和の恋心 4
「何か、そんなしっかりしてて母さんを甘やかしてる父さんなんて想像出来ないんだけど」
と奏が言うと
「まるっきり立場が逆だよな…。信じられない」
と直則はビールをグイッと飲んで言った。
「そうかな?でも、今だって甘えさせる時は思いっきり甘えさせてやってるし変わんないよ」
と和は焼き野菜を食べながら言った。
和の膝に頭を乗せてニコニコ笑うと綾子はとても可愛かった。
自分に妹がいたらこんな感じなのかな?由岐の気持ちがわかるな…と思いながら、和は綾子の髪を撫でてると
「なっちゃんがお兄ちゃんだったら良かったのに」
と綾子が言った。
「何で?綾子、由岐のこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。なっちゃんもお兄ちゃんも大好きだよ。でも、お兄ちゃんすぐに怒るしバカにするし…」
「それは綾子なら何を言っても許してくれるってわかってるから言うんだよ。…そういえば今日の朝、由岐が綾子が起こってるって落ち込んでたよ」
「お兄ちゃんが落ち込んでたの?」
「うん。多賀庵に行こうって行っても行かないって言われたし、宿題見てあげるって言ったら俺に見てもらうからいいって断られたって」
「だって、昨日のお兄ちゃんスゴい頭にきたんだもん。唐揚げ食べるしバカだって言うし、なっちゃん帰ったあとも夜中まで音楽聞いてて煩くて寝れなかったし」
「そっか…。でもさ、由岐も悪いことしたなって思ったみたいだよ。由岐は綾子に意地悪しちゃうけど綾子が由岐の事を大好きなのと同じように由岐も綾子の事が大好きなんだよ。それはわかってあげなよ」
「うん…。わかった」
と綾子が言うと和は綾子の髪を撫でるのをやめて綾子の頭をよけた。
「…?」
綾子がどうしたんだろうって顔で和を見上げると
「今度は俺が綾子に膝枕してもらおうかな?」
と笑った。
「えっ?なっちゃんに膝枕?」
と綾子が驚くと
「だって綾子がそんなに膝枕好きってことはよっぽど気持ちいいんでしょ?一度やってみたいなって思ってたんだよね」
と和は言ったあと
「昨日、綾子に甘えていいよって言ってたでしょ?だから、まずは膝枕かな?と思ったんだけど…嫌ならいいよ」
と笑った。
綾子はとても困った顔をして和を見上げていた。
けど、それは和にとっては想定内の事だった。
膝枕してほしいと言ったら綾子はどんな顔をするのだろう?とからかっただけで本当にしてもらおうなんて気持ちは一切無かった。
「そんな困った顔しなくてもいいよ。ほら、頭乗せな」
と和が綾子の髪を撫でながら笑うと、綾子は突然起き上がり和の隣に座ると、さっき和がしたように自分の膝をポンポンと叩いて
「はい、どうぞ」
と言った。
「えっ?」
と和が驚いた顔をすると
「膝枕したいんでしょ?どうぞ」
と綾子は笑った。
「えっ?…いや、でも」
と和がからかっただけとだとも言えずどうしていいのか戸惑ってると
「ふざけて言ったの?」
と綾子は聞いた。
「あっ…いや、違うけど」
と和が言うと
「なっちゃんもお兄ちゃんと同じで私の事をからかって笑ってるんだ」
と綾子は少し顔を曇らせて言ったので、和はヤバいと思った。
「違うよ。からかってなんかいないよ。綾子に嫌だって言われると思ってたからビックリしただけだよ」
と和が言うと
「嫌じゃないよ。だってなっちゃんも膝枕してみたかったんでしょ?膝枕って気持ちいいんだよ」
と綾子は笑った。
「…」
今さら、やっぱりやめておくとも言える状況じゃなくなってしまった和は
「じゃ、してもらおうかな?」
と言って綾子の膝に頭を乗せた。
男の自分が小学生に膝枕なんてしてもらってる状況に恥ずかしさでいっぱいの和が顔を赤くしながら目を瞑ってると綾子が和の髪を撫でた。
恥ずかしい…けど、スゴい気持ちがいい。
柔らかな太ももも髪を撫でられるのも、そして綾子の太ももから伝わる人の体温もとても気持ちがよく心がスゴく癒されていくのがわかった。
「なっちゃんの髪ってスゴい気持ちいいね」
と綾子が言うと
「髪?」
と和は目を瞑ったまま聞いた。
「うん。サラサラで気持ちいいね」
「そうかな?自分じゃわかんないけど気持ちいいかな?」
「スゴい気持ちいいよ。なっちゃんはどう?気持ちいい?」
「うん。綾子の太ももがプニョプニョしてて良い枕だね。綾子が膝枕好きな気持ちわかったよ」
「でしょ?」
「本当、こんな気持ちいいなんて知らなかったよ。毎日綾子に膝枕してもらおうかな?」
「いいよ。じゃ代わりに宿題教えてくれる?」
「宿題?いいよ。教えてあげるよ。でも、今日みたいに自分で出来るところは自分でやった方がいいよ。自分でやってもわかんないところは教えてあげるから」
綾子と話をしていた和は昨夜あまり寝れなかった事と綾子の膝枕の心地よさでウトウトし始めた。
「綾子、眠くなっちゃったな…」
と和が言うと
「私もなっちゃんの髪さわってると気持ちよくて眠くなってきた」
とウトウトし始めた。
