奏の夏休み 1
相川の電話を切ったあと、リビングにいる和と綾子に
「あのさ、相川さんから連絡きて明後日から北海道に行くことになったから」
と奏が言うと和と綾子は驚いた顔をした。
「明後日?俺たちよりも早くから行くんだな。そんな早くから行ってどうするの?」
と和が聞くと
「何かさ、函館山行って花火大会見てニセコって所に行って温泉入ってくるって言ってた」
と奏は言った。
「へぇ、函館で花火大会見てニセコの温泉入ってくるのか?」
と和が聞くと
「違うよ。花火大会は札幌で温泉は登別温泉だって言ってたよ」
と奏は言った。
「函館行って札幌行ってニセコ行って登別温泉か…。楽しそうで羨ましいけどずいぶんとスケジュール欲張ったね。何日で行ってくるの?」
と綾子が聞くと
「一週間って言ってたよ」
と奏は言った。
「一週間か…。羨ましいなぁ。俺も行きたいな」
と和が呟くと
「父さんたちだっていろんな所に行くじゃん」
と奏は笑った。
「そりゃ、札幌、仙台、名古屋、福岡に大阪…。いろんな所に行くけど仕事だからね」
と和が言うと
「でも、ライブない日もあるんでしょ?その日に観光とかすればさ」
と奏は言った。
「そう思うだろ?でもさ、実際は何かしら仕事入ってたりして1日オフって事はなかなか無いから観光って言ってもね…」
と和がため息をつくと
「だいたい、どの街に行っても行くとこって決まってるしね。まぁ、久しぶりにあの店に行ってあれを食べれるって楽しみはあるけどね」
と綾子は笑ったあと
「札幌で一緒に美味しい物食べに行けたらいいね」
と言った。
2日後の10時少し前、相川が迎えに来ると
「相川さん、よろしくお願いしますね」
と綾子は言った。
「母さん、俺も子供じゃないんだから…」
と奏が言うと
「だよな。男の二人旅だもんな」
と相川は笑ったあと
「二人は明日から札幌?」
と聞いた。
「はい。ラジオの収録が入ってるから明日の昼過ぎには」
と綾子が言うと
「忙しくて大変だな。まぁ、俺たちは二人の分も楽しんでくるから」
と相川は笑った。
昼過ぎの飛行機に乗り函館に着いた奏と相川は観光をした。
修道院を観光していると
「ここは時間の流れも空気も違って何か厳粛な気持ちになるな」
と相川が言うと
「本当ですね。ここで神と人類に祈りを捧げて一生暮らすのってスゴいですよね?相川さん、出来ます?」
と奏は聞いた。
「俺?俺は無理だな」
と相川が言うと
「ですよね?俺も無理だなって思いますよ」
と奏も言った。
次に函館の教会巡りをしていると
「何か男二人で教会巡りって言うのもなんだな…」
と相川は呟いた。
「それ言ったらダメでしょ?」
と奏が言うと
「だけどさ。可愛い子が一緒だと盛り上がるだろうけどさ…。奏、女の子ナンパしてこいよ」
と相川は笑った。
「えっ、俺?俺、ナンパってしたこと無いからどうやっていいか分かんないんだけど…」
と奏が言うと
「マジ?無いの?俺なんて高校生の頃は1日一回はナンパしてたと思うけど」
と相川は言った。
「1日一回って…スゴいですね。俺、ナンパとかしてまで女の子と仲良くなりたいとか無いから」
と奏が言うと
「嘘だろ?女の子と仲良くなりたくないの?じゃあさ、今まで聞いたこと無かったけど彼女とかは?」
と相川は聞いた。
「いないですよ」
と奏が言うと
「えっ。お前いないの?絶対にモテるだろう?何で彼女作らないの?」
と相川は驚いた顔をした。
「別に欲しいって思わないし…。何かうちの親を見てるといつもベタベタして面倒くさそうだし、友達と遊んでる方が楽しそうだし」
と奏が言うと
「まぁ、あの二人見て育つとな…。でも、あの二人だっていっつもベタベタしてる訳じゃないんだぞ。仕事してる時はキチンとしてるし」
と相川は笑った。
夕暮れ時、奏と相川はロープウェイに乗って函館山に登った。
「結構人がいますね」
と奏が言うと
「だな。観光スポットだからね」
と相川は笑ったあと
「なぁ、後でさ誰かに頼んで写真撮ってもらおうよ」
と言った。
「別に俺が撮ってあげますよ」
と奏が言うと
「違うって。奏と二人で撮ってもらうんだよ。で、あいつらに送って羨ましがらせるの」
と相川は笑った。
夕暮れの空が少しずつ暗闇に変わってくると同時に山の麓に見える町並みに灯りがともり始めた。
