二人の夜
日付が変わると、昨日までの激務の疲れとそれに追い討ちをかけるアルコールの力でスタッフは1人また1人と睡魔に負けて眠りにつくものも出てきた。
また、和は綾子の膝に頭を乗せて寝たふりをしながら話を聞いていたが、話の内容が綾子が曲を提供し直則がレコーディングやライブをサポートしている清雅の話になると途中で和は眠ってしまった。
「なっちゃん、そろそろ起きて」
綾子に頭を揺らされて和が目を開けると
「すげぇ、一発で起きたよ。和、本当は起きてたんじゃないの?」
と直則は言った。
「…ん?」
まだ寝ぼけている和に
「和、おひらきだから帰るぞ」
と結城は言った。
「おひらき…?あ…そっか」
と言って和は綾子の膝から頭を上げると一度グーっと伸びをしながら
「あー、眠い。早く帰って寝たい」
と言った。
ホテルに着いた和は
「奏、明日は13時だから寝坊するよな」
と言った。
「大丈夫だって。父さんこそ寝坊しないでよ」
と奏が言うと
「明日、オフだからって朝までイチャイチャしたりするなよ。遅刻するんだからな」
と相川は笑った。
「相川さん、発言が親父くさいですよ。イチャイチャなんてしないですぐ寝ますよ」
と綾子が呆れたように言うと
「え?イチャイチャしないの?」
と和は驚いた顔で聞いた。
「しないよ。今日はゆっくり寝るって決めてるんだから」
と綾子が更に呆れた顔でエレベーターに乗り込むと
「そんな…」
と和は残念そうな顔をしながらエレベーターに乗り込んだ。
「綾子は俺たちがいるから恥ずかしがってるだけで、ちゃんと心も身体も癒してくれるって」
と相川が和の肩を叩いて笑うと
「いいえ、寝ます。本当に、相川さんの発言は次から次へと親父くさいんだから。今までそんなこと言う人じゃなかったのに…。奏もいるのに本当やめて欲しい」
と綾子はブツブツ言った。
「何言ってるんだよ。奏がいるのにって言うけど、お前らがイチャイチャしてるの年中見て育ってる奏が今さら驚きもしないだろ。なあ?」
と相川が奏に言うと
「まあね。二人が良ければそれでいいんじゃない?別にどうでもいいって言うか俺に関係ないし」
と奏は言った。
綾子が信じられないといった顔をしているとエレベーターが止まり扉が開いた。
「じゃ、父さん明日寝坊しないでよ」
と奏と相川が降りるとエレベーターの中には和と綾子だけになった。
和は綾子の髪をツンツンと引っ張り
「ねぇ、本当に寝ちゃうの?」
と聞くと
「しつこいよ」
と綾子が言ってる間にエレベーターが止まり扉が開いた。
「あ…そ…」
と和は綾子の髪を触っていた指を離すと
「だよね。疲れてるもんね。じゃ、仕方ないか」
と笑ってエレベーターを降りた。
部屋に入ると
「あー、1日長かったね」
と言って和はシャツを脱ぎ
「ごめん。身体ベタベタして気持ち悪いから先にシャワー使わせてもらうよ」
とシャワールームの方へ歩き始めた。
「なっちゃん!」
と綾子が引き留めるように声を掛けると
「何?」
と和は振り向いた。
「あ…。背中流してあげようか?」
と綾子が言うと和は微笑みながら綾子の頭をポンと叩いて
「疲れてるんだから無理しなくていいよ」
と言って一人でシャワールームに入ると鼻唄を歌いながらシャワーを浴びていた。
和は綾子が今日は何もしないで寝ると言って自分のことを焦らしているのをわかっていたが、ちょっとした意地悪をしてやろうと考えて綾子の意見を尊重してるふりをした。
「あー、早く綾子来ないかな?」
和は綾子がしびれを切らして自分からシャワールームにくるのを今か今かと待ちながらシャワーを浴びていたが綾子がなかなか来ないので、もしかしたら綾子が焦らしているって勝手に勘違いしただけかもとシャワールームから出てきた。
和がシャワールームから出てくると綾子はスマホをいじっていた。
「何してるの?」
と髪を拭きながら和が聞くと綾子は顔を上げて
「インスタにアップしてたの」
と言ってジンギスカン鍋とビールのジョッキの写真を載せたスマホを見せた。
「打ち上げ?」
と和が聞くと
「うん。初日終了の打ち上げってことで載せたの」
と綾子は笑った。
「ふーん」
と和は微笑みながら綾子の隣に座ると
「綾子も早くシャワー行っておいで。寝る時間少なくなっちゃうよ」
と言った。
「…」
綾子が何か言いたそうな顔で自分を見ていたので何を伝えたいのか和はなんとなく気付いたが
「どうしたの?早く行っておいでよ」
と何も気付いてないふりをした。
「うん。じゃ、行ってくるね。…先に寝てていいからね」
と綾子がシャワールームに入っていくと和はベッドに横になりニヤニヤと笑いながら
「あー、可愛い。したいならしたいってはっきり言えばいいのに。何で言わないかな」
と言った。
一方の綾子は和が怒っているのかと考えていた。
札幌に来てからも来る前も忙しくて同じベッドで眠っても何もしていなかったから、一昨日の夜から初日が終わればしようねって約束していたのに、眠いから寝るなんて言って怒らせてしまったのだろうか?
