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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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奏の夏休み 7

和たちと別れた奏が部屋のインターホンを鳴らすと、少し酔った顔の相川がドアを開けて

「おかえり」

と奏を出迎えた。

「一人で飲んでたんですか?」

と奏が言うと

「いや、さっきまでススキノで知り合いと一緒に飲んでたんだよ」

と相川は上機嫌で笑った。

部屋に入ると奏は綾子に渡された紙袋を相川に差し出し

「これ、小樽のお土産です」

と渡した。

「お土産?」

と相川が紙袋を覗くと化粧箱に入ったワインが入っていた。

「…おたるワイン?」

と相川が聞くと

「母さんからです」

と奏は言った。

「綾子からか…。これは明日の夜にでも飲もうかな」

と相川は嬉しそうな顔をすると

「小樽は楽しかったか?」

と奏に聞いた。

「母さんなんて、食べれもしないのに次々と注文して俺や父さんに無理やり食べさせたり。父さんは父さんでナナさんハグして鼻血出させるし…」

と奏が笑ってると

「ナナさん?」

と相川は聞いた。

「相川さん覚えてませんか?函館で一緒になった女子大生」

と奏が言うと

「あー、ナゴミが大好きだって言ってたあの二人か?ナナちゃんとユイナちゃんだっけ?何、あの二人に会ったの?」

と相川は聞いた。

「はい、ナナさんだけですけど小樽運河で偶然会って…」

と奏が言うと

「で?和と綾子のことバレちゃったの?」

と相川は聞いた。

「はい。でも、夜で暗かったしナナさんも騒ぐ訳じゃなかったから他の人にはバレなかったですよ」

と奏が言うと

「じゃなくて、奏が二人の子どもってことだよ」

と相川は心配そうに言った。

「はい。でも、俺が思ってたのと全然違って話をしててもその事には一切ふれないでくれて…。そういえば相川さんが一緒じゃないのか?って聞いてましたよ」

と奏が言うと

「俺?俺のこと覚えててくれたんだ」

と相川は驚いた顔をした。

「はい。相川さんにもよろしくって言ってましたよ」

と奏が言うと

「へぇ…。俺ももう一度会いたかったな」

と相川は言った。

「ツアー最終日のジップ東京に函館で一緒だったユイナさんと来るって言ってましたよ。もし、また会えたら食事に行こうとも言ってましたし」

と奏が言うと

「それってさ、俺とじゃなくて奏とってことだろ?」

と相川はニヤニヤしながら言った。

「えっ?違いますよ。友達も一緒にって言ってたし相川さんも一緒に…」

と奏が言うと

「違うって。本当は奏と二人で行きたいけど、そう言えないから友達も一緒にって言ったんだよ」

と相川は笑った。

「違うと思うけど…」

と奏が言うと

「で?さっき言ってたハグして鼻血って言うのは?」

と相川は聞いた。

「あー、それは母さんが俺と相川さんがお世話になったお返しに父さんにハグしてあげたら?って言って…。父さんがハグしたら暑かったからか父さんが調子にのってエロいことを言ったからかわかんないんですけど、ナナさんが突然鼻血出しちゃって」

と奏が言うと

「マジ?」

と相川は笑った。

「それで、父さんが母さんに調子にのりすぎだって怒られて。そのあと、いつも通りのバカ夫婦の恥ずかしいやり取りしてて…。それを見てたナナさんが、今まではナゴミと綾子の夫婦が格好よくて憧れだったけど、今は俺の父さんと母さんが理想で憧れの夫婦だって。あんなバカ夫婦のどこに憧れるだか」

と奏が言うと

「いくつになっても付き合い始めた頃のように仲良くベタベタしてるのって女の子は憧れるんじゃないの。それにあの二人の場合は仕事とプライベートのギャップが大きいから、そこが更にいいんじゃないの?」

と相川は笑ったあと

「でも、お前のことも二人のことも表に出ないか心配だな」

と言った。

「大丈夫だと思いますよ。ナナさん、今日のことは一生忘れない宝物にするって言ってたし誰にも言わないって約束してくれたし…」

と奏が言うと

「だったら良いけどな…」

と相川は言った。

「大丈夫だって。相川さん、心配し過ぎですよ」

と奏が笑うと

「そうだな。心配し過ぎかもな」

と相川も笑った。

「そうですよ。で、相川さんは知り合いは元気でしたか?」

と奏が言うと

「ああ、仕事も順調らしくてスゴい元気だったよ」

と相川は嬉しそうに笑った。

「知り合いの人って…昔一緒に仕事してたって言ってましたよね?」

と奏が聞くと

「そうだよ。うちの事務所のミュージシャンだったからね。俺がプロデュースしてたんだよ」

と相川は言った。

「ミュージシャンだったんですか?」

と奏が驚いた顔をすると

「まあ、俺が見つけた奴じゃなかったけどスゴい素直で仕事にも一生懸命でいつかナゴミや渉みたいになりたいって頑張ってたからスゴい可愛がっていたんだけど運を味方に出来なかったのか全然売れなくてさ。事務所との契約期限が近付いてきたときには本人もこの先どうしようかと悩んでて…。俺は続けて欲しい気持ちがあったけど売れるって保証もないし事務所は本人の希望に任せて無理に引き留めるつもりはないって言ってたし…」

