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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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Speranzaの仕事場

和の後ろをついて奏はスタジオに向かって歩いていたが、人とすれ違うたびにキョロキョロしていたので

「どうした?」

と和は聞いた。

「いや、みんな父さんに頭下げてるし俺のこと見てるし…どうしたら良いのかな?って…」

と奏が言うと

「とりあえず挨拶だけしておきな。俺も知らない人結構いるけど、とりあえず挨拶してるって感じだしね」

と和は言ってスタジオのドアを少し開け

「お疲れです」

とコントロールルームにいる綾子たちに声をかけたがみんなピリピリとした顔で話をしていて和に気付かなかったので

「お疲れ!」

と今度は大きな声で和が言うと

「あっ!和さん!」

と渉が驚いた顔をしたのに続いて部屋にいる人が一斉に和と奏を見たので、奏は驚いて少しビクッとしてしまった。

「お疲れさま。何回も声かけたのに気付かれないなんて泣きそうになったよ」

と和が笑いながら部屋に入ったが、それに続いて奏も入っていいのかわからず立ち尽くしていると

「奏も来たの?ほら、入って入って」

と渉は奏を招き入れた。

「遠慮しないでそこら辺に座ってお菓子でも食べてな」

と隼人が言うと奏は

「ありがとうございます」

と言って端の方にあるソファーに腰かけた。

「なっちゃん、急にどうしたの?」

と綾子が聞くと

「奏とドライブしようと思ったんだけど、どこに行こうか迷ってさ。ここなら、飯も食えるし飲み物もタダだしと思って来ちゃった」

と和は笑った。

「綾子に会いたかっただけじゃないんですか。どんだけ一緒にいたいんだか…。差し入れは何ですか?」

と誠が言うと

「 差し入れ?ほら、奏が差し入れだよ。これほど良い差し入れないだろ?」

と和は笑った。

「何ですかそれ。健太のプリンはないんですか?俺、前に差し入れましたよね?」

と誠が言うと

「ねぇよ。だいたい差し入れ差し入れうるさいよ。さっさと仕事しろ」

と和は言った。

「残念ながら今日は隼人の音録りなので俺は仕事無いんです」

と誠が言うと

「もうドラム録ってるの?」

と和は驚いた顔をした。

「早くしないと締め切りに間に合わなくなるんで…」

と隼人が言うと

「そうなんだ。大変だな…」

と和は言った。

「本当大変ですよ。ずっと一人でブース籠ってるんですけど注文が次々出てきてなかなか進まないし…。毎日毎日ドラム叩いて疲れましたよ。それに今夜中に終わらせろって相川さんに言われてるし」

と隼人が言うと

「今夜中に?終わりそう?」

と和は聞いた。

「終わらせないと俺のせいでみんなの休み無くなるって脅されてるんで終わらせますよ」

と隼人が言うと

「休みなくなるの?そりゃ大変だ。せっかくの綾子と一緒の休み無くなったら困るよ。相川さん、厳し過ぎじゃないですか?」

と和は言った。。

「何言ってるんだ。遅れてるんだから仕方ないだろ?…休みたいなら終わらせればいいんだよ。隼人、そろそろ休憩終わりにして準備」

と相川が言うと

「ね、鬼だとおもいません?それに他にも鬼が3匹もいるんですよ」

と笑いながら隼人が頭にタオルを巻くとSperanzaのメンバーはミキサーの前に集まってスタッフと話を始めた。

和たちがドアを開けた時のピリピリとした空気とは違い、時折笑いながら話をしているメンバーを見て相川を含めたスタッフはホッとした顔をした。

その後、一通りの打ち合わせが終わり仮オケを終えたい曲がスピーカーから流れてきたので

「これ、誠が作ったんだっけ?」

と奏の隣に座って様子を見ていた和が聞くと

「はい」

と誠は少し緊張した声でこたえた。

「ふーん。ねぇ、もう一回初めから聞いてみたいんだけど」

と和が言うと誠だけでなく綾子や渉や隼人も緊張した顔をした。

スタッフが曲を最初から流し始めると、和は目を閉じ人差し指を机に当ててトントンとリズムを取り始めた。

奏は一瞬にして変わってしまったピンと張りつめた部屋の空気とダークな雰囲気の曲との両方に息をするのさえも躊躇してしまう感じだった。

曲が終わると和はゆっくりと目を開けたが何も話さず何か考えている様子だった。

曲を作った誠はもちろんのこと、限られた時間の中で仮オケを完成させた綾子たちの顔に不安の色が広がっていると

「この曲…」

と和は言うとゆっくりとした口調で

「Speranzaぽくない曲だね」

と言ったので

「…はい」

と誠は少し落ち込んだような顔をした。

「…でも、ドラムがすごいクールでいいね。特にサビ入り前一小節分のドラムソロが場面転回の良いアクセントになってるしカッコいい。それから、ベースは結構難しそうだけど曲のダークな世界観を上手く表現してる。ギターはイントロのフレーズがとても良くて一度聞いたら頭に残る。一見するとダークな印象を受ける曲だけど…要所要所で強い意志みたいのを感じるとても良い曲だよ」

