奏の夏休み 8
次の日、市場に行った奏は相川と一緒に一件の食堂に入った。
「やっぱりさ、海鮮丼かな。奏は何にする?」
と相川がメニューを見て聞くと
「俺、相川さんと一緒でいいですよ」
と奏はあくびをしながらこたえた。
「なんだ、まだ眠いのか?」
と相川が笑うと
「眠いですよ。6時に起こされるとか…信じられないです」
と奏は言った。
「朝からシャワー浴びたり忙しいだろうから余裕持って起こしてやったのに」
と相川が言うと
「だったら7時でも間に合いますよ。だいたい8時に出るって今まだ8時前ですよ」
と奏はまたあくびをしながら言った。
「8時に出るじゃなくて8時前には出るって言ったんだよ。それにこの店、人気だから早く来ないとメニューがどんどん売り切れるって口コミに書いてあったから」
と相川は言って店員を呼ぶと
「海鮮丼2つお願いします」
と言った。
「今まぁ、美味いもん食ったら目もさめるって」
と相川が言うと
「腹いっぱいになったら余計眠くなりませんかね」
と奏は言った。
「大丈夫、飯食ったら運動がてら市場見て歩くし眠気なんて吹っ飛ぶって」
と相川が言うと
「そう言えば、相川さんが由岐ちゃんたちとカニ鍋するって言ったら、セレブはやることが違うって父さんたち言ってましたよ」
と奏は言った。
「セレブ?なんで俺が?アイツらの方が稼いでるだろ?」
と相川が言うと
「夏にエアコンつけて鍋するなんてセレブの考えることだって言ってましたよ」
と奏は言った。
「奏の家では夏に鍋しないのか?」
と相川が驚いた顔をしたので
「うちはしませんよ」
と奏は言った。
「そっか、しないのか。だったら奏も鍋食べに来るか?」
と相川が笑うと
「えー。俺は遠慮しておきます」
と奏は言った。
「何だ?遠慮なんてしなくていいのに…」
と相川が言ってると注文した料理が運ばれてきた。
「スゲェな。具が丼からはみ出してるぞ。…食レポするなら海の宝石箱やーって感じか」
と相川が笑うと
「北海道来てからの相川さん、本当にいろんな発見あって面白いですね」
と奏は笑った。
「そうか?」
と相川は丼を一口食べて
「美味っ!イクラがプリップリッだよ!奏、お前も食べてみろ?これ食ったら目が覚めるから」
と言った。
奏は相川が少し大袈裟だなと思いながら丼から頭がはみ出してる海老を食べると目を丸くして
「めっちゃ甘い!相川さん、スゴいですよ。こんな甘い海老初めて食べましたよ!」
と言った。
「そんなに海老美味かったか?」
と相川が聞くと
「そんなにどころじゃないですよ!最強ですよ」
と奏は興奮気味に言ったので相川は笑いながら
「そんなに美味いなら俺の分も食べろよ」
と言って奏の丼に海老を入れた。
「えっ!いいですよ。相川さんも食べてみて下さいよ」
と奏が言うと
「いいから、いいから。朝からこの量はオッサンにはちょっとキツいんだよ。他にも欲しいネタがあったら遠慮しないで言えよ」
と相川は笑った。
食堂を出た二人は市場を見て歩き相川は蟹や鮭などの海産物を買い自宅に、奏は試食でとても美味しかったメロンを買って綾子の実家にとそれぞれ送ったあと、近くをブラブラと散策しカフェで涼んでいたが、相川は近くの席に座ってる大学生風の男の子をチラッチラッと見ていたので
「相川さん、何してるんですか」
と奏は小声で聞いた。
「えっ?何が」
と相川が言うと
「さっきから、あっちのお客さんのことをチラチラ見て…」
と奏は言った。
「いやさ、あの子の着けてるアクセサリーがお洒落だなって思ってさ。どこで買ったんだろう」
と相川が言うと
「相川さん、アクセサリー好きなんですか?着けてるの見たこと無いけど」
と奏は言った。
「うん、まあな。奏もアクセサリーしないよな。アクセサリー嫌いなの?」
と相川が言うと
「あまり好きじゃないって言うか…。それ買うなら、服買った方が良いような気がして」
と奏は言った。
「そうなんだ。和なんて自分でデザインするぐらいアクセサリー好きだし、気に入ったのあったら値札見ないで買うのにな」
と相川が笑うと
「それ、由岐ちゃんとかも同じですよ。服とか買うとき値札見てないですからね」
と奏も笑ってると相川は突然立ち上がり
「あ、あの子たち出てく。奏、俺たちも行くぞ」
と席を離れたので和も慌てて後を追った。
カフェを出ると相川は男の子たちの後ろを追って肩を叩くと
「ねぇねぇ、君たち」
と男の子たちに声をかけたので奏は驚いた顔をしたが、それは突然肩を叩かれ声をかけられた男の子たちも同じだった。
男の子たちが、派手なタトゥーが腕に入ってる中年…相川に驚いた顔をしてると
「急にゴメンね。怪しい奴じゃないから安心して」
と相川は言ったあと1人の男の子を見て
