家族で 1
13時、少し前にロビーに出てきた奏は和たちの姿をキョロキョロ探していた。
まさか、寝坊?
と奏が思っていると、和と綾子がエレベーターから降りてきて奏の所にやって来た。
「あれ?結城さんたちは?」
と綾子が聞くと
「何か電話してるみたい。ここで待っててって言ってたよ」
と奏は言った。
「電話?今日も仕事か?」
と和は言ったあと奏の服装を見て
「今日もお洒落な格好してるな。それは誰にもらったの?」
と聞いた。
「これは、シャツはわっ君でパンツは由岐ちゃんと買いに行ったんだったかな」
と奏は言うと和と綾子を見て
「二人のそれは一応変装?」
と聞いた。
「何が?」
と和が聞き返すと
「眼鏡と帽子」
と奏は言った。
「サングラスだと余計に目立つだろうからだて眼鏡と帽子はね…。これでも顔は売れてる方だから」
と和が笑うと
「何が売れてる方よ…。パパの眼鏡と帽子も私の帽子もファッションで変装なんかじゃないからね」
と綾子は笑った。
和と綾子のファッションは自分でも真似したくなるぐらいお洒落でアクセサリーもさりげなく着けてるけどカッコいいけど…帽子やだて眼鏡はファッションじゃないって事は奏にも気付いていた。
ツアー先とはいえ、家族で観光に行くのにマネージャーが着いてきたりするのもそうだけど、やっぱり二人は芸能人なんだな…と奏が思ってると
「いやいや、お待たせ。さ、車も来てるし行こうか?」
と結城と山下がやってきて言った。
車に乗り込むと5人は最初の目的地に向かった。
「プロモーターさんに連れてってもらったんだけどピザが美味しかったんだよね。あと、渉が食べてたパフェも美味しそうだったな」
と綾子が嬉しそうに言うと
「昨日だって結構食べたんだし、あんまり食べると太るよ」
と和が笑った。
「大丈夫だって。明日から気をつけるから」
と綾子が言うと
「はいはい。そうだね、明日から気を付ければいいね」
と和は綾子の頭をポンポンと叩いた。
円山にある六花亭に着くと喫茶室に向かう途中の売店を横目で見て
「うわ…ケーキ美味しそう。こっちの詰め合わせも美味しそう」
と綾子は目を輝かせて言った。
「買い物は後からですよ。まずはご飯食べましょう」
と山下が言うと
「わかってるわよ。ね、後で見てってもいい?明日、差し入れに持って行きたいんだよね」
と綾子は言った。
喫茶室に入ると、和と綾子と奏、結城と山下とわかれてテーブルに座った。
「一緒に座らないんですか?」
と後ろの席に座る結城たちに奏が聞くと
「そこまで邪魔はしないよ。ご飯ぐらい家族で食べな」
と結城と山下は笑った。
「そうだよ。それに結城さんたちは俺たちと座ると気を使っちゃうから別々座った方がいいんだよ」
と和が言うと
「そうだよ。今日は休みだし少しでもお守りから解放されたいんだよね。奏君、二人の事頼むよ」
と結城はメニュー表を見て笑った。
オーダーを頼み終わると
「デザート2つも食べれるの?」
と和は綾子に言った。
「そう?大丈夫だよ。3人で食べれば食べれるって」
と綾子が言うと
「俺たちも食べるの?」
と奏は驚いた顔をした。
「もちろんだよ。1人でかき氷もパフェもって食べれないよ」
と綾子が笑ってるとコーヒーが運ばれてきた。
その後も3人は話をしていたが、後ろの席がとても静かなことに気づいた奏が結城たちを見ると、二人はPCを開いて仕事をしていた。
「…」
奏が結城たちを見てると
「どうした?」
と和は聞いた。
「いや、仕事してるのかなって思って…」
と奏が言うと
「結城さんはあんな風に見えて副社長だからね。人の2倍以上働かないとなんないんだよ」
と和は言った。
「副社長?」
と奏が驚いた顔をすると
「そうだよ。まぁ、俺たちの仕事は山下君と佐伯にだいぶ振ってるみたいだけど、最終的な判断は結城さんがしなきゃなんないし事務所の仕事もあるし…。どうして大変になるのがわかってて自分からマネージャーやりたいって言ったか謎だよ」
と和はコーヒーを一口飲んで話してると、3人が注文したメニューが運ばれてきた。
「ハヤシライス美味しそうだね。ホタテご飯も美味しそうだし…」
と綾子が言うと
「だったら交換してあげようか?」
と和は笑った。
「いいよ、いいよ。私はずっとピザ食べたかったんだから」
と綾子が言うと
「じゃ、俺の少しあげるからピザも少しちょうだい。それだったらいいでしょ?」
と和が言うと綾子は嬉しそうな顔をした。
「ハヤシライスも美味しいから少し食べてみなよ」
と奏がスプーンを差し出すと綾子は更に嬉しそうな顔をして、スプーンを受け取りハヤシライスを食べて
「んー、美味しい」
と言った。
その後も、奏が北海道に来てからの話をしたりして、楽しく食事を食べ終えると綾子が頼んだデザートが運ばれてきた。
置かれたイチゴパフェにたくさんの苺が乗ってるのをみて綾子は
「奏、苺好きでしょ?全部食べていいよ」
と笑った。
「全部?」
と奏が言うと
「うん、いっぱい食べな」
と綾子は言ってかき氷を食べて
「うわ、この氷ミルクの味がする。ちょっと食べてみてよ」
と言ってかき氷をすくったスプーンを和に差し出した。
和が綾子の差し出したスプーンを口に入れると
「本当だ。美味い」
と笑ったので
「でしょ?奏も食べてみてよ。スゴい美味しいよ」
と今度は奏の前にかき氷をすくったスプーンを差し出したが、
