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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
191/356

大阪で 3

今日のライブ、奏には驚くことばかりだった。

まさか本番中にこんなにも次々と石井がスタッフやメンバーに指示を出してるとは知らなかったので本当に驚いた。

それに曲の演出、楽器の交換、そしてMCやアンコールまでの時間など…全てが進行表に沿って行われてるなんて…。


アンコールが終わり、メンバーがステージ前に来て手を振ったり観客席にピックを次々と投げたりして袖に下がると

「お疲れ様でした」

と石井はスタッフに言って椅子から立ち上がり

「さ、戻ろうか?」

と奏に言った。

「石井さんて、大変な仕事してるんですね」

と奏がしみじみと言うと

「まあね。俺だけが特別大変な訳じゃないけど大変だね。だから初めて会った時に言ったじゃん。この仕事はやめておいた方がいいって」

と石井は笑った。

「そうですね…。あの時はあまりピンとこなかったけど本当大変そうだなって…俺にはこんなに責任の重い仕事は無理だなって思いますね」

と奏が笑うと

「奏君はさ、裏方よりも表の仕事の方が向いてそうに見えるもんね」

と石井は笑った。

「そうですか?…俺はあまり表に出る仕事はしたくないんですけど」

と奏が言うと

「そうなんだ。でも、今は表の仕事したくないって思ってるかもしれないけどいずれは目指すような気がするな…」

と石井は言ったあと

「ま、俺の勘だからあまりあてにならないけどね」

と笑った。


楽屋を出て車に乗り込んだ奏は、綾子が窓を開けファンの子に手を振っていたので

「スゴいね…」

と呟いた。

「何が?」

と綾子が振り向いて最後部の席に座る奏に聞くと

「手を振ってるのスゴいな…って思って」

と奏は言った。

「スゴいかな…?こんなに遅くまで待っててくれた訳だし嬉しいじゃない。それに出来ることってこのぐらいしか無いしね。まぁ、ほとんどの人はナゴミ待ちなんだけどね」

と綾子が笑うと

「でも、夕方も寝てたし疲れるんでしょ?」

と奏は聞いた。

「まぁ、疲れてるけどあと4日頑張れば休みだからね。…山下君、本当に休みなんだよね?」

と綾子が隣に座る山下に確認すると

「大丈夫ですよ。ばっちり2連休です」

と山下は笑った。

「母さんでも休みの確認するんだね。父さんみたい」

と奏が笑うと

「そりゃあ休み欲しいしね。8月は右手でも余るぐらいしか休み無かったよね…山下くん?」

と綾子は意地悪そうに聞いた。

「えっ!あ…はい。すみません」

と山下が謝ると

「うそうそ!山下君のじゃなくて北原さんのせいだもん。空きがあれば次々とスケジュール入れてさ…。慣れてないとは言え、本当鬼だよね…」

と綾子はあくびをした。

「もし、キツいなら綾子だけでもホテルに戻ってもいいけど」

と山下が聞くと

「ん…大丈夫。お腹空いてるからご飯食べたいし」

と綾子はまたあくびをして言った。

「じゃ、着くまで寝てきなよ。着いたら起こすから」

と山下が車に置いてあるタオルケットを綾子にかけて言うと

「そうだね。奏、悪いけどちょっと寝てくね」

と言って綾子はタオルケットを口元までかけ目を閉じた。

すると瞬く間に綾子の寝息が聞こえてきたので、奏が

「もう寝たの?はやっ」

と驚いた顔をすると隣に座ってる奏太が

「本当早いよね?」

と笑った。


次の日、奏は2階の最前列に座りfateのリハーサルを見ていると

「隣座ってもいいかな?」

と結城がやってきて言った。

「はい。どうぞ…って俺が言うのも変ですけど」

と奏が笑うと結城は奏の隣に座り

「そうだね。何か変だよね」

と結城も笑った。

奏がジーっとリハーサルの様子を見ていると

「リハーサル見てるの楽しい?」

と結城は聞いた。

「はい。何か、特別なものを見てる感じがして楽しいです」

と奏が笑うと

「特別か…。実は大阪に誘ったあとにちょっと後悔してたんだよね」

と結城は言った。

「えっ?どうしてですか?」

と奏が聞くと

「ツアー中に和や綾子と今までしなかったいろいろ話をして。奏君の話題も出てきてね。その…1年前まで奏君が由岐の家に住んでたって話や会話もほとんどしたことが無かったって聞いてさ…」

と結城は言った。

「あ…。それですか…」

と奏が言うと

「うん。今はとても仲の良い家族だから気付かなかったけど大変だったんだね」

と結城は言った。

「…俺は反抗してる方だから大変じゃ無かったけど、父さんや母さんには悪いことをしたなって今は思います」

と奏が言うと

「二人に?」

と結城は聞いた。

「はい。家に戻った日に今まで思ってたことを父さんと母さんに話したんです。ナゴミや綾子の子どもって言われるのも比べられるのも嫌だ、父さんも母さんも仕事好きだから俺を産んだことを後悔してるんじゃないかって聞いたんです。そしたら母さん、仕事を捨てれないダメな親でゴメン普通の家の子に生んであげれなくてゴメンて泣いて…。父さんは父さんで自分と母さんがそれぞれ子どもの頃に嫌だったことを俺一人に背負わせてゴメンて謝ってくれて…。別に父さんも母さんもわざとそうゆうことをしてきた訳じゃないのに…」

