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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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darkness

次の日の昼過ぎ、スタジオに入ると和はストレッチや発声練習をしたりと身体や喉を暖めていた。

綾子は相川と昨日驚いた録った奏太の音の確認をしたり、和とボーカル録りの打ち合わせをしたりしていた。

2時間ほどしてレコーディングの準備が整うと和がブースに入り、綾子が作詞作曲したdarknessと言う曲のボーカル録りが始まった。


AメロBメロは順調に録り終えたが、サビに入ると和は首を傾げて何度も同じところで歌が止まってしまうようになった。

「休憩しようか?」

と相川が言うと和はヘッドホンを置くとコントロールルームに入ってきた。

「うーん…。感情の入れ方が難しいな…」

と和が言うと

「ちょっと休憩して気持ちを入れ替えてみろよ」

と相川は和にペットボトルを渡した。

和はペットボトルを受け取ると

「綾子はどう思う?」

と聞いた。

「私は、サビは歌詞とは裏腹に救いを求めてる感じで書いたのよ。『Do you laugh at me who am poor?Or are you disappointed?』って言うのは、哀れみでもいいから私を見て欲しい、私をここから連れ出して欲しいって気持ちで」

と綾子が言うと

「そっか…。孤独と恐怖の絶望の淵で自分への失望感で一杯だと思ってたから、何度歌ってもしっくりこなかったんだな」

と和は言った。

「ごめん。私の説明不足だったね」

と綾子が言うと

「いや、俺もキチンと確認しなかったのが悪いし」

と和は言ったあと

「とりあえず、腹減ったし1時間休憩しようか?」

と言った。


スタッフがロビーにあるケータリングの食べ物を食べていると誠がやってきた。

「お疲れ様です…」

と誠が頭を下げるとスタッフと話をしていた相川が

「おう、誠。どうした?陣中見舞いか?」

と聞いた。

「はい。昨日、和さんに明日差し入れ持って来いと言われたんで」

と誠が言うと

「何だ、あいつ。差し入れ持って来いとか偉そうだな」

と相川は言ったあと

「あいつらコントロールルームにいるから」

と言った。

「いや、差し入れ持ってきただけだし邪魔しちゃ悪いので」

と誠が相川に差し入れの入った袋を渡そうとすると

「何言ってるんだよ。今、休憩中だし会ってけよ」

と相川は誠と肩を組むとコントロールルームに向かって歩き出した。

「いや、本当に…」

と誠が言うのも聞かずにドアを開けた相川は

「おい、誠が陣中見舞いに来たぞ」

と嬉しそうに言った。

ギターを弾いていた和と綾子が手を止めると

「誠、遅いよ。待ちくたびれ」

と綾子は嬉しそうに笑い

「キチンと差し入れ持ってきたんだろうな?」

と和は言った。

「持ってきましたよ…」

と誠が綾子に袋を渡すと

「あっ。健太の店だ」

と綾子は言った。

「和さんが綾子の好きそうな物を持ってこいって言ったから健太の店でプリンを買ってきましたよ」

と誠が言うと

「うそっ!健太の店のプリンてすぐに売り切れるんだよ」

と綾子は興奮気味に言った。

「そんなに人気あるの?よく買えたな」

と和が言うと

「和さんの電話のあとすぐに連絡して予約したんですよ。…本当は前日予約は取らないけど綾子の為ならって特別に」

と誠は言った。

「うわぁ、健太に悪いことしたね。でも、嬉しい。本当に健太の所のプリン美味しいんだよね」

と綾子は言ったあと

「山下さん、誠からの差し入れってみんなにも分けてきてくれる?」

と山下に袋を渡した。


その後、食事を終えたスタッフも戻ってきて和はブースに入った。

「俺、邪魔になるし帰ろうかな」

と言う誠に

「せっかく来たんだから、レコーディング見てけよ」

と和が言ったので誠は帰りたい気持ちを我慢して隅にあるソファーに腰かけた。

二人が作った曲を聴いたら余計に惨めな気持ちになる…と誠がため息をついていると

「誠、無理やり引き留めてごめんね」

と綾子が隣に座ったので、自分の気持ちを悟られないようにと平然を装い

「いや、良いよ。どうせする事無かったし…」

と誠は笑った。

「…なっちゃんね、前に会った時に誠の様子が変だったってずっと心配してて今日のボーカル録りはどうしても誠に見てもらいたいって言ってさ」

と綾子が言うと

「…どうして?」

と誠が言うと綾子は歌詞の書かれた紙を誠に見せた。

「この曲を作った時の私と今の誠は同じだからって」

と綾子は言ったが誠は黙っていた。

「私ね、本当はなっちゃんに全部吐き出してみろって言われても曲なんて作れなかったの。良い曲を作らなきゃならないって必死になっていたんだけど全然良いフレーズなんて浮かばなくて、どんどん自分を追い込んでも焦りばかりが膨らんで…。もう自分はダメだって思ったのよ。で、良い曲売れる曲を作るなんてカッコつけたことを思ってるから曲が作れないだってなっちゃんに言われてね」