「いや、俺はこのスプーン使うからいいよ」
と奏は自分のスプーンでかき氷を食べた。
「本当だ。スゴい美味しい」
と感動したみたいに奏が言うと
「ねぇ、パフェはどうだろ?奏、食べてみてよ」
と綾子は言った。
奏は綾子に言われるままパフェのソフトクリームの部分を口に入れると
「スゴい濃厚だよ。牛乳食べてるみたい」
と言った。
「本当?ちょっともらってもいい?」
と言って和は苺とソフトクリームをスプーンにすくって食べた。
「えっ?苺も?」
と奏が驚いた顔をすると
「いっぱい乗ってるんだからケチケチするなよ」
と和は笑った。
旅先と言う解放感と言うか非現実的な時間にいるせいなのか、それとも東京と違って常に人目を気にしなくていいからかなのかわからないけど、和も綾子もスゴく楽しそうで…家族で出掛けるなんて今まで嫌だったけどこんなにいろんなことを話したり笑って楽しいことだったんだなと奏が思っていると
「どうした?苺食べたのが気にくわないの?」
と和が笑って言った。
「苺ぐらいで拗ねないよ。誰かじゃあるまいし…」
と奏が言ってると、後の席に座っていた結城と山下が席を離れて少し年配のウェイターのところへ歩いて行ったので奏は何かあったのかな?と気になった。
「…」
奏が結城たちの方を見ると二人はウェイターと何か話をしていた。
何を話してるんだろう?と奏が思っていると
「奏、早く食べないと溶けちゃうよ」
と綾子は言った。
「あ…うん」
と奏が言うと
「かき氷も食べていいからね」
と綾子は笑った。
「えっ?かき氷も?」
と奏が言うと
「頼み過ぎて食べれなくなったんだって。本当、食い意地張りすぎだよな」
と和は笑っていたが、奏は結城たちが少し離れた席に向かって歩いているのを横目で追って見ていた。
「!!」
奏は、結城たちが向かってる先の席に座ってるカップルのスマホが自分たちに向けられているのを見て驚きのあまりすぐに目を反らしてパフェを食べた。
和と綾子は気付いてないのか笑いながら話をしていたが、奏の耳には二人の話よりも離れた席にいる結城たちの声が耳に入ってきた。
「お客様申し訳ありません。他のお客様の撮影はプライバシーの問題もありますのでお止め頂けませんか?」
とウェイターが言うとスマホを向けていた大学生ぐらいの男性が
「他のお客なんて撮ってないよ。何で他人なんか撮らなきゃなんないの?」
と言った。
「そうよ。あの壁に貼ってある絵が気に入ったから撮ってただけよ。それに写り混んだだけでしょ?逆にあの人たちが邪魔で全部入らないのに…。それなのに何で私たちが悪いみたいに言われなきゃならないの?」
と一緒にいた女性が怒ると
「そうですか…。申し訳ありません」
とウェイターは困った顔をして結城を見た。
「では、私どもはすぐに席を離れますので、今撮影した物は私たちの目の前で消去して頂いて再度撮影して頂いてもよろしいでしょうか?」
と結城が言うと
「えっ?何言ってるの?」
と男性は言った。
「そうよ。何であんたたちの前でそんなことしなきゃならないのよ」
と女性が言うと
「お客様がわざとじゃないとはいえ、私たちにもプライバシーはございますから…。後程、プライバシー問題で大事になるよりもこの場で収める事が出来ればお互いに良いのではと思ったのですが…」
と結城は言った。
「…」
カップルは結城と山下の毅然とした態度に観念したようにスマホを2つ差し出し
「わかりました。消しますよ!」
と言って撮影した画像の全てを結城の前で消去した。
画像のほとんどが和と綾子の写真や動画で誰がどう見ても壁に貼ってある絵を撮ってたとは言えないものだったが
「ありがとうございます」
と結城と山下…そしてウェイターは頭を下げた。
「もういいよ。本当、言い掛かりもいいとこだよ」
と男性はふてくされた声で言い、女性はまだ納得出来てない顔をしていたので、再度結城と山下は二人に頭を下げて席に戻ってくると
「さ、次の予定も入ってるしそろそろ行きましょうか?」
と和は言った。
「でも、まだ食べてる途中だろ?」
と結城が言うと
「誰かが食い意地張って頼んだけど食べれきれなかったんですよ」
と和は笑った。
「…そっか、悪いな。じゃ、買い物してくんだろ?俺は会計していくからお前ら先に売店行ってろ」
と結城が和たちのテーブルに置いてある伝票を取ろうとすると
「何言ってるんですか?今日は仕事じゃないんだしたまには俺たちに奢らせて下さいよ」
と和は言った。
「でも…」
と結城が言うと
「気にしないで下さい。夜は結城さんの奢りで頼みますから」
と和は笑ってから
「奏、結城さんたちと先に売店行ってて。俺たち会計してから行くから」
と言った。
奏が結城たちと売店の方へ歩いていく途中で後ろを振り向くと和と綾子は会計レジとは違う方向へ歩いて行っていた。
「…」
奏が立ち止まって二人を見てると
「どうしたの?」
と結城が聞いた。
「いえ、二人が…」
と奏が言ってると和と綾子は先ほどスマホを向けていたカップルの方へ歩いていき話しかけて握手をしていた。
「別にあいつらがそんなことする必要無いんだけだけどな…」
と結城が言うと
「あれは綾子さんの影響ですね。綾子さんは本当にファンを大切にしますからね」
と山下は言ったが、盗撮みたいに画像撮っていた相手にわざわざ会いに行って握手までするなんて…奏は二人の行動の意味が理解出来なかった。




