和の恋心 6
祭りの日、和は由岐とタケとカンジと一緒に祭りに行った。
和たちの住む街で行われる祭りは、他の夏祭りほどメジャーじゃないけど神社に続く道沿いにはたくさんの縁日が並び地元の人でそれなりに賑わっていた。
縁日のなかを歩いて行くと、中学までの知り合いに会うことも多く久しぶりの再開にお互いの近況を話したり
「あれ?あれって正樹と佐々木じゃない?何、アイツら付き合ってんの?」
なんて思いがけない場面に出くわすこともあった。
縁日で買ったかき氷を食べながら4人で歩いていると、数件先の露店の前で友だちと4人で話をしている綾子を見つけた。
「あれ、綾子ちゃんじゃない?うわ、浴衣着てる!可愛い」
とカンジが言うと
「綾子はいつも可愛いんだよ」
と由岐は言った。
「出たよ。由岐のシスコン。…って、男の子も一緒にいるんじゃない?」
とカンジが言うと
「本当だ。なになに、ダブルデートってやつ?お兄ちゃん、妹に先越されたね」
とカンジは笑った。
「そんなわけ無いだろ?あの子たち、綾子の友だちだよ。確か、弘美ちゃんとサッカーやってる悟と大地」
と由岐が言うと
「えっ、綾子と一緒にいる子知ってるの?」
と和は驚いた顔をして聞いた。
「知ってるよ。同じクラスの子で大地はたまに一緒に帰ってくるから家も近いんじゃないかな?」
と由岐が言うと
「それって平気なの?」
と和は言った。
「平気って何が?」
と由岐が聞くと
「だって、綾子が男の子と一緒とか…」
と和は言った。
「別に普通でしょ?気にする必要ないじゃん」
と由岐が笑ってると
「なぁ、綾子ちゃん金魚すくいするみたいだよ。俺たちも行ってみようよ」
とタケは言った。
なんで由岐は綾子が男の子と一緒にいても平気で笑っていられるんだろ?
俺なんて男の子と一緒に行くって聞いただけでムカついたのに…。
ムカついた?
何でムカつくんだ?
和は自分で自分がわからなくなってきた。
綾子たちが4人並んで金魚すくいをしていると
「おじさん、俺たちも」
と後ろからカンジの声がしたので綾子は驚いて振り向いた。
「あっ、お兄ちゃん!」
と浴衣着て髪を可愛くアップしてる綾子が言うと
「あれ?綾子ちゃんもいたの?可愛い格好してたからわからなかった」
と言いながら露店の店主にお金を払っていた。
何でいるんだって感じの嫌な顔で綾子が由岐を見てると
「綾子のお兄さん、こんばんは」
と綾子の隣に座ってる真っ黒に日焼けした男の子が言った。
「大地君、こんばんは。また焼けたね」
と由岐が言うと
「先週までサッカーの合宿に行ってたんで…」
と大地と言う名前の男の子は言った。
「合宿か…。頑張るね」
と由岐が言うと大地は誉められたことが嬉しくてニコニコと笑った。
「でも大地、サッカーばかりしてて宿題全然やってないんでしょ?」
と綾子が言うと
「だから今頑張ってやってるんだって。本当、綾子はうるさいな」
と大地は綾子の頭を軽く叩いた。
「やめてよ。せっかくお母さんが可愛くしてくれたのに」
と綾子が怒ると
「本当、綾子はすぐに怒るんだから。髪の毛だけ可愛くしたってそんな怒ってばっかりだと可愛くないんだよ」
と大地はまた綾子の頭を叩いた。
綾子と大地のやり取りを後ろで見ていたタケが由岐に
「綾子ちゃん、あの子と仲いいね」
と由岐に言うと
「いっつもこんな感じだよ。でもさ、こうゆうの見てるとまだまだ綾子も子どもだなって安心するよ」
と由岐は笑ったが、隣にいる和は安心するどころか一昨日と同じような喉に何かが込み上げてくるようなモヤモヤした気持ちでいっぱいだったが、その気持ちを隠して綾子の隣に座った。
「綾子、せっかく可愛い格好してるのにケンカなんてしたら可愛いのが台無しだよ」
と和が言うと綾子は
「だって大地が…」
と言った。
「大地君が言うのも当たってるだろ?せっかく可愛い格好してるならおしとやかにした方が可愛いんだよ。ねぇ?」
と和が大地を見ると大地は
「そうだよ。おしとやかにしてた方がいいんだよ」
と顔を赤くして言った。
あー、この子は綾子の事が好きなんだ…。
と和は思ったのと同時にさっきから続くモヤモヤした気持ちが更に大きくなったがそれを隠して笑い
「俺もやってみようかな?タケ、勝負しようぜ」
と和は言った。
綾子たちが立ち上がり和たちが座ると
「じゃあさ、一番多くすくった奴に一番少ない奴が焼き鳥奢るってことにしない?」
とタケが言うと
「いいけど、俺本当に得意だよ」
と由岐は笑っていた。