でも、奏や相川のいる前でイチャイチャしようねなんてさすがに言えないし…。
いや、もしかしたら和も疲れていて本当に寝たいだけかもしれない。
その気があったら、背中流すって言った時に断ってきたりしないし…怒ってるならふて腐れた顔するけど笑ってたし。
「そっか。そっちが正解か」
イチャイチャするもんだと思ってた自分だけがスゴいしたいみたいで恥ずかしいと綾子は思った。
シャワーの流れる音が消えるとベッドに入っている和は目を閉じた。
自分が先に寝てたら綾子はどうするかな?
さすがに自分から誘ってくるかな?
いやいや、綾子はそうゆうところで恥ずかしがるから言葉では誘わず抱きついてくるんだろうな。
和はこれから起きる出来事を思うとウキウキワクワクしていた。
シャワールームのドアを開ける音がした和は気を抜くとすぐにニヤけてしまう顔をグッと堪えて敢えて横向きに寝たフリをした。
綾子が抱きついてきたらまずは寝ぼけたフリして抱き締めかえしておでこにキスして…でもそれ以上意地悪したら綾子が可哀想だし耳にキスして『しようよ』って自分から言ってあげようか。
綾子は本当に耳が弱いからな…。
と、和が考えてると綾子が側に来て
「あ…寝てる」
と呟いた。
綾子がまんまと騙されてると思うと和は嬉しくて笑いそうになっていたがそれをジッと堪えて寝たフリを続けていると、綾子は歯を磨きに行ってしまった。
「本当、面白いな」
と和が笑っていると綾子が戻ってくる音がしたので和はまた横を向いて寝たフリをした。
すると、綾子はベッドの脇で
「11時に起きれば間に合うかな」
と独り言を言ってスマホのアラームをセットしていたが、和は早く綾子がベッドに入って抱きついてくるを今かと今かと待ちわびていた。
少しして綾子はスマホを置くと枕元にあるライトの明かりを一番暗くして、和を起こさないようにゆっくりと静かにベッドに入った。
「…?」
あれ?後ろから抱きついてくると思ったのに自分の背中と綾子の背中をピタッとくっつけるだけ?と和が思った次の瞬間、綾子が足の指が和のふくらはぎを擦った。
和が寝てると思い込んでいて起こすことも出来ず、それでも肌にふれたいと足をくっつけてくる綾子がとても可愛く愛しく思えた和は
「綾子くすぐったいよ」
と背中越しに笑った。
「あ…ごめん」
と綾子の足が和から離れると和はゴソゴソッと向きを変えて綾子を後ろから抱き締めると
「何でこんな可愛いことするかな」
と言って首にキスをした。
「ごめん。起こした…よね」
と綾子が聞くと
「うん。…ねぇ、しようよ」
と言って和は抱き締めていた腕に力を入れて耳にキスした。
「でも、眠いんでしょ?」
と綾子が聞くと和は綾子の身体を仰向けにすると
「目覚めた。それに今日するって約束してたでしょ?」
と言って唇にキスをすると
「ミントの味がする」
と笑うと自分の身体と綾子の身体を起き上がらせた。
和は綾子の着ているTシャツを脱がすと綾子の前に腕を上げて
「脱がして」
と甘えた声で言った。
綾子が笑いながらTシャツを脱がすと
「何笑ってるの?」
と和は聞いた。
「だって…」
と綾子が笑うと
「そんな笑ってる余裕なんてすぐになくなるんだから」
と言って綾子の唇、頬、耳、首筋…へと自分の唇を這わせながら履いてるズボンを脱がせると綾子の手を自分の履いてるハーフパンツに持っていき
「ね、脱がせて」
と上目遣いで綾子を見てまた甘えた声で言った。
「もう…」
と綾子が和の唇にキスをしながら和の履いてハーフパンツを脱がすと
「ヤバイな…」
と和は言いながら身体を倒すと綾子の身体に唇を這わせた。
綾子の全身を唇と指先で愛しそうに愛撫している和は腸骨の少し下にキスマークをつけて
「あ、綾子が俺の物って印つけちゃった」
と笑ったあと
「綾子も俺が綾子の物って印つけてよ」
と言った。
「でも……仕事もあるし」
と綾子が困った顔をすると
「俺みたいに誰にも見られない場所につければいいんだよ」
と和は笑った。
「見られない場所?」
と綾子が考えてると
「そうそう、俺と同じところにつければ見えないでしょ?」
と和はぐるりと身体を回し綾子を自分の身体の上に乗せた。
「…」
綾子は和が綾子にしたのと同じように和の身体に自分の唇を這わせた。
綾子の舌が脇腹を這っていると和はビクッと身体を反らしたので綾子は和の顔を見上げて
「なっちゃん、ここ弱いよね?」
と脇腹を擦りながら笑った。
「うるさいな…。早く印つけてよ」
と言ったあと和は綾子の胸を揉んだ。
綾子の唇が脇腹を過ぎて腸骨を過ぎキスマークを作ると和は嬉しそうにそれを見てから
「もう挿れてもいい?」
と聞いた。
綾子が頷くと和は起き上がり綾子の身体を自分の上にゆっくりと座らせると同時に綾子の中に和が入ってきた。
綾子が身体を反らして和しか知らないとても甘い吐息を吐くと綾子の身体を支えて自分の額と綾子の額をくっつけて
「ごめん…。久しぶりだから今日は早いかも」
と和は言った。




