札幌で感じたこと 7
その後、夕食を終えスタッフは次々と控え室を出て仕事に戻って行った。
「さ、30分前だし俺もそろそろ戻るかな?奏君、このあとはライブ見に来たつもりで楽しんで、あとから感想聞かせて」
と言うと石井も仕事に戻って行った。
「奏、明日は本番1時間前からは楽屋行けなくなるけど今日なら行けるよ。本番前ってどんな風に過ごしてるか見に行く?…と言っても衣装もメイクもしてないからさっきと変わらないんだけど、本番前のメンバーの様子見たい?」
と相川が聞くと
「いえ、邪魔になったら困るしさっき座ってた場所に戻ってリハーサル始まるの待ってます」
と奏は言った。
2階席に座ると奏はステージの前にかかっている海賊船をモチーフにしたイラストに『fate』の文字が入ってる暗幕を見て
「あのイラストカッコいいですね」
と言った。
「そうだな。和がアイデア出してイラストレーターに書いてもらったみたいで販促グッズの中にもあのイラストが書かれたTシャツやトートバックあるみたいだぞ」
と相川が言うと
「あのデザインのトートとかなら普段使いできそうでそうですよね?」
と奏は言った。
「そう?買ってやろうか?」
と相川が言うと
「いいですよ。他のバンドならまだしも親のグッズなんて持って歩いてるの恥ずかしいじゃないですか」
と奏は言った。
その後も奏と相川が話をしていると、突然明るかったの照明が消えスピーカーから音楽が流れ始めるとそのリズムに合わせてステージの床に設置されたライトが赤色と青色と交互に暗幕が照らした。
聞いた事がない曲だったが、とてもノリが良くテンションが上がるような多分打ち込みのみで作られたこの曲が気に入った奏が
「この曲って誰の曲ですか?」
と奏が聞くと
「テンション上がるようなテンポ良い曲だろ?和がこのために打ち込みで作った曲だよ」
と相川は笑った。
5分ほどのその曲が終わると暗幕を照らしていたライトが消えるとともに暗幕が振り落とされ真っ暗なステージが現れた。
次の瞬間、シンバルの合図とともにナゴミと綾子のツインギターのspirit演奏が始まるとリズムに合わせてステージ上のスポットライトが点滅し、メンバーの影が浮かんだり消えたりしていた。
ツインギターのイントロにドラムが重なりベースが重なると
「Yeah!」
と言う叫び声でキーボードも重なりステージと観客席を照らすライトが代わる代わる光の中、ナゴミの歌が始まった。
その後、続けて3曲の演奏が終わるとステージが暗くなりギターを置いたナゴミにスポットライトが当たった。
「ここまで大丈夫ですか?」
などと和が機材席のスタッフ打ち合わせをしていたが話が終わると和を照らしていたライトが消えた同時に次の曲の演奏が始まった。
ステージが眩しいぐらいのライトに照されると左右の柵の上には綾子と和樹が乗り演奏している。
「あっ、あれに乗るのと乗らないのでは距離感が違いますね。近く感じる」
と奏が言うと
「視線が少し上がるからな。良いアイデアだよ」
と相川は笑った。
その後も、ハードな曲が続いたあとに爽快感のある曲のラストではナゴミも自分の前にある柵に登り、3人同時にジャンプするとまたしてもステージが暗闇に包まれた。
「…本当にライブと変わらないんですね。なんか贅沢な時間を過ごさせてもらってる感じがします」
と奏が言うと
「贅沢な時間か…。確かに俺たちだけのためのライブって感じだな」
と相川が笑っていると奏太にスポットライトが当たり、ピアノの音色を使った奏太のソロが始まった。
とても哀愁の漂うピアノソロ曲が終わると今度はストリングスの音色のbutterflyの演奏が始まった。
真っ暗なステージ上でメンバーにスポットライトが当たり演奏されるButterflyはとても優しい雰囲気を持った曲で心が暖かくなるような曲だった。
Butterflyに続きバラード調の曲がもう一曲演奏されたあとdarknessが演奏された。
darknessの演奏のあとまたステージは真っ暗になり少しの間があけると、さっきまでの空気を一掃するかのような直則の激しくも力強いドラムソロが始まった。
「すげぇ…」
と奏が呟いていると、ステージ中央に和樹が現れ次々と照される派手なライトの下でドラムに重なるようにベースを弾いた。
ステージを動き回りながら魅せる和樹の演奏に奏が身を乗り出して釘付けになっていると今度はステージ袖から歩いてきた綾子が直則と和樹に重なる形で演奏を始めた。
和樹とステージ中央に並び弾く綾子の演奏も和樹に負けないぐらいカッコいい。
これでもかと言うほどの3人の演奏が続くなか綾子と和樹が自分の立ち位置に行くと今度はナゴミがギターを持ってステージに出てきて綾子とギター対決でもしているかのように交互にギターを弾いた。
「すげぇ…」
再び呟いて目をキラキラさせてる奏を見て相川がフッと微笑んでいると曲調が変化しツインギターのハードロックの曲が2曲演奏され、ナゴミはスタッフにギターを渡しドラム脇に置いてあるペットボトルの水を飲むとマイクの前に立った。