「綺麗ですね…」
と奏が写メを撮っていると
「何かさ、こうゆうの見てると新しい曲とか浮かんできそうだよな」
と相川は笑った。
「相川さん、作曲するんですか?」
と写メを撮ってる手を止めて奏が聞くと
「するよ。事務所の若手の曲とかは俺が作ってる事も結構あるよ。最近作ったのだと森大輔とか」
と相川は笑った。
「そうなんですか?あれ?でも相川さんの名前で出て無いですよね?…あっ、SINJIって相川さんの名前だ」
と奏が言うと
「俺としては大輔にも自分で作れるレベルまでなってもらいたいんだけど、作詞は出来てもまだ売り出せるレベルの曲は作れないからさ」
と相川は言った。
「プロデューサーって大変なんですね…」
と奏が言うと
「別に大変じゃないよ。本当なら他の作曲家に頼んでもいいんだけど、自分で作りたいって思うから作るだけだし。それに、自分が育てた子が活躍するのを見ると嬉しいしやりがいある仕事だよ」
と相川は言ったあと
「なぁ、あそこにいる女の子二人組。あの子に写真撮ってって頼んでこいよ」
と言った。
「俺がですか?だったら向こうの家族連れにしましょうよ。あっちの方が言いやすそうだし…」
と奏が言うと
「バカ。せっかく道産子ギャルと知り合いになれるチャンスだぞ。ほら、行ってこいよ」
と相川は奏の背中を押した。
「っんとに…」
と言いながら奏はチラチラと相川を見ながら女の子に近付くと相川が顔を振って合図したので奏はため息をついてから
「あの…」
と声をかけた。
突然声をかけてきた女の子たちが驚いた顔をすると
「すみません。写真撮って欲しいんですけど…」
と奏は言った。
「えっ。写真?…いいよね?」
とショートヘアーの女の子が一緒にいるセミロングの女の子に聞くと
「うん。…いいですよ。どこで撮ります?」
と奏に聞いた。
突然声をかけても断れると思った奏が嬉しそうな顔で
「ありがとうございます。あの向こうで連れが待ってるんで一緒に撮ってもらえますか?」
と言うと、女の子たちは顔を赤くした。
奏が女の子たちを連れて相川のところに来ると
「ゴメンね。どうせ撮ってもらうなら可愛い子に撮ってもらいたいってこいつが言うからさ…。本当にごめんね」
と相川が言ったので奏は驚いた顔をして相川を見た。
「可愛いだなんて…お兄さんお世話上手いですね」
とセミロングの子が言うと
「お世話じゃなくて本当可愛いよ。…じゃ、これとこれで撮ってもらって良い?」
と言って相川は自分と奏のスマホを女の子たちに渡した。
「いいですよ。じゃ、そっちに立ってもらって良いですか?」
とセミロングの子が言うと
「はいはーい。ほら、奏もう少し後ろに立って」
と相川は言った。
女の子たちに指示された所に立つと奏は
「相川さん、可愛い子に撮ってもらいたいなんて一言も言って無いけど…」
と言った。
「まぁまぁ気にするなって。俺みたいなおっさんより奏に言われた方が女の子たちだって嬉しいだろうし」
と相川が笑ってると
「撮りますよ~」
と女の子たちは言った。
写真を撮って終わると今度は奏たちが夜景をバックに女の子たちの写真を撮ってあげた。
「ありがとうございます」
と女の子たちが言うと
「いえいえ、こちらこそありがとうね」
と相川は言ったが、女の子たちは相川の横で人間観察をしているチラチラと奏の顔を見てるのに気付いて
「ねぇ、君たちはどこから来たの?」
と聞いた。
「うちらは札幌です。お兄さんたちは?」
とショートヘアーの女の子が聞くと
「俺たちは東京。へぇ、札幌かぁ。俺たち明日札幌に行くんだよ」
と相川は言った。
「明日ですか?うちらも明日札幌に帰るんですよ」
とショートヘアーの子が話してると
「相川さん、俺腹減ったしちょっと寒いんですけど。そろそろ行きません?」
と奏は言った。
「そうだな。ねぇ、君たちこれから予定ある?もし良かったら一緒にご飯行かない?」
と相川が言うと女の子たちは少し戸惑った顔をして奏は
「ちょっと相川さん、そちらも迷惑してるでしょ?」
と言った。
「えっ、迷惑?男二人で寂しく食べるより楽しいだろ?ここで会ったのも何かの縁だし、お兄さん奢るからさ」
と相川が言うと
「あっ…どうする?」
と女の子たちは困った顔をした。




