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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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初日の取材

次々にステージ袖に降りてきたメンバーは汗だくになっていたが、それぞれとても良い顔をしていた。

スタッフからミネラルウォーターを受け取り飲んでいた綾子が奏に気付き

「ずっと立ってるの疲れたでしょ?」

と一瞬前とはまるで別人のようないつもの優しい顔で言うと

「大丈夫だよ。母さんこそお疲れさま」

と奏は言った。

「ありがとう。じゃ、先に楽屋に戻るから」

と言って綾子が直則たちの後を追うように通路に消えると、今度は和がステージから降りてきて奏に気付き

「奏、お疲れ」

と言って奏の肩をポンッと叩くと通路に消えて行った。

「…」

奏は和の後ろ姿を見つめた。

ライブを見ていろんな事を考えたし考えさせられたけど…最後に思うのはズゴイって言葉しか無いなと奏は思った。

何がズゴイって全てがズゴイ。

演奏してるメンバーも裏で支えるスタッフも演出も何もかもズゴイとしか言いようがない。

自分が憧れを持った世界は、簡単に目指せる世界なんかじゃないと奏は思った。

音楽に携わる仕事をしたいなんて、簡単に言って良い事じゃない。

この2時間のために何倍もの時間を費やして準備をして観客を楽しませる事に全力を尽くして…。

本当にスゴい事だと奏は思った。


奏が結城と一緒に楽屋に戻るとメンバーはシャワーを浴びに行っていて楽屋では相川と山下と伊藤と中西が話をしていた。

「奏、お疲れ。どうだった?迫力あったろ?」

と相川が笑うと奏は

「はい、スゴかったです」

とこたえた。

「どうスゴかった?」

と相川が聞くと

「どうって…。どう言って良いのか分からないですけど全てがスゴかったです」

と奏はキラキラした瞳で言った。

「そうか。全てがスゴかったか…。そうだな、全部スゴかったな」

と奏のキラキラした目を見て相川が嬉しそうに笑っていたが、相川とは正反対に結城は真剣な顔で奏の事を見つめていた。

ステージを眺めてるあの横顔…あれは、きっと大物になる顔だと奏を見て結城が考えてると

「結城さん、出版社の方がいらっしゃいました」

と佐伯が声をかけた。

「あ…。とりあえず、こっちに通して。あと、あいつら戻ったらトレーニングルームでインタビュー受けるからあっちに椅子を準備しておいて」

と結城が言うと佐伯は楽屋を出て出版社のライターを呼びに行った。

「まだ仕事するんですか?」

と奏が驚いた顔で聞くと

「まあね。でも、そんなにかからないで終わると思うよ。…インタビューの様子も見てみる?」

と結城が聞くと奏は嬉しそうに頷いた。


少しすると、シャワーを浴び終えたメンバーが次々と楽屋に戻ってきた。

濡れた髪で楽屋に戻ってきた和と綾子はライターを見て驚いた顔をしたあと

「インタビュー録りあるんだけっけ?」

と結城に聞いた。

「お疲れさまです。次の号で初日の記事を載せるのと、あとは速報で海外ツアーのことも記事にしたいんで」

とライターが言うと

「じゃ、早く終わらせよう」

と綾子は言った。

「少し休んでからでも大丈夫ですよ」

とライターが言うと

「大丈夫。仕事さっさと終わらせないと気になって休めないから」

と綾子は笑顔で言った。


ライターと和と綾子が別室に移動すると

「インタビュー時間は15分でお願いしますね」

と結城は言った。

「15分ですか。じゃ、時間がもったいないので早速始めますか」

とライターが言うと5人はレコーダーのスイッチを入れた。

「初日お疲れさまでした。ツアー初日を終えた感想を」

とライターが聞くと

「始まるまでは不安もあったけど、始まってみたらスゴい観客のみんなが盛り上がってくれて気持ちよく終われたね」

とナゴミは言った。

「どうゆうところに不安を感じてました?」

「ハードロックが受け入れられるかと言う不安もあったし、ライブの構成自体も初めから関わってワガママを通した部分も結構あったので失敗したらどうしようって不安が一番大きかったね」

「綾子さんの初日終えた感想は?」

「私は観客のみんなに助けてもらったと言う気持ちが大きいかな?本当なら私たちが観客を引っ張っていかなきゃならないのに、今日は観客に引っ張ってもらったって感じ。でも、それはそれでこっちも負けられないって気持ちでやれたので、楽しかったけど」

「セッションの盛り上がりはスゴかったですね」

「あれは直則と和樹が主役だからね。二人のセッションが本当にカッコいくて、俺たちはオマケみたいなものだから。ちなみに、Butterfly前の奏太のソロもライブにメリハリをつけてくれる大事な要素だね」

