自分に気付いていない様子なので、和は綾子の肩に自分の頭を乗せたが綾子に避けられてしまい、仕方なく後ろのベッドに頭を乗せて目を閉じた。
「出来た!」
と綾子がペンを置いて隣に座ってる和を見ると、和は寝息を立てて寝ていた。
「そんなに眠いなら、帰って寝ればいいのに」
と綾子が和を起こそうと揺すっていると
「あ…ごめん。寝てた」
と言って立ち上がったかと思うと、ベッドに横たわり綾子の手を引っ張って隣に綾子を寝かせた。
「なっちゃん!やめてよ」
と綾子が慌てると
「え…綾子は一人で寝れないだろ?ほら、一緒に寝よう」
と綾子をぎゅっと抱き締めた。
「なっちゃんいい加減にして!」
と綾子が和の顔を思いっきり叩くと、寝ぼけていた和が目を覚ました。
「あーや、痛い。大事な顔叩かないでよ」
と和が泣きそうな顔をすると
「叩かれる事をする方が悪いんだよ!バカ!出てけ!」
と綾子は和の背中を押して部屋の外に出した。
「あーや、悪かったって!ごめん。部屋に入れてよ」
と和がドアを叩いてる音がしたが、綾子は知らんぷりをしていた。
しばらくすると、綾子の兄の由岐の声がして
「綾子、もう良いだろ?入れてやれよ。そうしないとコイツ朝まで騒いでるよ。な、頼むよ」
と言ってきた。
「お兄ちゃんも一緒なら入っていいよ」
と綾子が言ってる側からドアが開いて和が入って来ようとしたので
「お兄ちゃんが先に入って」
と綾子は言った。
「わかったよ」
と言って由岐が部屋に入ると、続いて落ち込んだ顔をした和が部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん、昨日のMステージ格好良かったよ」
「そうか?あれ新曲だったからスゲー緊張したんだよな」
「ボレロってあんまりテレビ出ないから、今日なんてクラスでスゴい話題になってたんだよ。それからね。ボレロが表紙になった雑誌を友達が持ってきてて」
と綾子が由岐に話していると、由岐は落ち込んでる和も仲間に入れろと目で合図をした。
「あ…。そういえば、雑誌にね。ナゴミは好きな人の前では甘えん坊になるって書いてあったの。それ読んで笑っちゃったんだけど、香住なんて私にだけ甘えて欲しいだって!本当のナゴミがこんなにふにゃふにゃしてるって分かったら実際どうなの?って思っちゃった」
と綾子は笑ったが
「…」
和は俯いて何も言わなかった。
「バカ」
と由岐は綾子に言って
「俺、見たいテレビあったから部屋に戻るわ」
と部屋を出て行った。
「…」
和は俯いたまま何も言わないので
「なっちゃん、私はステージに立ってたくさんの人を魅了してるナゴミよりも、ふにゃふにゃしてるなっちゃんの方が好きだな…」
と綾子が言うと
「本当?」
とキラキラした目で綾子に聞いた。
「う…嘘だよ」
と綾子が言うと和は
「そっかぁ。やっぱり綾子もボレロのナゴミが良いのか…。ライブだと気持ちが高揚してるからそうなっちゃうけど、俺って普段からそうゆうの演じるの疲れちゃってさ」
と綾子の膝に頭を乗せた。
「ちょっと!」
と綾子が和の頭を避けようとすると和は綾子の腰に手を回して
「綾子に甘えるのが俺の癒しだしなぁ」
と言った。
「じゃあさ、噂になってるモデルの子にしてもらえば良いじゃない?」
と綾子が言うと
「あー、無理無理。彼女はナゴミが好きなんだもん。俺のこんな姿見たら引かれるどころか、どこで何を言われるか分かんないよ。それに彼女とはお互いにセフレって納得してる関係だし。別に自分の事知って貰いたいとか思わないよ」
と和は言った。
「なっちゃん、やっぱり芸能人なんだね。愛が無くてもやっちゃうとか、自分の事知って貰いたくないとか一般人の私にはわからない」
と綾子が言うと
「綾子が嫌ならあんな女、二度と会わなくてもいいよ」
と和は言った。
「何で私が出てくるの?」
と綾子が聞くと
「だって、俺にはこうやって素の自分で甘える事が出来る綾子の方が大事だもん。だからセフレとは縁を切るよ」
と和は綾子にぎゅっと抱きついた。
「何言ってんのよ」
と綾子は笑った。
「ボレロのナゴミって言うよりさ、普通の成人越えた男が5歳も年下の友達の妹に甘えるってどうなの?普通恥ずかしくないの?」
と綾子が言うと
「だからさ、いつも言ってるように綾子は特別なんだって。この太ももなんて俺の頭にスゴいフィットするしこんな癒される膝枕なんて綾子以外では見たこと無いもん」
と和は言った。
「そこかい!」
と怒ると綾子は立ち上がって
「私、お風呂に行くから」
と言って部屋を出ていった。