奏の夏休み 5
結城に続き7人が店内に入ると、高校生のような若いウェイターは一瞬ギョッとした顔をしてから席に案内した。
案内された席に着くまで、腕、足、背中に胸元…顔と首意外の露出してる部分全てに刺青がびっしり入った直則と和樹と奏太、3人に比べたら控えめに見える二の腕に刺青の入った和と綾子と相川、そして一人だけ高そうなスーツを着ている結城となぜこの集団と一緒にいるのか不思議に感じる奏をチラッチラッと何か見ちゃいけない物を見るかのように見てる客を見て和は笑いを必死に堪えた。
案内された席に着くと
「じゃ、とりあえずふたてに別れて座るか?」
と結城が言うと直則、奏太、和樹、相川組と和、綾子、奏、結城組に別れて座った。
「ご注文がお決まりになりましたら、ボタンでお呼び下さい」
と緊張気味に言うとウェイターは足早に戻って言った。
「ねぇねぇ、結城さん。場所変わってもらえませんか?俺、奏君とゲームやりたいから隣に座りたいんですけど」
と直則が言うと
「ああ、いいよ」
と結城は直則と席を交換したが、和がまだ笑いを堪えてるのを見て
「何がおかしいの?」
と聞いた。
「だってさ、あのウェイターのりちゃん達のこと見てビクビクしてて…他の客も見ちゃいけない物を見るような目で…」
と言うと和は笑いだしてしまった。
「うるさいな。お前だって同じ目で見られてたろ?だいたい一番目立ってたの俺じゃないよ。和樹だって」
と直則は言った。
「えっ?俺?」
と和樹が驚くと
「確かに俺と奏太は全身に刺青あるけど、和樹はそれに加えて鼻ピも」
と直則は笑ったが
「どっちもどっちだと思うけど。…ねぇ、どうせなら長袖長ズボンで暮らしたら?そしたら、怖く見えないから」
と和は言った。
「バーカ、冬ならまだしも夏場は暑いだろ?」
と直則が言うと
「でも、綾子は年中衣装は長袖長ズボンばっかりだよな?」
と和は言った。
「そうだね。衣装で半袖用意したのって今回初めてかも…」
と綾子が言うと
「ボトムスだってそうだろ?綾子のテーマは新しい自分だからね」
と隣の席に座ってる結城は言った。
「だったらいっそミニスカートやショーパン履いてるのも見てみたいけど」
と和樹が笑うと
「何言ってるんだよ。絶対ダメ」
と和は言った。
「はあ?スタイル良いし似合うって」
と和樹が言うと
「似合っても露出多いのはダメ。そんなの履いたら男どもがエロい目で見るだろ?絶対ダメ」
と和はふて腐れた顔をした。
「何それ。言ってて恥ずかしくないの?」
と奏が呆れた顔で呟くと
「恥ずかしい!?」
と和は驚いた顔をして
「母親が男にエロい目で見られるのって平気なのか?」
と和は言った。
「はい、はい。平気じゃないです。嫌です。…それよりもまずはさ、メニュー決めようよ」
と奏が和にメニューを見せると
「奏君スゴいな。何でこんなに冷静なの?これじゃ、どっちが父親かわかんねぇな」
と直則は笑った。
注文を終えたところにちょうど和のマネージャーの佐伯と綾子のマネージャーの山下がやってきた。
「お疲れ様です。遅くなりすみません」
と佐伯と山下が頭を下げると
「お疲れ様。とりあえず…もう1つ席を用意してもらうか?」
と言って結城がボタンを押すと先ほどのウェイターがやってきた。
「あの、人数増えたんで席をもう1つ用意してもらいたんですけど。ここに座っても大丈夫ですか?」
と結城が言うとウェイターは明らかに一緒にいる人とは同じ仲間に見えない至って普通の二人をチラッと見たが、自分に視線が集まっているのに気付いて
「はい、どうぞ。…ご注文が決まりましたらボタンでお呼び下さい」
と言ってその場を足早に去ろうとしてると
「今、すぐ決まりますから…えっと、結城さんは何を頼まれました?」
と山下が言った。
「俺はフレッシュトマトのパスタとシーザーサラダとドリンクバー」
と結城が言うと
「じゃあ、俺も同じで…」
と佐伯と山下は言った。
その後、佐伯と山下はドリンクバーへ行ってジュースを持ってきて、奏たちの席にオレンジジュースが入ったグラス2つとウーロン茶の入ったグラスを置いた。
「えっ?あの…」
と奏が驚いた顔をすると
「あ、もしかしてウーロン茶嫌だった?…ウーロン茶好きなのかな?って思ったんだけど」
と山下が言うと
「いえ、そうじゃなくて…。わざわざ持ってきてもらってすみません」
と奏は頭を下げた。
「いいんだよ。ついでだから。それより、ウーロン茶嫌なら他の持ってくるよ」
と山下が言うと
「大丈夫です。ありがとうございます。でも、どうしてウーロン茶好きなの知ってるんですか?」
と奏は聞いた。
「えっ?だって、他に飲み物あっても楽屋に来たときに飲んでたでしょ?」
と山下が笑うと
「…僕が何飲んでるか見てたんですか?」
と奏は驚いた顔をした。
山下は自分の席に座ると
「気持ち悪い?ゴメンね。職業病みたいなもんでつい人間観察しちゃうんだよね」
と笑った。
「そうゆう訳じゃないですけど…。じゃ、オレンジジュースは父さんと母さんが好きだから持ってきたんですか?」
と奏が言うと
「それは、生搾りのフレッシュジュースだって書いてあったからだよ。オレンジジュースは疲労回復に効果的だしね」
と今度は佐伯が笑った。
「えー、俺もウーロン茶が良かった…」
と和が言うと