それから一時間位たったとき、綾子の部屋から二人が出てこないことと部屋があまりにも静かなことが気になった由岐が
「綾子、入るよ」
とドアを開けたが、すぐにゆっくりとドアを閉めると慌てて一階に降りていき
「父さん!ちょっと来て!和と綾子が…」
と言った。
「なっちゃんと綾子?何?どうしたんだ?」
と由岐の父親が言うと
「いいから、ちょっと綾子の部屋来てよ」
と由岐は言った。
由岐の慌てように何かあったのかと思った父親と母親が綾子の部屋のドアを開けると
「あら…」
と母親は言った。
綾子に膝枕をしてもらいまるで幼い子どものような安心した寝顔で眠ってる和と和の頭に手を乗せて嬉しそうな顔で眠ってる綾子。
二人の姿を見て由岐が
「ねぇ、どうしてこんな事になってんの?」
と小声で二人に聞いた。
「どうしてって…」
と母親がなんとこたえていいかわからず父親の顔を見ると
「二人とも良い顔で寝てるじゃないか。もう少し寝かせてあげなさい」
と父親は笑った。
「でも…」
と由岐が言うと
「由岐、お前だって昨日のなっちゃん見だろ?なっちゃんはずっと一人で頑張ってたんだよ。そのなっちゃんがこんなに良い顔で寝てるんだ。明日は休みなんだしこのまま寝かせてあげなさい。起こすなんて可哀想だろ」
と父親は言った。
「そうね。毛布持ってくるわね」
と母親が一階に降りていくと
「でも、なんだか複雑な気持ちだな。娘を嫁に出すってこんな気持ちなのかな?」
と父親は笑った。
「嫁にって…。そんな和と綾子が結婚なんてあり得ないでしょ?」
と由岐が言うと
「そうかな?俺はなっちゃんと綾子が結婚したらいいなって思うけどな」
と父親は笑った。
次の日、和が目を覚ますと隣に綾子が眠っていた。
「!!」
和は驚いて昨日の事を思い出していると綾子が目を覚まして
「あれ?何でなっちゃんいるの?」
と寝ぼけた声で言った。
「えっ?あっ…」
と和が慌ててると、寝返りをうった綾子がベッドから落ちた。
「綾子!」
と和が言うと綾子は頭を押さえて
「痛いよ~。なっちゃん痛いよ」
と言った。
「綾子大丈夫?痛いの頭だけ?他には?」
と和が慌てて綾子の隣に座り綾子の頭をさわりながら言うと綾子はゴロンと和の膝に頭を乗せて
「やっぱり膝枕してもらう方がいいね」
と笑った。
「綾子…。痛いって嘘ついたの?」
と和が言うと
「嘘じゃないよ。本当に痛かったよ。でも、なっちゃんに膝枕してもらったら治っちゃった」
と綾子は笑った。
「もう、こっちは本当に心配したんだぞ」
と和が怒った顔をして綾子の頭を持ち上げると
「…ごめんなさい」
と一瞬前まで笑ってたとは思えないほど落ち込んだ顔をして綾子は言った。
あー、そんな顔するほど怒ってないんだけどな…と思った和は綾子の膝に頭を乗せて
「綾子が嘘ついたから仕返ししたんだよ」
と笑った。
「もう!なっちゃんってさ、昨日から意地悪するよね」
と綾子が言うと
「だって綾子が頑張らなくても良いって言ったんだろ?だから、頑張るのやめたの。これからは綾子にいっぱい甘えるんだ」
と和は笑った。
「なにそれ…」
と言いながらも綾子が言葉とは裏腹に小さな手で優しく和の髪を撫でていると、和は無意識のうちに綾子の腰に腕を回して
「本当に気持ちいいな」
と呟いた。
ビールのジョッキを持ったまま佐伯は
「じゃ、綾子さんに膝枕してもらうきっかけってからかうつもりで言った一言だったんですか?」
と驚いた顔をした。
「まぁ、綾子には内緒だけどね。だってさ、普通に考えて本気で小学生に膝枕してなんて言わないでしょ?」
と和が笑うと
「中学生の和は普通の感覚持ってたんだな…。それに膝枕って確かに癒されるもんな。けどさ、膝枕なら他の女でも良かったんじゃない?」
と直則は言った。
「俺も思ったことがあって、したこともしてもらったこともあるけど何か違うんだよ。安心感が無いって言うか全然癒されないんだよ。やっぱり綾子じゃないとダメなんだよね。…あっ、そういえば同じ兄妹だしと思って由岐にしてもらったことあるけどゴツゴツしてて全然気持ち良くなかったな」
と和が笑うと
「由岐ちゃんが父さんに膝枕したことあるの?」
と奏は驚いた顔をした。
「中学の頃かな?綾子に膝枕してもらうのを由岐が焼きもちやいて怒るから、じゃ代わりにしてくれよって言ったら渋々してくれてさ。けど由岐が、お前と膝枕なんて本当気持ち悪くて二度としたくないから綾子とするの許すって」
と和が笑うと
「由岐に膝枕してくれって言う和もスゴいけど、してやる由岐もスゴいな。俺なら男になんて泣かれても絶対にしないよ」
と結城は言った。
「で、そこから綾子の事を好きだって思い始めたの?」
と直則が聞くと
「今思えば他に好きな子とか出来た事がないしその前からずっと好きだったとは思うけど…その時はまだ自覚してなかったな」
と和は言った。
「それじゃ、自覚したのっていつ?何かきっかけとかあったの?」
と直則が聞くと
「自覚したのは高校に入ってからだね。きっかけはさ」
と和は話を続けた。




