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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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和と誠と綾子

どれくらい泣いただろう…。

もし、一生に流す涙の量が決まっているのならきっと全て使い果たしたと言っても過言じゃないほど泣いた。

ソファーに腰掛け何をするでもなく宙を見ていると

「帰ったんじゃ無かったのか?」

と言う和の声が後ろから聞こえてきた。

「…」

泣き張らした顔を見られたくないと顔を伏せた誠の隣に和が座った。

「…終わったんですか?」

と弱々しい声で聞く誠に

「まあね。お前が来てると思うと気合い入って良いのが録れたよ」

と和は笑った。

「…そうですか」

と呟く誠は、また自分がとても惨めな気持ちになってきた。

「…あのさ。曲が出来てこないってお前のスタッフから聞いたよ」

と和が言うと誠は驚いた顔をした。

まさか、和が知ってるなんて…もしかしたら綾子も?…もしも綾子がこんな情けない自分を知ったら…と誠が不安そうな顔をしていると

「たまたまさ、事務所でスタッフに会った時に聞いたんだよ。綾子はその時いなかったから知らないけど」

と和は言った。

「そうですか…。曲作りのために海外行ったり休みもらってるのに何も出来ないなんて本当に情けなくて笑っちゃいますよね」

と誠が言うと

「笑うか普通?」

と和はいつになく真面目な顔で言った。

「…」

誠が黙っていると

「俺はお前の事を情けないとは思わないし、もしお前の事を笑う人間がいたとしたら、そいつの事は殴ってやりたいぐらい腹が立つ」

と和は言った。

「…」

何も言わずにずっと俯いている誠に

「曲が作れないなら作れなくても良いじゃないか?無理に作ろうなんてする必要ないと俺は思うけど」

と和は言った。

「そんな…他人事だからって」

と誠が言うと

「確かに他人事だけどさ。無理に作ろうとして出来るもんじゃ無いし…。そりゃ、綾子みたいに何だかんだ言っても曲を作っちゃう奴もいるけど滅多にそんな奴はいないよ」

と和は言ったあと

「俺もさ、お前みたいに曲が作れなくて悩んだ事があったけど。そうゆうのってどうしようも無いんだよ。作れないものは作れない。そう開き直るしかないんだよ」

と言った。

「開き直る…ですか」

と誠が聞くと

「そう。曲なんて作れない。もう二度と作るもんかって。…だってさ、曲作る奴なんてまわりにいっぱいいるんだよ。俺一人が作れないからってそんなに困らないし、逆に言うと俺に曲を提供して売れるチャンスが欲しい奴もいるわけだし…」

と和は言った。

「確かに…」

と誠が言うと

「だろ?だからさ、無理して作ろうと思わなくてもいいんだって。こんな事を言ったら綾子に怒られるかもしれないけど綾子は特別なんだよ。追い込まれれば追い込まれるほど驚くようなものを作る…そんな奴は滅多にいない。やっぱり、心が安定してなきゃ良いものなんて作れないんだよ」

と和は言ったあと

「家に閉じ籠って曲を作らなきゃ作らなきゃって他の事を考える余裕が持てないのもダメだと思うぞ」

と和は言った。

「…余裕ですか」

と誠が言うと

「そう。もっと外に出て曲作りは忘れろ。行くところが無いならここに通って良いし…。のりちゃんや和樹のレコーディングなんて見る機会無いだろ?きっと勉強になるよ」

と和は誠の頭を撫でて立ち上がると

「そろそろ戻らないと怒られそうだな。お前も一緒に来るだろ?」

と言った。

「俺は邪魔になるから…」

と誠が言うと和はため息をついて

「あのな…。俺たちだって遊びでやってる訳じゃ無いんだからさ…。お前がいることで作業の邪魔になるって言うなら今日だって来いとは言わないし、通えとも言わないだろ?」

と言った。

「まあ、そうですけど…」

と誠が言うと

「だろ?それに明日から来るって事もみんなに伝えておかなきゃなんないしな…」

と和は笑った。


次の日から誠はスタジオに通った。

コントロールルームの隅にあるソファーに腰掛けレコーディング風景を眺めたり、スタッフと一緒になって機材の準備をしたりと今まであまりしたことが無かった裏方の仕事もした。

ケータリングの夕食を食べているとき

「うちの現場は働かざるもの食うべからずだから、みんなも遠慮しないでどんどん誠の事をこき使ってやって。じゃないと誠はタダメシ食えると勘違いしてここに通っちゃうからさ」