とと相川は言った。

「えっ?契約ってそうゆうもんなんですか?更新したくないって言ったら終わりなんですか?」

と奏が聞くと

「まぁ、本人に意志が無ければ仕方ないだろ。と言っても清雅やボレロやSperanza…他にも手放したくないミュージシャンの場合はあの手この手と事務所もレコード会社も相手が納得する条件を提示して更新してもらえるようにするけど…。もう、無理だなって思うミュージシャンには更新の度にあの手この手なんて使わないし、こっちから契約打ち切りにすることもたくさんあるよ」

と相川は言った。

「そうなんですか…。何か怖いですね」

と奏が言うと

「そうだな。事務所に入った子たちは自分もアリーナツアーしたいとか…うちの事務所なら海外進出してるのもいるからいずれは自分も海外でなんて大きな夢を持って入ってくるんだけど、そんなの出来るのは一握り。夢を持つのがダメとは言わないし夢を追いかけてる奴は可愛がってやりたくなるよ。けど、こっちもビジネスだからね。…って話がずれちゃったけど、今日会った奴は契約時期が近付いてきたときに親父さんに癌が見つかってさ。それも末期…。まだ高校生の妹がいたしミュージシャンとしてもやってくには限界も感じてたみたいでアイツは実家に戻って農業継いだんだよ」

と相川は言った。

「農業?」

と奏が聞くと

「そう。で、親父さんの跡を継いで今は農場も大きくして頑張ってるみたいだったよ」

と相川は笑ったあと

「自分の家で収穫した野菜を食べさせくれたり畑を見せてくれたり、農業の話をしてくれたり…。アイツがスゴい生き生きとして毎日を過ごしてるんだなって思ったら嬉しかったよ」

と相川は嬉しそうに笑った。

「その人は幸せなんですね」

と奏が言うと

「そうだな。多分、あのまま東京にいたらあんなに生き生きと暮らしてはいなかっただろうし、あんなに幸せな家庭も持てなかったかもな」

と相川は笑った。

「羨ましいとか思いました?」

と奏が聞くと

「そりゃ自然に囲まれてキレイな空気吸って暮らすのって憧れるよ。それに家族だって俺には無いものだからね」

と相川は言った。

「相川さんも結婚すれば良いじゃないですか?」

と奏が言うと

「あのな…。この歳になると簡単じゃないんだよ」

と相川は言った。

「でも、相談所とかもあるし少し妥協すれば相川さんお金持ってるしすぐに結婚出来ますよ」

と奏が言うと

「そうゆうのじゃ無いんだな。奏にはわからないかも知れないけど、この歳まで一人生活してると人と一緒に暮らすのって大変なんだよ。生活のスタイルやサイクルを変えてまで他の人と暮らすのが難しいって言うかさ」

と相川は言った。

「それは少し我慢しないと」

と奏が言うと

「恋愛もそうだけど我慢なんてしてたら長く続かないんだよ。我慢はストレスだし不満はいつか爆発するだろうしね。だから、俺の理想の相手は胸がデカイとか顔が可愛いとかじゃなくて、一緒にいても苦痛に感じない人。一緒に暮らしてもお互いに我慢してるって感じない人」

と相川は笑った。

「そんな人いますか?」

と奏が言うと

「いるだろ、お前の近くに」

と相川は笑った。

「近く…。あっ、父さんと母さん」

と奏が言うと

「そう。あの二人のことを奏はバカ夫婦って言うけど、あれってスゴい事だよ。和が甘えてワガママ言っても綾子は常に笑って受け止めるし、和は自分を後回しにしてでも綾子のことを常に考えて先回りして綾子を支えてる。そして、それをどんなに忙しくても疲れてても苦痛とか義務とか思って行動してる訳じゃない。相手のためにすることが自分の喜びとして行動している。簡単に見えて実は簡単じゃないことを普通にやってる…あれこれ理想だな」

と相川は言った。

「見方を変えるとそうゆう風に見えるんですか?俺にはやっぱりバカ夫婦にしか…」

と奏が言うと

「まぁ、バカ夫婦って言ったらそうなんだけどさ。ナナちゃんが二人に憧れるって言ったのも俺は納得できるよ」

と相川は言ったあと

「さ、明日は8時前にはホテル出るから早く寝るぞ。さっさとシャワー浴びてこい」

と相川は奏の頭を撫でた。

「えっ?8時に出るんですか?早すぎません?」

と奏が言うと

「何言ってるんだよ。市場って言ったら朝早いの当たり前だろ。8時でも遅いかな?って思ってるのに」

と相川は言った。

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