叶わぬ想い 1
「隣に立てる男か…」
飯田はそう呟くと、相川の言葉を思い出していた。
知り合いの話と言ってたけど、あれはSperanzaのメンバー内の話だ。
考えてみたら綾子の話だと分かるし、ナゴミなら過去に遊びまくってたと言われても納得できるけど…そんなに派手に遊んでたナゴミに惚れてたのか?
って言うか、遊び相手にもなれないとか…そんな事を綾子が言うなんて意外な気もするし確か初恋同士だったんじゃないのか?
あんなに綾子を大事にしてる兄貴が、同じバンドでナゴミが派手に遊んでるのを知っていながら付き合うとか許すとも思えないし…。
飯田は頭の中が混乱していた。
飯田がマネージャーと一緒にスタジオの入ってるビルの玄関ホールで車を待ってると、Speranzaのメンバーたちがエレベーターから降りてきた。
「お疲れ様でした」
と飯田とマネージャーが言うと
「お疲れ様でした」
とメンバーたちは頭を下げて相川と和のいる方へ歩いて行くと何か話をしていた。
綾子と和が何か話をしている様子で相川と弥と隼人は笑いながら見ていたが、誠だけは少し寂しそうな顔で笑っていたように飯田には見えたが
「気のせいか?」
と飯田は呟いた。
大きなワゴン車が玄関ホールの前に横付けされると和と綾子は手を握り何か話をしながら車に乗り込んだ。
「うわぁ。やっぱり絵になる二人だな」
とマネージャーは呟いていたが飯田は、相川に肩をポンと叩かれ和と綾子を見て今にも泣きそうな顔で笑ってる誠の姿に釘付けになっていた。
「ありゃキツいな…」
飯田は呟いた。
「えっ?何?」
とマネージャーが聞き返すと
「いや、独り言。俺、俊太郎さんと約束してるんだとけど送ってくれる?」
と飯田は言った。
20時を少し過ぎた頃、飯田は俊太郎と待ち合わせしている店についた。
「遅くなってすみません」
と飯田が頭を下げると
「俺も今来たばっかりだから。ほら、早く座って」
と俊太郎は言った。
アルコールと料理が運ばれてくると飯田と俊太郎は 「お疲れ」
と乾杯をした。
飯田がグッとアルコールを飲むと
「そういえばさ、綾子からお前に連絡先教えておいてって頼まれたんだけど、いつの間に仲良くなったんだよ」
と俊太郎は聞いた。
「仲良くって言うか…。俺、先日早坂さんと綾子さんとメシに行った時にスゴい失礼な事を言ってしまって、今日同じスタジオで仕事だったから謝罪に行ったんですよ」
と飯田が言うと
「謝罪?で、和解出来たの?」
と俊太郎は聞いた。
「はい。そこでいろいろ話をして…また今度メシに行こうって話になって連絡先を交換しようって話になって」
と飯田が言うと
「そっか。でも、綾子は和さんに余計な心配かけたくないからって男と二人では絶対にメシに行かないからな」
と俊太郎は言った。
「ところで、俊太郎さんは綾子さんと付き合い長いんですか?」
と飯田が聞くと
「綾子?まぁ、綾子だけじゃなくてSperanzaのメンバーとは高校の頃からだから長い付き合いだよ。何で?」
と俊太郎は言った。
「いや、昔のSperanzaってどうだったのかな?と思って」
と飯田が言うと
「高校時代からスゴかったよ。Speranzaの原型はalienてバンドなんだけど桁外れに上手くて人気もあってさ。alienが出るライブのチケットは必ず売れるって有名だったし実際ものすごい盛り上がったしね。プロになる奴ってこうゆう奴らなんだろうなって思ったよ」
俊太郎は言った。
「プロになる奴ですか?」
と飯田が聞くと
「そう。今だから笑い話だけど俺なんかさ、綾子に告ってフラレてるんだぜ。普通、フラレてた相手の顔なんて見たくないと思うだろ?でも、綾子の作った曲が…あいつらのライブが忘れられなくてライブの度に見に行って…」
と俊太郎は笑った。
「綾子さんの事好きだったんですか?」
と飯田が驚くと
「まあな。初めはさ、電車で一緒になる隣の高校の可愛い女の子って思って見てたんだけど、ギター背負ってるの見てナンパしたんだよ」
と俊太郎は笑った。
「ナンパ…ですか?」
と飯田が言うと
「そ、ギターやってるの?って声かけて、俺もバンドやってるんだよねって話しかけて。それから、会えば話をするようになって…綾子はめちゃくちゃ可愛かったしあの性格だろ?好きにならないはずが無いんだよな。で、ある日綾子にライブを見にきてってチケットを2枚もらったんだよ」
