禁断の果実
「やっと帰ってこれたよ…」
和は綾子のベッドに横の寝転がりながら言った。
「お疲れさま」
と綾子が言うと
「本当に疲れた。綾子が足りないくて死んじゃうかと思った」
とため息をついた。
和は新曲のレコーディンずっとスタジオに籠るのが終わると同時に今度は武道館ライブの練習で毎日スタジオに籠り、あまりな疲労で家に帰る力が無くてここ1か月ホテル暮らしをしていた。
「いつの間に3月も終わったなぁ…」
と呟いた和はポケットから小さな箱を取り出して綾子に渡した。
「何?」
と綾子が聞くと
「遅くなったけど、卒業のお祝い」
と和は言った。
綾子が箱を開けると指輪が入ってた。
「可愛い…」
と綾子が言うと和は
「桃の花をモチーフにして作ったんだ」
と笑って指輪を取り出すと
「綾子、手貸して」
と言った。
綾子が右手を差し出すと和は薬指に指輪をはめて
「やっぱり似合う。良いね」
と言った。
「ありがとう。大事にするね」
と綾子がウレシそうな顔をすると、和はいつものように綾子の太ももに頭を乗せて
「卒業おめでとう」
と笑った。
昨日、出来上がった指輪を村上に取りに行ってもらった和は
「あー!もう嫌だ!我慢も限界だ!綾子に会いたい!」
と突然叫んだ。
「明日になったら家に帰れるだろ?もう少し我慢しろよ」
とタケがあきれたように言うと
「タケは彼女に会いたいって思わないの?」
と和は言った。
「そりゃ会いたいよ。でもさ、こうやって会えない日が続いた後のセックスは燃えるんだよな。向こうもすげぇ甘えて来るし、愛されてるんだなって実感してさ…」
とタケが言うと
「あ…そ。お前ののろけなんて聞きたくないから」
と和は言った。
「何言ってるんだよ。お前も同じだろ?綾子ちゃんと明日は…」
とタケが言うと
「そんなことねぇよ」
と和は言った。
「は?今更隠すこと無いだろ?」
とタケが笑うと
「隠すもなんも、俺と綾子はそうゆう関係じゃないの」
と和は怒って言った。
「…え?マジ?お前と綾子ちゃん付き合ってないの?だってお前の癒しは綾子ちゃんの膝枕だろ?」
とタケが言うと
「付き合ってないよ。二十歳になるまで綾子に手を出すなって由岐とおじさんが言ったから…」
と和はふてくされた顔をした。
「えー、普通そんなことキチンと守るやついるか?そんなの隠れてやっちゃえばいいだろ?」
とカンジが言うと
「だって、やっぱり真剣なところを見せたいから…」
と和は言った。
「って言うかさ。俺も綾子とお前はとっくの前から付き合ってると思ってた」
と由岐が驚くと
「マジ?何それ?」
と和は肩を落とすと
「多分、親父も付き合ってると思ってるよ」
と由岐は言った。
「マジかよ…。だったらもっと早くに言ってよ。俺バカみたいに約束守って綾子に好きだとも言ってないよ」
と和は言うと
「じゃあ、そのまま二十歳まで待ったら?」
と由岐は笑った。
「いや、もう待たない!明日、言う。もう当たって砕けてもいい。綾子を俺の物にする!」
と和が言うと
「そんないきなりやっちゃったりしたら、綾子ちゃんに嫌われるよ~」
とタケがからかった。
「バカ、どうしてそんな下品な発想しか出来ないかな?俺の彼女にするって意味だよ」
と和はタケの背中を叩くと
「まぁ、綾子にその気がなけりゃどうしようも無い話なんだけどな。せいぜい頑張れよ」
と由岐は笑った。
「え?綾子にその気無いのかな?」
と和は由岐に聞いたけど
「さぁ?どうだろ?まぁ、当たって砕けろだ。頑張れよ」
と由岐は笑っていた。
「…なっちゃん?ねぇ、なっちゃん?どうしたの?」
という綾子の声に我に帰った和は
「え?何?」
と慌てた。
「何か考え事してたみたいだけど…」
と綾子が言うと
「いや、ライブの事を考えてた」
と咄嗟に思い付いた事を言った。
「もう明後日だもんね」
と綾子が言うと
「綾子の席取っ手あるから見に来てよ」
と和は笑った。
「あ…、ごめん。私、友達と一緒に行くことになって」
と綾子が申し訳なさそうに言うと
「謝らなくてもいいよ。でも、よくチケット取れたね」
と和は驚いた顔をした。
「うん。友達頑張ったみたいで…」
と綾子が言うと
「でも、帰りは寄ってくでしょ?綾子の好きなお菓子用意しておくからね」
と和は嬉しそうに言った。
「帰りも友達と帰るから無理かも…ごめんなさい」
