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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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札幌で感じたこと 8

次の日の昼過ぎ、奏は相川と一緒にホテルのロビーにいた。

昨日、ホテルに戻り和たちと別れると突然結城に呼び止められて

「明日は1日、メンバーの側でミュージシャンって言うのはどうゆうものかを観察しない?」

と言われた。

「でも…」

と奏が何と答えていいか迷っていると

「裏方の仕事は見たんでしょ?だったら表に出る人の仕事を見たり、ライブ中に彼らを支える仕事をしてる人を間近で見てみたらいいよ」

と結城は言った。

「でも、邪魔になりませんか?」

と奏が言うと

「邪魔だと思ったら言われるから。まぁ、ライブはステージ袖で見る事になるだけど…。それよりも機材席で見る方が良い?でもな、ステージ袖で見るのって貴重な体験になると思うけど」

と結城は言った。

「石井さんもぜひ見てみたら良いって言ってたし、普通なら出来ない経験だぞ」

と相川にも言われたので奏は結城の誘いを受ける事にした。


12時35分、約束の時間より少し早くロビーに着いた奏と相川は結城たちと一緒にメンバーが来るのを待っていると

「おはようございます」

と次々とメンバーがやってきて、ホテルのエントランスに止まっている2台の車に別れて乗り込んだ。

昨日とは違い、サポートメンバーと佐伯と一緒に乗り込んだ奏は4人の話を聞いていた。

「会場に着いてる山下さんの話では、既に入待ちのファンが溢れているのでスタッフの交通整理入ってます。ファンや一般通行人の安全のためにも楽屋口から少し離れたところで降りて徒歩で楽屋入りして頂きますので」

と佐伯が言うと

「まぁ、そうなるだろうなって気はしてたけどね」

と和樹は言った。

「そうだよな。ちょうど学生は夏休みだしね」

と奏太が言うと

「そうなんですよ。歩道を埋めつくすして車道に出てしまうぐらい集まってるみたいで。とりあえず、スタッフがロープ張って歩道から出ないようには注意してるらしいんですけどね。話によると始発で来たファンもいるらしいですよ」

と佐伯は言った。

「始発?この真夏に何時間待ってるんだ?ライブ前に熱中症で倒れちゃうんじゃないか?」

と和樹が驚いた顔をしてると

「そこを左折したら降りますので、迎えに出てるスタッフの誘導に従って移動して下さいね」

と佐伯は言った。

佐伯の言った通り交差点を左折すると奏たちを乗せた車はハザードランプを点灯させて止まった。

すると、それに続き和たちを乗せてる車も奏たちの車のすぐ後ろに停車した。

「…!!」

奏はフロントガラス…サイドの窓から見える景色に驚き声で出なかった。

車の止まった所からジップの入口…いや多分その向こう側までズラッと人が並んでいて、その人々の視線が全部こちらに向かっている。

一瞬怖いとさえも感じるほどの視線…。

助手席の佐伯が車から降りるとスライドドアが開き悲鳴にも似た声が耳に入ってきた。

「…」

奏は緊張で顔が強ばった。

直則、和樹、奏太と順に降りたのに続き奏も車を降りると

「こんなに人がいると緊張するよね?でも、あの子たちの目当てのほとんどは和さんと綾子だから。気にしないで大丈夫。もしかしたら、俺もスタッフだと思われてるかもしれないし…」

と奏太は笑った。

奏が奏太と話をしている時に後ろの車から和と綾子が降りてきたのでファンの悲鳴みたいな歓声は更に大きくなった。

奏たちのところに来た和が

「山下君、スゴい人だね。サクラ用意した?」

と笑った。

こんな状況でも堂々として笑っていられる和に奏が驚いて綾子を見ると綾子も怖じ気づいているどころか嬉しそうに笑顔を浮かべていて他のサポートメンバーも相川も結城も佐伯も…と自分以外の人間は全て平然としていたのでこの状況に驚いて怖じ気づいている自分はおかしいのかも?とさえ奏が感じていると、結城を先頭にメンバーも佐伯も山下も楽屋に向けて歩き出していた。

「奏、行くぞ」

と言う相川の言葉で我にかえった奏が

「はい」

と歩き出すと

「気にしないで後ろをついていけばいいから。もし話しかけられても平然として前を向いて歩けよ」

と相川は奏の耳元で言った。

和たちの後ろを歩いていると、たくさんのファンが和や綾子の名前を呼んでいて、それに和と綾子は手を振ってこたえていた。

メッセージボードを持って手を降り返す子もいるし涙目になっている子もいた。

そのうえ、和と綾子に比べれば比較にならないかもしれないけどサポートメンバーの名前を呼んでいる子も混じっていて直則たちも頭を下げたり手を振って楽屋までの道を歩いていた。