と和が言うと

「いえいえ、誠さんスゴいですよ。今日だって早くから入ってマイクセッティング手伝ってしてくましたし。俺たちスタッフは助かってますよ」

とスタッフは言った。

「ですよね?俺、タダメシどころか給料もらっても良いぐらいですよね?」

と誠が言うと

「こいつ、こうやってすぐに調子に乗るからあんまり褒めないで」

と和は言った。

「調子に乗ってなんかないですよ」

と誠がふて腐れた顔をしていると

「ふて腐れた顔してないで綾子にメシ食べるように言ってきてよ」

と和は言った。

「あっ、俺が行きますよ」

と山下が言うと

「いいから、そうゆうのは新人にやらせておいて山下はほら…肉ばっかり食べないで野菜も食べてろ」

と和は山下の皿にサラダを入れた。


誠がコントロールルームのドアを開けると、綾子は耳にベッドホンを付けてペンをクルクルと回しながら机に向かっていた。

「綾子、ご飯食べないのか?」

と誠は声をかけたが綾子には聞こえていないみたいで紙に何かメモるとまたペンをクルクル回していた。

「綾子?」

と誠が近付いて声をかけると綾子は驚いたようにビクッとして誠を見るとベッドホンを外し

「ビックリした…」

と言った。

「ごめんごめん。ご飯食べに来ないから呼びに来たんだけど…」

と誠は笑ったあと、机にある紙を見て

「歌詞考えてたの?」

と聞いた。

「うん。なっちゃんの曲の歌詞なんだけど歌詞作るの苦手だから後回しにしてたんだけど、さすがにそろそろ作らなきゃって思ってね…」

と綾子が言うと

「へぇ、和さんの曲に綾子が歌詞付けるんだ。で、どんな曲?」

と誠は聞いた。

「これなんだけどね…」

と綾子がベッドホンを渡すと誠はそれを耳に当てると、アコースティックギターだけで演奏されてる曲が流れてきた。

「これ、まだデモ作ってる途中?」

と誠が聞くと

「ううん。これで完成形」

と綾子は言った。

「へぇ…。ギターだけでもいい曲だな」

と誠が言うと

「そうなんだよね」

と笑ったあと

「誠ならどんな歌詞を書く?」

と聞いた。

「俺?」

と誠は驚いた顔をしたあと

「俺なら…ベターだけどやっぱり恋愛かな?」

と言った。

「やっぱり?私は片想いとかそうゆうのが合うと思ってるんだけど、上手い言葉が見つからなくて…やっぱり歌詞は難しいよね」

と綾子が言うと

「綾子はさ、昔から苦手意識が強いよな?何で?」

と誠は聞いた。

「もともと文章書くのは苦手なんだけど言葉の選び方が上手に出来ないって言うか…伝えたい事を上手く伝えられないし…。その点、誠は昔から歌詞作るの上手いよね?」

も綾子が言うと

「そうかな?」

と誠は言った。

「そうだよね。デビューした頃なんて、曲は私で歌詞は誠って感じだったじゃない。何で次々とポンポン言葉が浮かんでくるんだろうって不思議だったし、誠がいるなら私は歌詞を書かなくていいじゃんってその頃から諦めてたもんね」

と綾子は笑うと

「いつまでたっても誠となっちゃんには追い付けないなぁ…。まあ、才能の差だから仕方ないけどね」

と呟いた。

「…」

まさか綾子が自分に追い付きたいと思ってるなんて考えた事が無かったので誠は驚いた。

いつも自分の前を歩いていると思っていた綾子が、自分の気付かない所では自分を追いかけていたなんて…。

「なんだ、そうだったのか…」

と誠が笑うと

「えっ。何が」

と綾子は聞いた。

「いや、綾子が俺を追いかけていたなんてさ…。それに和さんと同等に思われてのも今まで知らなかったから意外でさ」

と誠が言うと

「そう?昔からずっと思ってたよ。あー、どんなに頑張っても二人みたいな詞は書けないなぁって。どうやったら書けるのかな?って思ってたよ。ねぇ、どうやったら書けるの?コツとかあるの?」

と綾子が言うと

「それは教えれないよ」

と誠は笑った。

「どうして?教えてよ」

と綾子が言うと

「それは自分で見つけるもんでしょ?それにそれを教えたら俺の仕事が減るだろ?」

と誠は笑った。

「まぁ、そうだけどさ…」

と綾子がペンを回していると側に置いてあるスマホのバイブが鳴った。

「…」

綾子が少し困った顔をしてスマホを見てるので

「どうした?」

と誠は聞いた。

「あ…うん。前にね、俊太郎先輩通じて飯田君とline交換したんだけど…。スゴい慕ってくれてるのはわかるんだけど、なっちゃんが嫌な顔してるんだよね」

と綾子が言うと

「何で?」

と誠は聞いた。

「まぁ、挨拶とかがほとんどなんだけど…ほぼ毎日来るからさ」

と綾子が言うと

「毎日?何それ?そりゃ、和さんも嫌な顔するよ。綾子、、迷惑してるってはっきり言えばいいじゃん」

と誠は言った。

「迷惑って訳じゃ無いけど…。だから最近は仕事忙しいから気付かなかった事にしようと既読にしないようにしてるんだけどさ。そればかりも悪いじゃない?どこで一緒に仕事するかも分からないし…」

と綾子が言うと

「…そうだけどさ。あいつドラマ撮ってるんだろ?ドラマってそんなに暇なの?って言うかさ、綾子の事を気に入ってるとしか思えないんだけど」

と誠は言った。

「それは無いよ。結婚してるのも分かってるし、なっちゃんの事を聞いてくる時もあるし」

と綾子が笑うと

「綾子はさ、昔から恋愛に鈍感だから気づかないだけだって。普通、その気無いのに毎日連絡とかおかしいと思うだろ?」

と誠は言った。

「…そうかな?でも、渉だってちょくちょく連絡してくるよ」

と綾子が言うと

「渉とそいつと一緒に考えるのがまず間違ってるんだよ。渉は寂しいと誰にでも連絡してくるの」

と誠は言った。

「まぁね。そうなんだけど。でも、俳優さんなんてキレイな女優さんに囲まれて仕事してるんだよ。私なんか気にいる訳無いじゃん」

と綾子が笑うと

「でも、和さんが良い顔しないのわかってるなら、本当に連絡きても知らんぷりしてた方がいいよ。知らんぷりしてたら向こうも連絡してこなくなるから」

と誠は言った。



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