と綾子はすまなそうな顔をした。
綾子が何かを隠してるように感じた和は
「何で謝るの?何が隠し事でもあるの?」
と聞いた。
「別に何もないよ」
と言ったけど、綾子は和の言葉にドキッとした。
別に相川のことを隠す必要は無いけど、今相川やスカウトされた話をする必要も無いと思ったけど、なぜか後ろめたい気持ちがわいていた。
「ふーん、そう」
と和は綾子に抱きついて
「ま、別に言いたくなったらいつでも言えばいいよ」
と言った。
「綾子も、もうすぐ大学生か…。大学入ったら世界が広がるよ…。サークル入って…サークルのコンパとかに顔だして…バイトして…合コン行って…」
と和が言うと
「なっちゃんの大学生の頃ってそんな毎日だったの?遊びばっかしじゃない?」
と綾子は呆れた顔をした。
「いや…。俺はそんな人たちを見てただけ。ほら、普段はこんな身なりだから相手にされないしさ。ボレロもどんどん知名度上がってきたからライブに曲作りにって忙しくて…大学も単位ギリギリだったし」
と和は言うと
「綾子、大学通い出したら俺から離れていくのかな?」
と切ない顔をした。
「なっちゃん?」
と綾子が言うと
「ワガママなのは分かってるんだ。でも、綾子だけは無理。誰にも渡したくない」
と和は言った。
綾子はドキドキしたが、またいつものようにからかってるだけだと自分に言い聞かせて
「またまた、そうやって私の事をからかうんでしょ?さすがにもう引っ掛からないよ」
と笑った。
和は綾子の隣に座り綾子をじっと見つめて
「からかった事なんて一度も無いよ。全部本当の気持ち。俺、綾子が好きだよ」
と言ったあと
「あのさ、前に禁断の果実の話をしたの覚える?」
と綾子に聞いた。
「あ…うん。食べたら二度と今までの二人には戻れない桃の話でしょ?」
と綾子が言うと
「そう。ガキの頃からずっと俺の前にはいつもその桃があったんだ。食べたくて食べたくて仕方ないんだけど、それを食べてもしも俺の前から一番大事な物が消えたら…って考えたらスゴく怖くて桃を手に取ることが出来なかった」
と和は言った。
「そしていつの間にかその桃を食べてもいいって日を決められて、その日が来るのをあと5年、4年、3年と俺は待ってた。本当はあと2年しないと食べちゃいけないって決まってるんだけど…」
と和は綾子の肩に頭を額を乗せて
「綾子、もう限界…俺、お隣のお兄ちゃんはもう出来ない。桃を今すぐ食べたい…」
和は呟いた。
「…食べてもいいよ」
と綾子が恥ずかしそうに言うと、和は顔を上げて
「ば…。言ってる意味分かってる?」
と綾子に聞いた。
綾子が顔を真っ赤にして頷くと
「冗談でも、からかってる訳でも無いんだよ」
と和は言った。
綾子が耳まで真っ赤になって俯いていると
「…じゃあ、俺を欲しがってよ」
と和は言った。
「え!」
と綾子が驚くと
「俺が綾子を求めてるのと同じくらい俺を欲しがって。綾子は俺の物だって…俺と同じ気持ちなんだって信じられるくらい俺を求めて」
と和は言った。
「…それは…」
と綾子が困ってると
「ごめん。違う。綾子を抱きたいとかそうゆうんじゃ無くて…。綾子の心が欲しいんだ。俺が綾子を誰よりも愛してるのと同じように綾子が俺の事を愛して欲しいんだ…。愛されてる自信が欲しい」
と和は言った。
「…」
綾子は和への愛をどう表現していいのか分からず俯いて視線を和の方へ少しずらした。
「…!」
和の手が震えてる。
手だけじゃなくて足も震えてる。
綾子が視線を少しずつ上へずらすと、和の肩も震えてて、顔は真っ赤に染まってギュッと目を瞑っていた。
こんなにも大きな身体をした大人なのに、私のために身体を震わせて…愛しい。
もう誰にも渡したくない。
ずっと隠してた本当の気持ちをぶつけてもいいんだ。
綾子は和が倒れてしまうほどの勢いで抱きついた。
「綾子?」
と和が自分の胸に顔を埋めてる綾子に言うと
「なっちゃん…好き。小さいときからずっとなっちゃんだけ好き。…私だけ見て。…私だけのなっちゃんになって。他の人と抱き合ったりしないで…他の人の所に行かないで」
と綾子は和の胸で泣いた。
和は綾子をギュッと抱き締めて
「大丈夫、安心して。綾子が求めてくれるなら他の物なんて何もいらない。綾子だけの俺だよ」
と言ったあと綾子の頭に優しくキスをした。