和たちが金魚すくいを始めると3匹ですぐにダメになったのがカンジだった。
次に7匹すくったタケが破けたが和と由岐はまだすくっていた。
「すごい…」
後ろで見ている綾子の友だちは尊敬にも似た目で和と由岐を見ていた。
じっくりゆっくりと確実に金魚をすくっている和と由岐。
「綾子のお兄さんたちスゴいな」
と悟は感心したように言った。
「綾子もやり方教えてもらったら?」
と大地が言うと
「そうしようかな」
と綾子は言った。
「そうだよ。そしたら綾子だって一匹ぐらいすくえるかもよ」
と大地が笑うと
「何さ、大地だってすくえないくせに」
と綾子は怒った。
後ろから綾子と大地が話しているのが聞こえてきた和の心はイライラしてきた。
綾子、綾子ってなに呼び捨てにしてんだよ。
さっきだって綾子の頭をさわって…ガキのくせに生意気なんだよ。
俺の綾子なのに…。
「…!!」
和は大きな出目金を狙ってポイを破いてしまった。
「あー、由岐の勝ちか」
とタケが言うと
「出目金なんて狙うからだよ」
と由岐は和に言ったが、和は由岐の話が聞こえてなかった。
「なっちゃん、どうしたの?」
と言う綾子の声に和が慌てた様子で振り向くと綾子は驚いた顔をした。
「なっちゃん、大丈夫?」
と綾子が和の様子がおかしいことに気が付き心配して聞くと
「あっ…うん。大丈夫。…由岐に負けたのが悔しくて」
と和は笑った。
「なんだよ。驚かすなよ」
とタケたちが笑うと
「ごめんごめん。負けると思わなかったからさ。あー、焼き鳥食べ損ねた」
と和は笑って
「おじさん、おれとこいつの金魚の中から金魚4匹この子たちにあげてよ。あとは返すからさ」
と自分と由岐のお椀を店主に差し出したあと
「ねぇ、もう一回だけしていい?俺さ、出目金どうしても取りたいんだよね」
と言った。
「出目金?無理だろ?」
と由岐が言うと店主が
「お兄ちゃん、いっぱいすくったのに返してくれたから大サービスで出目金1匹あげるよ。どの出目金欲しいんだ?」
と言った。
「いいの?じゃあ…どれかな?綾子ならどの出目金欲しい?」
と和が綾子に聞くと
「私?私なら…この小さい出目金」
と綾子は水槽の中を指差したので
「じゃ、おじさん。その出目金を一緒に入れて」
と和は頼んだ。
和と由岐が受け取った金魚を綾子の友だちに渡すと友だちはとても嬉しそうな顔をした。
「はい、綾子」
と和が赤い金魚と出目金の入った袋を渡すと
「いいの?なっちゃん出目金欲しかったんでしょ?」
と綾子は聞いた。
「綾子、出目金好きでしょ?」
と和が笑うと
「綾子のお兄さんの友だち優しいね」
と弘美は羨ましそうに言った。
綾子たちと別れて歩いてる和たちは途中で焼き鳥を買って食べた。
「由岐、綾子ちゃんの株あがったんじゃない?」
とタケが言うと
「でもさ、由岐にも増して和の方が株上がったって感じだよな。あの場合はさ、出目金とかあげちゃダメだよ」
とカンジは言った。
「だよな。いくら綾子ちゃんが妹みたいに可愛いからって実の兄を差し置いてさ…」
とタケが言うと
「でも、俺は綾子が出目金好きだなんてすっかり忘れてたからさ。和はマメだからそうゆうのキチンと覚えてるんだよな」
と由岐は言った。
祭りの帰り道、由岐と歩いていた和は一昨日と今日の自分では理解出来ない自分のことを自分と同じくらい頭の良い由岐ならわかるだろうか?と考えていた。
「あのさ…。最近、何かスゲェモヤモヤすることがあって、いろいろ考えても全然こたえが見つからないんだよね」
と和は話を始めた。
「なにそれ?勉強のこと?」
「いや、違うんだけどさ。何かさ…なんて言っていいのかわかんないんだけど…。可愛いって思う子がいるんだけどさ。それは好きとかそうゆうのとは違うんだけど。…だけどその子が他の男の話をしたり、男と話してたりしてる見るとスゴい腹立ってきてさ。で、何でその男がその子のことを呼び捨てで呼んでんだよとか何ふざけあってんだよとか思っちゃって」
「ふーん…で?」
「でさ、その子と仲良くするなよとか…その子は俺のなのに側にいるなよとかバカなことまで思っちゃって…。喉に何かが込み上げてくるような感覚になってイライラするしモヤモヤするし…。これって何だと思う?」
「何だと思うってさ…」
「由岐はこんな体験したこと無い?これっておかしいのかな?」
和が不安そうな顔をしていると由岐はため息をついて
「それってさ、その子の事が好きだってことじゃないの?」
と言った。