と和が言うと

「ありがとうございます」

と誠が先ほどまでの緊張した顔を緩めて頭を下げると綾子たちも嬉しそうな顔をした。

メンバーの顔を見た相川は

「よしそろそろ始めようか?早く録り終わらないと明日の休み無くなるって和に怒られるからな」

と笑った。


隼人の準備が終わりレコーディングが再開されると、綾子と誠はスタッフや隼人と話をしながら作業を進めていたが、渉は少し離れたところで歌詞を作っていた。

少しすると渉は奏と一緒にソファーに座りレコーディングの様子を見ていた和に

「和さん、ちょっと歌詞を見てもらっても良いですか?」

と聞いた。

「俺?良いけどもしアドバイス欲しいなら先払いだよ」

と和が笑うと

「そんな…。手持ち少ないんで後で事務所に請求して下さいよ」

と渉も笑った。

和が渉の隣に座り話を始めると側に誠がやってきて

「渉、人に頼らないで自分で作れよ」

と笑った。

「ちょっと気になる部分があるから見てもらってるだけだって」

と渉が言うと

「気になる部分ばっかなんじゃないの?いっそ、和さんに作ってもらったら?」

と誠は更に笑った。

「俺はそれでもいいけど…。その代わり曲も俺がもらうよ」

と和が笑うと

「いや、それはちょっと…勘弁して下さい」

と渉が言ったので和と誠は笑った。

その後も3人は渉の歌詞を見ながら話をしていた。

「歌詞のテーマは曲と合ってていいと思うんだけど、例えば…この部分の歌詞をもっと間接的な表現にしてみてると、聞く側の捉え方次第ではドラマとリンクする歌詞になるし」

と和が話をしてるのを渉と誠は感心した顔で聞いていた。

「じゃ…こうゆう感じですか?」

と渉が歌詞が書かれた紙の指摘された部分を書き直すと

「そうそう」

と和は頷いた。

「確かに…。こっちの方が格段に良いな。渉、スゴいじゃん」

と誠が言うと

「何言ってるんだよ。俺の的確なアドバイスのおかげだろ?」

と和は言った。

「でも、これを思い付いたのは渉だし…」

と誠が言うと

「お前さ、昔から絶対に俺のこと誉めようとしないよな?本当、可愛くないよ」

と和はムッとした顔をした。

「誉める時もありますよ。例えば…例えば…」

と誠が考えてると

「そんなに無いか?本当、ムカつくよ。邪魔だから向こう戻って作業してろ」

と和はムッとした顔をしたので

「あっ、ありましたよ。そうやってすぐに機嫌損ねるところ。俺にはそんな心のままになんて恥ずかしくて出来ないんでスゴいなっていつも思ってますよ」

と誠は笑った。

「それ誉めて無いだろ?むしろバカにしてるとしか思えないよ。もう良いから、あっち行け」

と和が怒ると

「はいはい。言われなくても戻ります」

と言って誠は綾子の方に歩いていった。

「本当、あの減らず口どうにかならんかな…。先輩を敬う気持ちって言うのが無いのか…」

と言ったあと

「渉、あの減らず口が目を丸くして驚くような歌詞作れよ」

と言った。


和たちの様子を見ていた奏が

「また父さんはあんなこと言って…」

と呆れた顔をしてると

「和がどうかしたか?」

と相川がやってきて言った。

「いえ…。なんかすみません」

と奏が言葉に困ってると相川は奏の隣に座り

「何がすみませんなんだ?」

と聞いた。

「いえ…。父さんが」

と奏が何と言って良いのか困ってると

「和?ああ、休みなのは知ってたけど無理言って来てもらって本当正解だったな」

と相川は嬉しそうな顔をした。

「えっ?」

と奏が言うと

「和のおかげで今日のノルマは思ってたより早く終わりそうだし本当良かった」

と相川は笑った。

「父さんのおかげって…?」

と奏が聞くと

「和が愚痴聞いてくれたおかげで隼人のイライラも収まったし、慌てて作ってるから自分たちでも大丈夫か不安な曲を誉められてみんなやる気が復活してきたし、渉は歌詞の指導してもらえるし、誠も自分が先頭に立って仕切らなきゃならないプレッシャーでストレスたまってたみたいだけど、和とふざけあってストレス発散したみたいだし。そして何より、ここの空気がスゴい軽くなった。本当良いことづくめだよ」

と相川は笑った。

「そうなんですか?」

と奏が聞くと

「そうだよ。奏にレコーディングの様子を見学させてやろうって思って連れて来いって言ったけど、こんなに空気替えてくれるとは思わなかった。見学させるどころか助けられたよ」

と相川は笑いながら

「明日、来るんだろ?この調子なら奏の曲、じっくり聞いてやれそうだな…」

と言った。

すると予想に反して奏が困った顔をしたので

「どうした?やっぱり3人で出掛けるのか?…まったく和は。綾子のことも考えてやれよ」

と相川が文句を言ってると

「出掛けはしないと思うんですけど…」

と奏は言った。

「だったら来ればいいだろ?」

と相川が言うと

「…父さんにも言われたんですけど俺が相川さんの家に行くのって迷惑じゃありませんか?」

と奏は聞いた。

「迷惑?何で?」

と相川が聞くと

「だって、仕事で相川さん忙しいのに…。俺が家に行くと休みでも休めないし…」

と奏は言った。

「家に来てても、俺は寝たい時は勝手に寝てるしほとんど奏は一人で曲作りしてるだろ…。そう言えば、合鍵渡したんだから勝手に家に行ってスタジオ使って良いのに来てないだろ?」

と相川が言うと

「勝手に人の家に入るのは…」

と奏は言った。

「仕事から帰って奏の作ってる曲がどれだけ進んだか確認するのを楽しみにしてるのに、家に帰る楽しみ無くなるよ」

と相川が言うと奏は何とこたえて良いのか迷った。

「だからさ、好きな時に来て好きな時に帰っていいからどんどん使えって。そうしないとアドバイスしてやりたくても曲が進んでないからしてやれないだろ?」

と相川が言うと

「はい。じゃ、遠慮なく使わせてもらいます」

と奏は頭を下げた。

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