と俊太郎は言った。
「2枚?」
と飯田が聞くと
「そう。彼女と見に来てって渡されて…。彼女いないって言ったらモテるのに何で?嘘でしょ?って言われてさ。だから、勢いでだったら綾子が彼女になってよって言ったらめちゃくちゃ困った顔して好きな人がいるから無理って言われてさ。今までフラれた事って無かったしめちゃくちゃショックだったけど、それよりも綾子の困った顔を見るのが嫌でさ告白自体を冗談にしちゃった」
と俊太郎は笑ったあと
「でも、あの時告ったことを冗談にしたおかげでそれからも友達として付き合いは続いてるし…」
と言った。
「…綾子さんってモテました?」
と飯田が聞くと
「そりゃモテたよ。見た目と性格がよかったのもあるけどあの音楽的才能で男からも女からも人気あったよ」
と飯田が話をしてると、突然部屋に相川が入ってきて
「やぁ、遅くなって悪い悪い」
と言った。
「えっ?あの…相川さん?」
と飯田が驚いた顔をしてると
「いや、俊太郎が飯田さんとメシ行くって言うから俺も来ちゃった」
と相川は笑ったあと
「飯田さんともう少し話がしたくてね」
と言った。
「話…ですか?」
と飯田が聞くと
「いやさ、スタジオ出るときあいつの事を見てただろ?」
と相川は言った。
「あいつ…誠さんの事ですか?」
と飯田が言うと
「そう。何か感じた?」
と相川は聞いた。
「…もしかしたらですけど、スタジオで聞かせてもらった男の話って誠さんなのかな?って」
と飯田が言いにくそうに聞くと
「うん。嘘ついてごめんな」
と相川は言ったあと
「あいつさ、あれでも綾子に気持ちを悟られないようにって必死に頑張ってるんだよ」
と相川は言った。
「何?誠、何かあったんですか?」
と俊太郎が聞くと
「いやさ、和と綾子が仕事の話をしてるのをさ…。仕方ない事だけど誠が持ってて和が持ってない唯一和に勝てる場所に和が入ってきたからさ…。あいつ、最近仕事でも悩んでるみたいだったから綾子と久しぶりに会って気分転換してくれればと思ってたんだけど二人が話してるのを見てちょっと落ち込んでさ」
と相川は言った。
「それは仕方ないでしょ?」
と俊太郎が言うと
「仕方ないのは誠も分かってるんだけどさ」
と相川は言った。
「こう言ったら失礼かもしれませんけど、誠さん健気で可哀想ですね」
と飯田が言うと
「確かにな。けど、誠は和の事をスゴく信頼してるし」
と相川が言ったので俊太郎は驚いて
「マジっすか?あいつ、いつも和さんに憎まれ口叩いて…あいつが信頼してるのは由岐さんの間違いじゃないですか?」
と言った。
「確かに由岐と誠もそうだけど、和と誠はお互いに言いたい事を言い合って仲悪そうに見えるけど、誠が悩んでる時に頼るのは和だし、Speranzaが忙しい時とか綾子の様子がおかしいと思った時に様子を見ててくれって頼むのも誠だし」
と相川が言うと
「…ナゴミさんは誠さんが綾子さんを好きだって知らないんですか?」
と飯田は聞いた。
「それは初めから知ってるよ。だから、誠と綾子が楽しそうにしてるとすぐにふて腐れるし誠を嫌ってるように見えるけど、実際は誠が綾子をどうにかしようと思ってない事は分かってるし、自分と同じくらい綾子の事をよく見てるのも、綾子が自分の次に信頼してるのも誠だってわかってるから綾子の事を任せれるんだろうな」
と相川は言ったあと
「それに、誠は誠でそうやって和に認められてる事も嬉しいんだよ」
と言った。
「そうなんですか…。まぁ、ケンカするほど仲が良いって言いますし…それだけ仲良くなければ先輩にあんな口聞けないですよね」
と俊太郎が笑うと
「でも、そんなに仲良くなるのって何かきっかけが無いと無理ですよね?」
と飯田は言った。
「そうだね。…きっかけは綾子と和が結婚する時かな?」
と相川が言うと
「結婚?何かありましたっけ?」
と俊太郎が聞いた。
「ああ、あの時の事は事務所から箝口令が出てたきらな…。まぁ、俊太郎も飯田さんは口が固そうだしもう16年も前の話だから…」
と言ったあと相川はアルコールをグイッと飲んで話を始めた。