と奏が言うと

「もしかして、音楽の仕事に興味はあるけど自分の両親みたいに表に出る仕事よりも裏でする仕事に興味があるって言うのは二人の子どもってことも関係してるの?」

と結城は聞いた。

「関係無いって言ったら嘘になりますし…比べられたり七光りみたいに思われるのは嫌です。けど、それよりも俺は人前に出るのがあまり好きじゃ無いんで…」

と奏が言うと

「そうなの?」

と結城は驚いた顔をした。

「はい。人前に出るのって緊張するから嫌なんですよ」

と奏が恥ずかしそうに言うと

「それでよくバンドやってるね」

と結城は笑った。

「本当はバンドもやりたくなかったんです。自分で好きなように曲作る方が楽しいですし…。でも、友だちに試しに一度やってみようって言われてやってみたら楽しくてそのままズルズル…。でも、本当は部活でやるだけで俺は充分で文化祭とか出なくても良いんですけど友だちはみんなやりたいって言うから…」

と奏が言うと

「断れなくなっちゃったんだ…」

と結城は笑った。

「はい。俺、歌もギターも下手だし緊張すると余計めちゃくちゃになりそうで嫌なんですよね」

と奏がため息をつくと

「そうなの?相川、奏君は歌もギターも上手いって誉めてたよ」

と結城は言った。

「それ、お世辞ですよ。俺、父さんみたいに歌えないし母さんみたいにギターも弾けないし…」

と奏が言うと

「ちょ…ちょっと待ってよ。奏君は自分のことを和や綾子と比べてるの?」

と結城は驚いた顔で聞いた。

「はい」

と奏が不思議そうな顔をすると

「そりゃ理想が高過ぎだよ。和も綾子も何年やってると思ってるの?いくら自分の親だからって言っても高校生の奏君が和や綾子と同じレベルでやってたらいくら大金はたいてもうちの事務所に入れて今すぐデビューさせるよ」

と結城は笑った。

「そうですか?」

と奏が聞くと

「そうだよ。和と同じレベルで歌えて綾子みたいにギター弾ける高校生なんてなかなかいないからね」

と結城は笑ったあと

「そうだ。ついでに俺が初めて綾子に会った時の話をしようか?」

と言った。

「初めて会ったときですか?」

と奏が聞くと

「そう。もう20年以上前の話なんだけど、相川にボレロよりスゴい子達を見つけたから絶対に自分で育てたいって言われのが綾子たちだったんだよ。渉たちは契約したけど綾子はプロにはなりたくないって言うから社長と一緒に一度会って説得して欲しいって言われてね」

と結城は笑った。

「母さんはわっくんたちと一緒に事務所入ったんじゃなかったんですか?」

と奏が聞くと

「違うよ。綾子は2ヵ月ぐらい後だったはずだよ。だから、綾子は事務所的には一番後輩なんだよ」

と結城は笑ったあと

「話を戻すと、会う前にライブ動画を見てスゴい堂々としてるしギター上手いし存在感あるし由岐の妹で和の彼女だって言うし…。それに当時はボレロ人気でうちの事務所から誘われるって言うのはバンド小僧には夢のまた夢みたいな話だったのに、兄貴が反対してるとは言え即答で断った女の子って一体どんな子なんだろうってドキドキしたよ」

と言った。

「ドキドキしたんですか?」

と奏が聞くと

「そりゃするよ。相川や村上から和の精神的な支えになってる子だって聞いてたし社長も相川と同じように何がなんでも綾子が欲しいって言ってたしね…。実際会ってみた第一印象は普通の子だなって思ったし動画と同一人物なのかな?とさえも思ったね」

と結城は笑ったあと

「けど、相手の目を見て話をするキチンとした子で、社長がどうしてミュージシャンになってみたいと思ったのかって聞いた時にはスゴい真っ直ぐな瞳で和が武道館のステージから見た景色を自分も見てみたいって言ってね…」

と結城は言った。

「景色ですか?」

と奏が聞くと

「綾子は和が思わず泣いてしまったステージから見える景色を見たいと思ったらしいよ」

と結城は言った。

「…父さんが泣いてしまった景色ってどんな景色なんですか?」

と奏が聞くと

「俺は見たことないからなんとも言えないけど…。どんな景色なんだろうね…。相川の言葉を借りるとそのステージに立った人しか見れない景色らしいけど、綾子も初めて武道館でライブした時に泣いてたからとても素敵な景色なんだろうね。今度、聞いてみたらいいんじゃない?」

と結城は言った。

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