「俺たちさ、東京から来たんだけど君の着けてるアクセサリーお洒落だよね。それ売ってる店を教えて欲しいんだけど無理かな」
と言った。
「えっ…」
と男の子たちが驚いた顔をしてると
「売ってる店を教えてくれるだけで良いんだよ」
と相川は言った。
男の子たちは顔を合わせてから
「いいっすよ。これから行こうと思ってたんで、一緒に行きますか?」
と言ったので
「マジ?いいの?」
と相川は嬉しそうな顔をした。
奏と相川は男の子たち…斉藤と山田と和田部に連れられて店を目指している間、見た目に反して気さくな相川と男の子たちはすぐに打ち解け話をしながら歩いた。
「そこの店ってオーナーがオリジナルで作ってるから全部一点物なんですよ」
とその店のアクセサリーが好きだと話していた和田部は言ったあと
「でも、俺らには結構いい値段するんでバイト代貯めて買って感じなんですけどね。シルバーのアクセサリーの他にレザーの商品とかもあって…」
と言った。
「そうなんだ。で、今日は何を見に行くの?」
と相川が聞くと
「ターコイズが入ったバングルをバイト代入ったら買いに来るからって取り置きしてもらってて、それを取りに行くんです」
と和田部は嬉しそうな顔をしながら
「ここです」
と和田部は一軒の店の前で言った。
「へぇ、ここか」
と相川が言うと男の子たちは店のドアを開けて
「こんちは~」
と店内に入って行ったので奏たちも後に続いて入った。
「いらっしゃい」
と店の奥から声をかけてきたのは長髪を1つに束ねてあごひげを生やしてる30ぐらいに見えるオーナーだった。
「オーナー、新しいお客さん連れて来ましたよ」
と山田が言うと
「お客さん?」
とオーナーは言った。
「そう、俺の着けてネックレス見て売ってる店を教えて欲しいって言うから連れて来ました」
と山田が言うと
「こんにちは。突然すみません」
と相川は軽く頭を下げた。
「いえいえ、狭いんですけどゆっくり見てって下さい」
とオーナーが言うと
「オーナー、取り置きしててもらったバングルやっと買えますよ」
と和田部は言った。
和田部たちがオーナーと話をしている間、相川は店内にディスプレイされてるアクセサリーをゆっくりと見ていたが、奏は1つのネックレスの前で立ち止まりじっと見ていた。
「奏?いいのあった?」
と相川が聞くと
「あ…いえ…」
と奏はネックレスから視線をずらして言った。
相川は奏が見ていたネックレスを手に取り
「奏、着けてみたら?」
と言った。
「でも、買わないし…」
と奏が言うと
「オーナー、これ試着してみても大丈夫ですか?」
と聞いた。
話をしていたオーナーは奏たちのところに来て
「どうぞ。鏡の前でぜひ着けてみて下さい」
と言って相川からネックレスを受けとると奏の首にかけた。
「似合うな」
と相川が言うと
「そうですね。少し大人っぽいかと思いましたが息子さんイケメンだからシンプルなデザインも似合いますね」
とオーナーが言うと相川はニヤニヤ笑って
「息子さんだって。よし、これ買うか?」
と言った。
「えっ?だってこれヘッドだけで2万以上もするんですよ。これにチェーン入れたら…」
と奏が言うと
「何言ってるんだよ。昨日、結城さんにグラス買ってもらったんだろ?だったら俺だってお前に買ってやってもいいだろ?」
と相川は言った。
「でも…」
と奏が言うと
「旅行の記念にと思ってさ。こうゆうのは有り難く受け取っておけ」
と相川は笑った。
会計が終わった相川が他の商品を見ていた奏にネックレスの入った袋を渡すと
「あの…これって今着けても大丈夫ですか?」
と奏は相川とオーナーに聞いた。
「どうぞどうぞ」
とオーナーが言うと奏は袋の中から箱を取りだし、ネックレスを出すと首にかけて嬉しそうな顔をした。
「…」
奏の嬉しそうな顔を見ていた相川は、本当はアクセサリーにも興味があるけど服とかと比べると値段が少し高めなので由岐たちにも遠慮して奏は興味の無いふりをしていたのだろうかと思いながら
「うん。やっぱり似合うな」
と笑うと
「ありがとうございます。大事にします」
と奏は嬉しそうに笑った。
和田部たちと店の前で別れた奏たちが札幌駅に向かうため地下鉄に乗ると相川は時計を見て
「12時半か…。なぁ、ジップ行って入待ちしてみない?」
と言った。
「入待ちですか?」
と奏が聞くと
「そう入待ち。アイツらもう移動してるって思ってるんだろ?だからさ、ファンに紛れて入待ちして驚かせてやろうと思って」
と相川は笑った。
「えー、やめましょうよ」
と奏は言ったが
「いいじゃん。アイツら俺たちに気付いたらどんな顔するかな?スゲェ楽しみ」
と相川は嬉しそうに笑い大通り駅に着くと
「さ、乗り換えだから降りるぞ」
と言った。