「実際にステージでやってみるとドラムソロからfallen angle、ballの流れって結構キツイよね。のりちゃん大丈夫?」
と和が聞くと大丈夫と言うように水を飲みながら直則は頷いた。
「石井さん、ここのMCも俺だけにスポット当ててメンバーにはちょっと休んでもらいたいんだけど」
と和が言うと
「そうだね。多分お客さんもバテてきそうだし少し長めの休憩いれた方が良いかも」
と綾子も言った。
その後他のメンバーも入れて短い打ち合わせをしたあと、メンバーが自分の立ち位置に戻ると真っ赤なスポットライトやレーザーの光が何本もステージに浮かび上がるHAVENの演奏が始まった。
そして、HAVENの演奏が終わるととてもノリが良くサイトでの反響が一番大きく初回限定盤の特典CDにも収録したNew worldをナゴミ、綾子、和樹の3人が柵に乗って演奏し終えるとメンバーは次々とステージを降り、暗くなったステージの上で後方にある大きなセットだけが青白く照らされていた。
「本編終わりだな。どうだった?」
と相川が隣に座る奏に聞くと
「スゴかったです。照明やレーザーも」
と奏は言ったあとに
「それに、2階にいてもメンバーの顔が直に見えるって言うのは良いですね。笑いもせず、母さんといちゃつくこともなく真剣で本当に真面目な顔でやってる父さん…」
と言ったあと奏は少し恥ずかしそうな顔をして
「絶対に言わないけどめちゃくちゃカッコ良いです」
と言った。
奏の思いがけない言葉に一瞬驚いた顔をした相川で奏の頭をクシャクシャッと撫でて
「だな。アイツに言うと調子に乗るから言わないでおこうな」
と嬉しそうな顔で言ってると、ステージが少し明るくなりメンバーが戻ってきた。
綾子と和樹がスタッフから楽器を受け取りメンバーが自分の位置に立つとナゴミもステージに戻ってきてマイクスタンドの前に立った。
それと同時に綾子のギターソロで始まる軽快なロックのAwakeの演奏が始まりアンコールが始まった。
Awakeのあと怪しくエロチックなforbidden fruitと続き、そのあとは幻想的な曲調でナゴミの歌声が切なくなるfateの演奏となった。
fateの演奏が終わるとステージは暗くなり、今度はナゴミではなく綾子にだけスポットライトが当たった。
「聞いた話によると、昨日は徹夜組もいたそうで…本当にお疲れ様です。スタッフの皆さんのおかげで明日無事初日を迎える事が出来る事を感謝します。とりあえず、私としてはメンバースタッフともに初めてのツアーを回る人ばかりなので昨日より今日、今日より明日と日々挑戦と進化を繰り返していければと考えています。よろしくお願いします」
と綾子が話を終えると、今度はナゴミにスポットライトが当たり話を始めた。
「綾子が言ってたことに関係するけど、fateとして初めてのツアーでメンバースタッフともに初めての人が多くお互いに意志疎通がスムーズに出来てない部分が多いと感じたけど、ツアーをまわって互いの事を知っていくうちに解消されてチームワークも良くなっていくと思うので…。多分、今回一緒に回るスタッフとはこれから先もライブやツアーで長い付き合いになると思うので今回のツアーは日々観客を満足させるものを作るのと同時にスタッフとメンバー合わせたチームfateを完成形に持っていくのも目標ですのでよろしくお願いします」
と言ったあと和は
「石井さん、時間押してごめん。MC終わり」
と言った。
その後、ドラムの音に合わせてナゴミが雑誌などで常に『この曲は観客が歌ってはじけてくれないと大失敗になる曲だから絶対に歌詞を覚えて来て歌って欲しい』と言っていた blue roseの演奏が始まった。
激しいハードロックの曲調のblue roseは歌詞のほとんどが掛け声と綾子と和樹のコーラスで形成されていてナゴミはほとんど歌を歌わないで観客を煽る形になる曲だった。
曲の最後…多分アンコールの最後になる部分ではナゴミ、綾子、和樹が柵に乗って大きくジャンプをして曲は終わり綾子と和樹がスタッフに楽器を渡すとステージ客席と全ての照明がついて明るくなった。
メンバーがイヤモニを外し、袖にいたスタッフがタオルを持ってステージに上がってくるとメンバーはタオルを受け取りスタッフはそれぞれ話を始めた。
そこに石井もやってきてメンバーと話を始めた。
「blue roseで観客がノッてこないと大失敗になってしまうな…。これを最後に持ってくるって、石井さんもメンバーもよっぽど自信あるんだな」
と相川が言ってると
「俺はあの曲が最後ってスゴい良いと思いますよ。見てて一緒に歌いたくなってくるし、身体も勝手に動き出しそうになるし…。しっとりとした曲で終わるのも余韻に浸れて良いけど、俺としてはこうゆう曲で思いっきりハジけて終わる方が好きです」
と奏は言った。




