夕食での会話
「奏のこと?…あー、うちの事務所と契約とかって話ですか?」
と相川が言うと
『そう、探り入れてみてくれた?』
と結城は言った。
「探りって…』
と相川が言うと
『探りって言うと言葉悪いかも知れないけど、他からスカウトされてないかとか、どんな曲を作ってるかとか…芸能界に興味ないかとかさ』
と結城は言った。
「一応、音楽の仕事に興味あるみたいですからどうゆう仕事したいか聞いてみたんですけど、作曲とかプロデューサーに興味あるって言ってましたよ。で、今夜奏の作った曲を聞いてみることになったんですけど…」
と相川が話してる途中で
『えっ?聞いてみるって?それ、本当か?』
と結城は興奮気味に言った。
「はい、とりあえずどんなもんか聞いてみてアドバイスが欲しいって言うから」
と相川が言うと
『それさ、後でどんなもんだったか連絡くれよ』
と結城は言った。
「ちょっと待って下さいよ。本気で奏のこと入れるつもりですか?」
と相川が言うと
『もちろん』
と結城ははっきりとした口調で言った。
「もちろんって…。奏がやりたいって言ったらの話ですよね?」
と相川が言うと
『才能のあるやつにうちでやりたいって思わせるのが俺たちの仕事だろ?』
と結城は言った。
「才能って言ったってまだ曲も聞いてないし、どんなもんかわかりませんよ。それに奏は高校生ですよ。和たちはこのこと知ってるんですか?」
と相川が聞くと
『二人にはおいおい話をするよ。とりあえず、今は奏君だよ。奏君がやりたいって言ったら二人も反対出来ないだろ?』
と結城は言ったあと
『ごめん。ちょっと呼ばれてるから、この話はまた後で。10時以降なら何時でも電話取れると思うから必ず連絡してくれよ』
と言うと
「ちょっと待って下さいよ!」
と言う相川の言葉も聞かないうちに通話を切った。
「…」
相川はため息をついてスマホを袖にしまうと頭をグシャグシャとかいた。
あの話はその場限りの話だと思ってたのに…。
出来れば奏には自分で自分の進む道を決めて欲しいし和と綾子もそう思っているだろう。
多分、結城さんもそれを知っていて先に奏をやる気にさせて和と綾子が反対出来ない状態にしようとしているのだろう。
けど、まるで奏を丸め込むような事をして奏の人生を変えてしまって良いのだろうか?
相川はソファーから立ち上がると売店に寄るのも忘れてエレベーターに乗り部屋に戻っていった。
「おかえりなさい。…あれ?何で手ぶらなんですか」
と奏がイヤホンを取って聞くと
「あっ…。奏の言う通りもうすぐ飯だし我慢しようかな?と思ってさ」
と相川は笑いながら机の上にある便箋を見た。
「これ…」
と相川が言うと奏は慌てて便箋を閉じて
「何でもないです!」
と言ったが相川に便箋を取り上げられてしまった。
相川が便箋を見て
「…歌詞考えてたのか?」
と聞くと奏は真っ赤な顔をして恥ずかしそうに
「はい。でも、それは失敗で…。見ないで下さい」
と言って便箋を取り戻した。
「まぁ…良い歌詞だとは言えないけど、初めのうちはこんなもんじゃないか」
と相川が言うと
「ですよね?」
と奏はますます恥ずかしそうな…残念そうな顔をした。
「歌詞は俺でも難しいと思うよ。綾子も大嫌いだってほとんど書かないしな。アルバム作りの時に和に歌詞も半分ずつ作ろうって言われたのを駄々こねて2曲にしてもらってた上にその2曲も歌撮りの前日まで完成してこなかったし」
と相川が笑うと
「そうなんですか?」
と奏は驚いた顔をした。
「そうだよ。綾子は曲はどんどん作れるけど歌詞は昔から本当にダメなんだよ」
と相川が笑うと
「知らなかった」
と奏は言った。
「けど、数年に一度だけ曲から歌詞が降ってくる時があるらしくて…」
と相川が言うと
「歌詞が降ってくる?」
と奏は言った。
「俺にもわかんないけど、曲を作ってる段階から歌詞がどんどん浮かんできて曲の完成と同時に歌詞が完成するときがあるんだって。…例えばangles featherとかdarknessはそうらしいよ」
と相川が言うと
「そうなんですか…。それって他の曲と何が違うんですかね?」
と奏は聞いたが
「それは俺にもわからないし、綾子にもわからないみたいだよ」
と相川は時計を見て
「10分前だし、そろそろ飯食いに行くか?」
と言った。
ビュッフェ会場に入ると二人は席に案内された。
「とりあえずビール。…奏は?」
と相川が聞くと