『さっきまで普通に話していたけど、みんなやっぱり芸能人なんだ。オーラみたいのが全然違う』

と奏が改めて思いながら歩いていると

「あっ!相川さんと奏君じゃない?」

と言う声が聞こえてきた。

「うそっ!」

「本当だって!相川さーん!奏くーん!」

と聞き覚えのある声が入待ちの列の一番端の方から聞こえてきた。

チラッと奏が目だけで声のする方を見ると、函館で一緒になった女子大生が奏たちの方を見て手を振っていた。

「相川さん…あれ…」

と奏が相川の耳元で言うと

「気にするな」

と相川は小声で言った。

「でも…」

と徐々に距離が近付いてきてる女子大生に奏が困った顔をしてると

「気にするな。聞こえてないふりして平然として歩け」

と相川は少し強い口調で言った。

「はい」

と奏は相川に言われた通り聞こえてないふりして歩いていると

「相川さん!」

「奏君!」

と女子大生は和と綾子が自分たちの前を通り過ぎて行ったので更に大きな声で声をかけてきた。

「…」

「…」

奏と相川が聞こえてないふりをして彼女らの前を通り過ぎると

「違ったのかな?」

「違ったんだよ。だいたい、相川さんと奏君がナゴミや綾子と一緒に楽屋入りするわけないじゃん」

「そうだよ。旅行してるって言ってたもんね。それよりもさ、ナゴミと綾子を間近で見れたよ!手を振ってくれたし」

「だよね。なんまら嬉しいんだけど」

と女子大生が話してる声が後ろの方から聞こえていた。

楽屋入口からジップの中に入ると

「ごめんな。聞こえてないふりさせて」

と相川は言った。

「いえ…大丈夫です」

と奏が言うと

「あの場であの子たちにこたえると、奏が二人の子どもだって事がバレる可能もあるから仕方ないんだよ」

と相川は言った。

「…そうですよね。すみません、俺のために」

と奏がすまなそうにすると

「いや、お前のためばかりじゃ無いから。和と綾子が夫婦って事を良く思ってないファンもいるから、仕事では夫婦だって事をファンに意識させないようにしてるからさ。なかには二人が既婚者って言うのも信じたくないファンもいるわけだし」

と相川は言った。

「そういえば…」

と奏は楽屋入りするときに和は直則と和樹と一緒に歩き、少し後ろを綾子と奏太が歩いていて和と綾子は一切話をしてないどころか視線さえも合わせて無かった事を思い出していると

「お前が一緒にいると、実際は違うとしても夫婦で組んだからツアーに息子を連れてきたって思う人もいるかもしれないだろ?それを家族仲が良いって好感持つ人もいるけど、見たくない避けたい現実を見たって思う人もなかにはいるだろうからさ」

と相川は苦笑いをした。

「何か難しいですね」

と奏が呟くと

「だろ?でもこれも仕事だから仕方ないな」

と相川は言って二人は楽屋に入った。

「…」

奏は先ほどまでとは別人のように綾子の肩に手を置いてスタッフと話をしている自分が普段から見ている和を見て本当にさっきの和と同一人物なんだろうか?と呆れてしまいため息が出た。

「どうした?お腹すいたか?」

と和は綾子の肩に手を置いたまま奏に聞いた。

「いや…」

と奏は言ったあと

「何か…ギャップがありすぎて」

と呟いた。

「ギャップ?誰が?」

と和が綾子か?って顔で綾子を見てると綾子が驚いた顔をしたので

「父さんだよ」

と奏は言った。

「俺?何それ?」

と和が不思議そうな顔をすると

「だって、さっきの父さんと今の父さん…別人みたいだよ」

と奏は言った。

「そうか?」

と和が聞くと

「ファンの前を歩く姿が堂々としててカッコいいなんてちょっと思っちゃったけど、こうやって見ると何かいつもと変わらない父さんでがっかりするって言うか」

と奏は言った。

「俺のことカッコいいって思ったの?」

と和が嬉しそうに聞くと奏は恥ずかしそうに顔を赤くして

「ちょっとだけだけよ。ちょっとだけ!それに、そうやって母さんにベタベタしてる父さんをカッコいいって言ったわけじゃないし」

と言った。

「でも、カッコいかったんだろ?相川さん、聞いた?奏が俺の事をカッコいいだって。相川さん言われたことある?」

と和が嬉しそうニコニコして言うと

「無いなぁ…。俺も奏にほめてもらいたいな」

と相川は笑った。

「でしょ?昨日はギター上手いって言われたし今日はカッコいいって言われたし、今日のライブは絶対成功するな」

と和が言うと

「だから、ちょっとだって…」

と奏は言った。



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