「我慢して飲んで下さい。それを飲み終わったら持ってきますから」
と佐伯は言った。
その後、相川たちのところにビールが運ばれてきてみんなでお疲れ様の乾杯をしてると注文した食事が運ばれてきた。
食事を食べながら奏が直則とゲームの話をしていると
「山下君。明後日の予約取れた?」
と和は後ろの席に座ってる山下を見て行った。
「はい、13時にホテルにタクシー来ますので…まず六花亭に行って」
と山下が言うと
「六花亭行くの?」
と綾子が山下たちを見て嬉しそうに行った。
「綾子、六花亭の喫茶室行きたいって言ってたから予約したよ」
と山下が言うと綾子は更に嬉しそうな顔をした。
「六花亭のあと小樽のオルゴール堂とガラス工芸の店など見て運河を散策して札幌に戻るコースで申し込みました」
と言ったあと山下は
「夕食は小樽で有名な若鶏の店があるらしいのでそこを17時に予約しました」
と笑った。
「若鶏?」
と和が驚いた顔をすると
「はい。タクシー会社の人が行ってみる価あるって言ってましたよ」
と山下は言った。
「17時に飯って早くない?」
と和が言うと
「でも、そのあとに夜の小樽運河を散策するのが風情があって最高にロマンチックだって聞きましたよ」
と山下は言った。
「ふーん…。まぁ、いいけど」
と和は言ってると
「奏君は、他に行ってみたいスポットとか無いの?追加で申し込み出来るし…」
と結城が言ったので奏は驚いた顔をした。
「えっ?俺?」
と奏が突然話を振られてハンバーグを切る手を止めて驚いてこたえると
「だって、家族旅行でしょ?私たちの希望ばかりじゃなくて奏の希望も聞かなきゃ」
と綾子は笑顔で言った。
「家族…旅行?」
と奏が更に驚いた顔をしてると
「あれ?相川さんから聞いてない?」
と綾子と和は相川を見た。
和樹たちと楽しく飲んで食べてしていた相川が二人の視線に気付き
「ん?どうした?」
と聞いた。
「相川さん、明後日のこと奏に話してないんですか?」
と和が聞くと
「明後日?…あー、忘れてた」
と相川は笑ったあと
「奏、明後日は俺、こっちの友達と約束してるから別行動な。和たちと一緒に行動して」
と言った。
奏が突然のことで驚いた顔をしているのに気付かない和が
「ま、家族旅行と言っても結城さんと山下君が一緒だから家族水入らずとはならないけどさ」
とイヤミっぽく言うと
「悪かったな。何かあったら困るから仕方ないんだよ」
と結城は言った。
料理を食べ終えてファミレスを出ると2台のワゴン車が駐車場に停まっていて、一台目に和と綾子と佐伯、二台目に山下とサポートメンバーが乗り込んだ。
「奏、何してんの?」
と和が早く乗れと言わんばかりに手で合図すると
「俺は…」
と奏は困った顔をして相川を見た。
「あー、言うの忘れてたけど俺たちと同じホテルにみんなも泊まってるから行き先同じなんだよ。じゃ、俺はこっちに乗るから奏は和たちと乗って」
と相川が言うと
「またですか?相川さん、どんだけ忘れっぽいんですか?しっかりして下さいよ」
と直則は笑った。
奏が乗り込みワゴン車が出発すると和が
「昨日、花火大会どうだった?」
と聞いた。
「スゴい混んでたけど面白かったよ。東京帰ったら、友達とも行ってみようかな?って思った」
と言ってから奏は
「アメリカドッグに砂糖まぶしてるのも売っててさ」
と奏は楽しそうに話した。
「お砂糖?アメリカドッグに?」
と綾子が驚いた顔をすると
「そうなんだよ。子どもとかおじいちゃんたちとかそれ食べててさ」
と奏は言った。
「奏も買ってみたの?」
と綾子が聞くと
「いや、俺は失敗するの怖いから買わなかったよ。でも、いちご飴買って食べてさ。超久しぶりに食べたけど美味しかったよ。父さんたちの分も買いたかったんだけど悪くなるかな?って思って買うのやめたんだよ。…でも、同じホテルに泊まってるなら買えば良かったね」
と奏は言うと綾子は驚いた顔をした。
奏が小学生の時に一緒に花火大会に行けなかった自分と和のために大好きだったいちご飴を買ってきてそれを食べながら花火大会のことを楽しそうに話していた奏が頭に浮かんだ。
「昔からいちご飴好きだったもんね」
と綾子が笑うと
「そうだっけ?りんご飴だと大きくて食べきれなさそうだからいちご飴にしただけなんだけど…。でも美味しかったよ。多分、父さんも母さんも好きだと思うよ。失敗したな」
と奏は言った。
「でも、わたあめもらったし。みんな、久しぶりに食べたって喜んでたよ。それに、あのお面も…。パパなんてお面被った写真をインスタに載せたんだよ」
と綾子が笑うと
「あのお面可愛いんだもん。それに、お面とあんなに大きなわたあめを奏がどんな顔して買ったのかな?って思うとさ」
と和も笑ってから
「一緒に行きたかったな…。家族で祭りなんて奏が年長さんの時以来行ったことないもんな」
と言った。
昔3人で祭りに行ったことを和が覚えていたのに奏が驚いてると
「あのときもわたあめとお面買ったよな?それ覚えてて買ってきてくれたの?」
と和は聞いた。
「偶然だよ、偶然。場の雰囲気に流されて買っちゃっただけだよ」
と奏が照れを隠して言うと
「俺も行きたかったな…。結城さん休みくれないから行けないもんな…。相川さん羨ましいな」
と和はわざと結城に聞こえるように言った。