「僕個人としてはナゴミさんがギター上手いのに驚いたんですけど」

「もともとギター弾くのは好きだっけど、ギター弾きながら歌うって事を器用に出来る自信がなくて。どっちも中途半端になるのが嫌だったしどちらか片方だけ良くて片方がダメだって言われるのもね。それなら歌に集中した方が良いって思ってたから。でも、fateでは今までやったことがないことに挑戦しようって決めてたから綾子はMCに挑戦するし、じゃあ俺はギター弾いてみるか?って思ってやってみたんだよ。かなり練習したけど不安だったね」

「スゴい良かったですよ。それに、綾子さんがMCするって言うのも初めての試みですよね?」

「新しい試みだけど、本当はやりたくないですね。何を話していいのかわからないので。もしウケを狙った事を言って外したらそのあとどうしたら良いのかわからないし、ナゴミさんみたいなMCを私がしたら引かれる気がするし…かと言って真面目に語るのもどうかと思うし」

「今日、真面目に語ってただろ?」

「今日はね。初日札幌って決まった時からMCで話すことは決めてたからね。でも、それ以降のMCは全然考えてないし日々行き当たりばったりのMCになりそうなので…。ナゴミさんが歌に集中したいからギターを弾かなかったって言うなら、私はギターに集中したいからMCはしたくないですね」

「でも、綾子さんのMC楽しみにしてる人多いと思いますよ。…新しい試みと言えば、先ほど発表になったアメリカヨーロッパツアーですけど」

「無理やり持ってきたね」

「えっ…まぁ、時間も無いので。そのツアーについてなんですけど、プレス発表の記事を先ほど見たら結構ハードスケジュールですよね?」

「ハードと言うか強行ツアーだね。アメリカを西から東へ移動しながらライブして海を渡ってヨーロッパもまわるからね。でも、こうゆう経験てなかなか出来ないからスゴい楽しみだし、これが世界進出の第一歩になっていずれ自分たちで世界中を旅しながらまわるツアーとかやってみたいって夢は広がるよ」

「私たちの事を何も知らない人たちばかりの所…完全アウェイな土地で自分たちがどれだけやれるか試せるのもスゴく楽しみだし、この機会をくれたクリスに感謝ですね。でも、10代の頃みたいに途中で辞めたいって思って私だけ日本に逃げ帰ってくるかもしれないけど」

「それ怖いな。その時はせめて置き手紙は書いていけよ」

「嫌だよ。置き手紙なんて書いたら逃げてるの見つかって連れ戻されるでしょ」

と話してると結城が

「すみません、そろそろ時間なので」

とインタビューを止めに入った。

「よし、終わりね。さぁ、このあとは美味い酒飲みに行かなきゃ」

とナゴミが嬉しそうな顔をすると

「えっ!じゃ、最後に今日は美味い酒飲めそうですか?」

とライターが慌てて聞いた。

「最後にそれ?」

と和が笑うと

「とても美味しいお酒が飲めそうですね。ナゴミさんはメロンソーダだけど」

と綾子も笑った。


インタビューが終わり和と綾子、そしてライターが席を立つと和は楽屋に戻ったが綾子は部屋に残り

「今日はわざわざ来てくれてありがとうございました」

とライターに頭を下げた。

「何、改まってんだよ。綾子ちゃんが敬語なんて…俺たちの仲だろ?気持ち悪いからやめなよ」

とライターが言うと

「だけど、忙しいのにわざわざ来てくれたから嬉しくて」

と綾子は言った。

「そんな、こっちが押し掛けたようなもんだからさ。若いやつらに何で俺が行くんだ、職権濫用じゃないか?って文句言われたよ」

とライターが言うと

「でも、佐藤さん相変わらず意地悪ですよね?」

と綾子は言った。

「えっ?何で?」

とライター…佐藤が聞くと

「だって札幌には他のライターが行くって言ってたじゃないですか。だから、ライブ中に佐藤さん見つけた時は目がてんになるぐらい驚きましたよ。本当、佐藤さんのせいでギター間違えそうになったんだから」

と綾子は笑った。

「間違えてみたら、初日に間違えてたって書けたんだけどな」

と佐藤も笑ってると通路から顔を出した山下が

「綾子、伊藤さんが髪の手入れするから早く来いって言ってるよ。時間無いから早くして」

と声をかけた。

「わかった。…じゃ、佐藤さん。次は名古屋に来てくれるんですよね?」

と綾子が言うと

「名古屋はさすがに行けないな…。ラストの東京に行ければいいけど」

と佐藤は言った。

「そっか。そうですよね」

と綾子が言ってると

「綾子、早く」

とまた山下が声をかけた。

「ハイハイ、今行きます。…じゃ、佐藤さんまた」

と綾子は頭を下げて楽屋に戻っていった。

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