大阪で 1
新幹線が新大阪駅に着くと奏はスーツケースを引きながら改札口を探していた。
「こっちが南口だろ?中央口は…あぁ、こっちか」
と普通ならすぐに見つけれるだろう中央口をウロウロしながら見つけた奏が改札口を抜けると
「奏君、お疲れさま」
と佐伯が側にきた。
「佐伯さん、わざわざ迎えに来てもらってすみません」
と奏が頭を下げると
「全然いいんだよ。改札迷わなかった?」
と佐伯は聞いた。
「…はい。ちょっとだけ」
と奏が言うと佐伯は歩きながら
「見た目そんな風に見えないけど本当に苦手なんだね」
と言った。
「えっ?」
と奏が聞くと
「和さんたちが奏君方向音痴だから夜になってもジップまで一人では来れないって心配してたからさ。さすがにタクシー乗れば来れるだろうと思ったんだけど、タクシー乗り場までたどり着けないかも知れないって言ってさ…」
と佐伯は笑った。
「そんな…さすがに夜まではかかりませんよ。バカにして…」
と奏が言うと
「奏君、高校生のわりにしっかりしてて落ち着いてるじゃない?だから、方向音痴とかそうゆう苦手なことがあると逆に親近感沸いていいよ」
と佐伯は笑った。
その後、奏たちはタクシーに乗りジップに向かった。
午後4時を過ぎてることもあり、楽屋口にファンの姿は無かったが ジップ入り口のまわりには既にファンらしき人が集まっていた。
「あの人たちって、ずっと待ってるんですか?」
と奏が聞くと
「多分ね。こんな暑いのに大変だよね。まだ開場まで2時間ぐらいあるのにね」
と佐伯は言いながらトランクから奏のスーツケースを取りだし
「パスはこっちに入ってるの?」
と聞いた。
「いえ、こっちのバックに…」
と言って奏は背中に背負ってるボディバックから札幌で相川にもらったパスを取りだし首からかけた。
佐伯に連れられて楽屋に来た奏は
「あれ?誰もいませんね」
と佐伯に聞いた。
「ああ、リハ中だからね。とりあえずスーツケースはここに置いとくとして、リハ見に行ってみる?それともここで休んでる?」
と佐伯が聞くと
「リハーサル見に行っても良いですか」
と奏は言った。
奏が佐伯に連れられて客席に入るとfateはリハーサルを行っていた。
奏はリハーサルの邪魔にならないように壁際に立って見ていると佐伯と入れ違いで奏のところに結城がやってきて
「奏君、こんにちは」
と話しかけてきた。
「こんにちは。新幹線のチケットありがとうございました」
と奏が頭を下げると
「いいんだよ。奏君、名古屋か大阪には来てくれるって言ってたのに全然来ないから無理矢理呼んじゃったんだし」
と結城は笑った。
「すみません。部活で忙しくて」
と奏が言うと
「部活?ああ、軽音部だったもんね。楽しい?」
と結城は聞いた。
「はい、楽しいです。今、文化祭に向けてSperanzaの曲練習してるんですけどスゴい下手くそで…。でも、少しずつですけどみんなの息が合うようになってきて…」
と奏が楽しそうに話してるのをニコニコしながら結城が聞いてると
「あ…すみません。こんな話面白くないですよね」
と奏は恥ずかしそうに笑った。
「そんなこと無いよ。…ほら、音楽って音を楽しむって書くだろ?下手でも何でも楽しむことが一番だからね」
と結城が笑うと
「そうですね。部活もそうなんですけど、最近スゴい音楽って楽しいなって思います」
と奏は言った。
「で?文化祭で発表するのはいつなの?」
と結城が聞くと
「9月の21日です」
と奏は言った。
「21日?もう1ヶ月もないんだ。そりゃ練習も気合い入るね」
と結城が言うと
「はい。人前でやるの初めてだから緊張もして…」
と奏は言った。
「もう緊張してるの?今から緊張してたら文化祭まで持たないよ」
と結城が笑うと
「ですよね…」
と奏は恥ずかしそうにした。
「そう言えば、相川の家で曲作りもしてたんだって?」
と結城が聞くと
「えっ、はい。…あの、誰からその話聞きました?」
と奏は聞いた。
「和が夏休みなのに奏君が部活と相川の家に行ってばかりで家にいなくて寂しいって言ってたから」
と結城が言うと
「寂しいって…。父さんがいるときはなるべく家にいるようにしてるんだけど」
と奏は呟いた。
「あと、相川も寂しいって言ってたよ」
と結城が笑うと
「相川さんがですか?」
と奏は驚いた顔をした。
「うん。昨日の夜中に酔っぱらって電話よこしてさ。奏君が家に帰って寂しい、何で奏君を大阪に呼んだんだって泣いてたよ」
と結城が笑うと
「本当ですか?」
と奏は笑った。
「本当本当。家が静かで一人で寂しいってさ。だったら結婚でもすれば良いのに。何を今さらって思っちゃったよ」
と結城が言うと
「ですよね?北海道で相川さんも結婚したらどうですかって言ったら、一人で暮らしてきた生活スタイルを他人に崩されたくないから結婚は難しいって言ってたのに」
と奏は言った。
「確かに長年一人で暮らしてくると何でも自分で出来るようになるし自分なりのルールみたいのも出来るからそれを崩すのは嫌なのかもな」
と結城が言うと
「じゃ、俺が出入りしてたのも我慢してたんですかね?」