と綾子は笑ったあと

「その時に何も分からないくせにってスゴい頭にきて、もう商品になるような曲は作らない自分の好きなようにしか曲は作らないって開き直ったのよ。で、自分のモヤモヤした気持ちを全部曲にしてると曲が作れない原因が分かったのよ」

と言った。

「…原因?」

と誠が聞くと

「篠田さんが亡くなって本当はすごくショックで本当は仕事なんて出来るような心境じゃ無かったのに同情を買うようなことはしたくないってプライドが邪魔して平気な顔して笑って仕事して…。でも、そんな自分が本当は嫌で嫌で仕方なくて…。矛盾したことばかりの毎日で、そんな状態で曲なんて浮かばないの当たり前だよね?で、この曲に自分への苛立ちや曲が作れない失望感や篠田さんを失った悲しみとか全てぶつけて、なっちゃんに歌詞を頼むのも悔しいから泣きながら歌詞を書いたら何か吹っ切れた気がしてね」

と綾子が言ってると

スピーカーから

「綾子、そろそろ始めたいんだけど大丈夫か?」

と言う和の声が聞こえた。

「ごめん。私、作業に戻るね。それ、私が作った歌詞。歌詞作るの上手くないから恥ずかしいけど、なっちゃんが誠に見せてやれって言うから」

と言うと綾子はソファーから立ち上がると相川の隣に座った。

スタッフの合図で曲が流れると誠は驚いた顔をした。

これ、本当に綾子が作ったのか?

まるでホラー映画に使われるかのような毒々しくもあり恐怖感を煽るような…それでいて悲壮感が漂う曲。

こんな曲を綾子が作るなんて信じられない…。

綾子はバラードからハードロックまで幅広く作れるけど…こんな暗く重たい曲を書いた事は一度もない。

和が歌い出すと誠は更に驚いた顔をして、綾子に渡された歌詞を見た。

「Darkness…」

誠は題名を呟いた。

歌詞を目で追っていくと誠は肩が震えてきた。


一人になりたいのに孤独が怖い。

弱音を吐くのが大嫌い

甘える方法を知らない

愛想笑いを浮かべる毎日の中で

存在価値を見出だせない

心に広がる暗闇から抜け出せない


まるで自分の事を歌詞にしてるみたいだと誠が思ってると、和の歌声が耳に入ってきた。

『Do you laugh at me who am poor?

Or are you disappointed?』

和の歌声に涙が出そうになった誠はコントロールルームを出た。

肩を震わせ必死に涙を堪えながら歩いていたがロビーにあるソファーにぶつかった瞬間、誠はその場に座り込み顔を伏せた。

「…」

大粒の涙が次から次へと溢れてきた。

胸に引っ掛かっていたものが全て溢れ出てきたように泣いた。

あの日の篠田の苦しそうな姿、ベッドで眠る篠田の姿、プロなんだから泣いたらダメだと言われた事、何事も無かったかのように笑顔でステージに立つ自分、篠田が亡くなった現実から逃げるように海外へ行った事、曲が作れない自分はミュージシャンとしてやっていくのは無理なのでは?と言う不安、みんな篠田が亡くなっても篠田に恥ずかしくないような仕事をしているのに自分は立ち止まったまま何も出来てない恥ずかしさ…。

いろんな物が次から次へと溢れてきて誠は泣いた。

綾子はDarkness=闇と言う曲を作った。

綾子も辛かったのかもしれない…けど綾子はそのツラさも曲にしてしまうだけの能力がある。

けど、自分は…そんな能力なんて持ち合わせてなんていない。

どんなに頑張っても綾子になんて追い付けない。

どんなに頑張っても綾子になんてなれない。

どんなに足掻いても自分は闇から抜け出せない。

通りかかる人々が声をかけるのをためらうほど、大の男がこんなに泣くのかってほど誠は泣いた。

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