「ソフトドリンクはセルフサービスになっておりますので…」
と ウエイトレスに言われた。
「そっか…」
と相川が少し恥ずかしそうにしてると
「相川さん、食事取ってきましょうよ」
と奏は言った。
ズラッと並んだ料理を見て奏が
「スゴいたくさんありますね。どれ取っていいか迷いますね」
と瞳をキラキラさせて言うと
「少しずつ取れよ。食べきれなかったら困るからな」
と相川は笑った。
「ですよね?」
と奏が生野菜を取ってると
「お前ん家、みんな野菜すきだよな」
と相川は笑った。
「そうですか?」
と奏が言うと
「そうだよ。特に綾子なんて放っておいたら野菜しか食べないんじゃないかって位野菜ばかり食べてるし…。そう言えば、あの二人は米食べないけど奏もやっぱり食べないの?」
と相川は聞いた。
「米ですか?3食キチンと食べますよ。それに父さんたちも朝だけはパワーが出ないからって米食べてますよ」
と奏が言うと
「朝は食べるんだ。絶対食べないんだろうなって思ってたよ」
と相川は言った。
野菜を取りその場で焼いてる肉を取り…と一通りの料理を取った二人が席に戻ろうとしていると、女子会かなにかで泊まりにきただろうと思われる女の子たちがチラチラと見ているのに気付いた相川は席に戻ると
「奏、お前はどこにいても目立つんだな」
と感心したように言った。
「何ですかそれ?」
と奏が聞くと
「あっちにいる女の子たちが奏のことを気にしてるからさ。本当、モテる男って言うのはどこにいても何を着ててもモテるんだな。羨ましいよ」
と相川は笑った。
「別にモテませんし…」
と奏が言うと
「それは無いだろ?その顔だよ。モテないって方がおかしいよ」
と相川は笑った。
「顔って…。俺、顔で好きだとか言われても嬉しくないですし」
と奏が言うと
「くぅ~。俺もそんなセリフ一度でいいから言ってみたいよ」
と相川は言った。
「俺は嫌ですよ。結局、外見しか見てないってことだし俺は自分の顔も好きじゃないですから」
と奏が言うと相川は少し考えてから
「でもさ、誰が見てもイケメンだし若狭家と早坂家の遺伝子を受け継いで産まれたら突然変異でも起きない限りはイケメンになっちゃうよ」
と言ったあと
「…実際さ、街で声をかけられたりとかするだろ?」
と聞いた。
「街で?それって逆ナンとかですか?」
と奏が言うと
「違う違う。スカウトだよ。芸能事務所とか雑誌とかの」
と相川は言った。
「スカウト?」
と奏が聞き返すと
「1度や2度はあるだろ?綾子なんて大手から中堅までいろんな所からスカウトされたみたいだし」
と相川は言った。
「まあ…何回かはありますけど。誰でも一度はされるんじゃないんですか?」
と奏が言うと
「そうゆうのってどこでされるの?」
と相川は聞いた。
「原宿とか表参道とか渋谷とか…。でも、あれって怪しいですよね?」
と奏が言うと
「怪しいところもあると思うけど、そうゆう目にあったことある?」
と相川は聞いた。
「俺は芸能界とか興味無いから声かけられても無視しちゃうんですけど、去年同じクラスだった奴がモデルにってスカウトされてついて行ったらカメラテストにってブーメラン水着履かされて写真撮られて…」
と奏が言うと
「ブーメラン?」
と相川は聞いた。
「はい。で、家に帰ってきて何かおかしいと思って調べたら事務所の名前はあったんだけど住所も電話番号も違ってたみたいで…。怪しいと思いながらも連絡してみたら全然関係ない普通の人の家に電話繋がっちゃって…」
と奏が言うと
「マジ?」
と相川は言った。
「はい。その上、カメラテストとか言われてた写真がゲイ専門誌に載っちゃって」
と奏が言うと
「おいおい、それヤバいだろ?」
と相川は言った。
「そうなんですよ。そいつ、騙されたことにスゴいショック受けて…そのうえしばらくの間、ゲイの人から声かけられたりすることもあったみたいで…。ノーマルの奴だから二重にショックだったみたいです」
と奏が言うと
「スカウト怖いな…。俺もそんな奴らと同類と思われないように気を付けないとな」
と相川は言った。
「だから、俺は街でスカウトする人って信用出来ないって言うか…。もともと芸能界に興味ないから声かけられても聞こえないふりしてたけど、それからは早足でその場を立ち去ることにしてるんです」
と奏が言うと
「そうゆう奴ばかりだとは思わないし、本当に大手とかでスカウトマンしてる人もいるけど見ただけじゃ区別つかないもんな」
と相川は言った。