と奏は聞いた。
「どうだろ?泣いて寂しいって言うぐらいだから我慢はしてなかったんじゃないかな?」
と結城は笑うと
「で、曲は作れたの?」
と聞いた。
「はい。相川さんにいろいろ教えてもらって…。相川さんて今までもスゴい人なんだと思っていたんですけど、本当は神様みたいな人ですね」
と奏が言うと
「神様?それは言い過ぎじゃない」
と結城は笑った。
「でも本当に神様みたいでしたよ。アイデアもスゴいし指摘されるところも納得出来るところばかりだし…。そのうえ、ギターの弾き方やベースの弾き方も教えてくれて…。才能ある人って本当スゴいんだなって思いました」
と奏が言うと
「相川は逆に奏君のことを誉めてたよ」
と結城は言った。
「本当ですか?」
と奏が言うと
「ちょっと教えればドンドン良いものを作るし教えがいがあるって…。本当はもっともっといろんなことを教えてやりたいとも言ってたよ」
と結城は言った。
「…そんな。あんなにいろいろ教えてくれたのにまだあるって言うんですかね」
と奏が嬉しそうに笑ってると
「でも、もうすぐ夏休み終わるし残念だね。相川と夏休みだけって約束してたんでしょ?」
と結城は聞いた。
「はい。学生の仕事は勉強だから夏休みの間だけだって言われました」
と奏が少し残念そうな顔をしたのを見た結城は
「それさ、本当は違うんじゃないかな?」
と言った。
「違うってどうゆう…ことですか?」
と奏が聞くと
「相川は自分で自分の価値も立場もわかってるから奏君には簡単に教えてあげれないんだと思うよ」
と結城は言った。
「価値と立場ですか…?」
と奏が聞くと
「神様ってほどじゃないけど、いろんなミュージシャンをプロデュースしてきてるしボレロやSperanzaと言う怪物まで一から育てあげたんだから自分の才能や能力って言うのはわかってるんだよ。それに
うちのミュージシャンを育てるのも相川の仕事だからね。アマチュアの子に教えるのはちょっと問題があるんだよね」
と結城は言った。
「問題?」
と奏が聞くと
「うん。いくら可愛いがってるからとか育てれば伸びるってわかってる子でもうちのミュージシャンじゃない子に教えて他の事務所に入られたら、事務所的にはアウトだからね」
と結城は言った。
「アウトなんですか?」
と奏が聞くと
「そうだよ。他に取られるような子を育てる暇があったら自分とこの子を育てろ、何で他の事務所の利益を生むようなことをしてるんだって他の社員から反感かうし信頼も失うからね」
と結城は言ったあと
「奏君は音楽に携わる仕事にも興味を持ってるじゃない?そうなると、相川の教えた知識を持って他の事務所に入っちゃう可能性もなきにしもあらずでしょ?だから、奏君にも夏休みのあいだだけだって言ったんじゃないかな」
と奏を見た。
「じゃ、俺が教えてもらったのって相川さんに迷惑かけることになるんですか?事務所から怒られたりとか信頼されなくなったりとか…」
と奏が心配そうに言うと
「それは大丈夫だよ。相川だって教えても差し支えの無い範囲のことしか教えてないだろうし。夏休みのことは俺も許可出したんだしね。心配する必要ないよ」
と結城は言った。
「そっか…。良かった…」
と奏は安心した顔をしたあとに
「でも、本当相川さんてスゴいんですね。あれだけ教えてもらって差し支えの無い範囲だなんて。やっぱり神様みたいです」
と結城に言った。
「そっか。じゃ、その神様にもっと教えてもらいたいって思ったら、ぜひうちの事務所に入って良いからね。いつでも歓迎するから」
と結城が冗談ぽく言い笑うと
「そうですね。その時はぜひよろしくお願いします。…でも、それまでにもっと良い曲を作れるようにならないと入りたいって言っても断られちゃうな…」
と奏が呟いているのを見た結城は
『心が傾き始めてるな…。脈有りと見て大丈夫だ』
と思い顔を笑みが浮かんだ。
ステージでメンバーが楽器を下ろしスタッフと話をしているのを見た結城は
「話し込んじゃってるうちにリハーサル終わっちゃったみたいだね。ごめんね」
と奏に謝った。
「いえ、また明日もありますし。…結城さんと話すのってスゴいためになる話が多くて楽しいので。こちらこそ忙しいのにすみませんでした」
と奏が言うと
「そんな謝る必要ないよ。こっちこそ、楽しませてもらってありがとうね。…そういえば、明日なんだけど佐伯と大阪観光でもしてくる?」
と結城は聞いた。
「大阪観光ですか?」
と奏が聞き返すと
「佐伯、地元だからさ。USJとかあべのハルカス…あとは海遊館とか。どっか行きたいとこある?」
と結城が聞くと
「あの、迷惑じゃ無かったら明日もここに来たいんですけど」
と奏は言った。
「全然迷惑じゃないけど良いの?せっかくだから遠慮しなくていいんだよ」
と結城が言うと
「いえ、こうゆうのってなかなか見れる時が無いんで楽しくて…」
と奏は言った。
「そう?じゃ、明日の入り時間はメンバーたちと一緒で大丈夫かな?」
と結城が言うと
「はい。大丈夫です」
と奏は嬉しそうな顔をして言った。




