何でだよ
相川と俊太郎の話を聞いてた片岡も
「Speranzaがライブをやったのもスゴいと思いましたけど、その後もいつも通りに仕事してるし、Butterflyみたいな曲を作っちゃうなんて…。プロだからって言えばそうなんだけど綾子さんのこと尊敬します」
と泣きそうな顔をした。
「篠田さんに恥ずかしくない…誉めてもらえる仕事がしたいって綾子はずっと言ってるからね。裏で支える立場の人間からするとそこまで思われるのって正直羨ましくなるよ」
と相川が言ってると楽屋から結城が出てきて
「相川、メンバーが話あるからって待ってるから来てくるないか?」
と言ったので
「はい、今行きます。…じゃ、また」
と飯田たちに頭を下げて結城と一緒にfateの楽屋に入っていった。
飯田は自分の楽屋に入るとマネージャーに
「ねぇ、西岡さん。綾子のマネージャーってどんな人か知ってる?」
と聞いた。
「マネージャー?結城さん?あの人は事務所の副社長も兼ねてる業界でも有名な人だよ」
とマネージャーが言うと
「fateのじゃなくて…綾子の個人マネージャー」
と飯田は聞いた。
「個人?俺は面識無いけど…確か山下さんって30ぐらいの男じゃないか?その人がどうした?」
とマネージャーが言うと
「いや、その人じゃなくて…篠原…?篠田…だったかな」
と飯田は言った。
「篠田さんか。彼はSperanzaのマネージャー…って言うかSperanzaのメンバーのチーフマネージャーやってた人だよ。あそこの事務所はマネージャーとミュージシャンの信頼関係をを大事にするから滅多なことでマネージャー変更しないんだよね。だから、篠田さんもSperanzaがデビューの時からずっとマネージャーやってきて苦楽をともにしてる人でさ」
とマネージャーが言ってると
「ちょっと待って。やってたって言ったけどマネージャー辞めたの?」
と飯田は聞いた。
「いや…。篠田さんは2ヶ月前に亡くなったんだよ」
とマネージャーが言うと
「亡くなった?」
と飯田は驚いた顔をした。
「和樹は日本のミュージシャンに関心が無いから知らなかったかもしれないけど、業界では有名な話なんだよ」
とマネージャーが言うと
「有名?」
と飯田は聞き返した。
「うん。2ヶ月前までSperanzaはワールドツアーまわっててそのラストが横浜アリーナ3日公演だったんだよ」
とマネージャーが言うと
「横浜アリーナ3日?」
と飯田はまた驚いた顔をした。
「そう、前にも言ったけどSperanzaは日本を代表するロックバンドで、その締めくくりが横浜だったんだけど、2日目のライブの後にメンバーと一緒に楽屋にいたときに篠田さんが突然倒れて…」
とマネージャーは話を始めた。
救急車が来るまでメンバーが付き添っていたこと、会場入口に溢れかえったファンで救急車がなかなか入って来ることが出来ず、スタッフとアルバイト総出でファンの整理をして救急車を楽屋口に誘導したこと、一緒に救急車に乗ろうとしたメンバーを騒ぎが大きくなってまた救急車が動けなくなったら困るとスタッフが止めたこと、病院につく前に救急車の中で篠田が心筋梗塞で亡くなったこと、泣いた顔や暗い顔でステージに上がるのは観客に失礼だと篠田に怒られると言って誰一人として篠田が亡くなっても泣かなかったこと、次の日のライブでメンバーがラストに篠田のためだけに一曲演奏したこと、ライブが終わりステージを降りた途端にメンバーが号泣したこと、特に綾子は自分の足で歩けないぐらい憔悴しきって和に支えられながら楽屋から出てきたこと、告別式の最初から最後までメンバーがずっと泣いてたことなどを話した。
「でも、篠田さんはそんなにもメンバーやスタッフに愛されて幸せだったと思うよ」
とマネージャーが言うと
「まぁ、仕事に穴を開けないのはこの業界にいれば当たり前と言えば当たり前だけどな」
と飯田は言った。
「確かにそうだけど…」
とマネージャーが言うと
「俺だって仕事するよ。綾子が特別って事は無いだろ?みんな大袈裟過ぎるし、何かさその事でまわりの同情かったり好感度上げようとか…そうゆうのあるんじゃないの?ステージとステージ降りての印象がまるで違うのもギャップを売りにしてるっぽいし、お互いに作った曲をやるとかステージでいちゃつくとか何かさ…仲の良さをアピールしてるっぽくてわざとらしいんだよ。そこまでして稼ぎたいのか?って感じ」
と飯田は言った。
「…お前本当にひねくれてるな」
とマネージャーがため息つくと
「西岡さんは綾子のファンだから何でも良い方へ良い方へ考えるんだよ。西岡さんみたいに騙される奴がいてちやほやするから綾子みたいな女が男の中でやっていけるんだろうけどね」
と飯田は言った。
「…お前さ。その話、絶対に誰にもするなよ」
とマネージャーが言うと
「好感度下がる?」
と飯田は聞いた。
「好感度とかそうゆう問題じゃなくて」
とマネージャーが言うと
「俺は演技で勝負してるんだよ。演技が認められて海外からもオファーくるようになったの知ってるだろ?それに俺が言いたいことを何でも言うのは業界の人は誰でも知ってることだろ?」
と飯田は言った。
「そりゃ、お前は演技で勝負してるのは俺だって分かってるよ。でも、綾子さんはダメだ。ケンカ売って勝てる相手じゃない」
とマネージャーは慌てて言うと
「何ムキになってるんだよ。女にケンカ売るような真似なんてしないよ。それに俳優とミュージシャンなんて一緒の現場になることなんてほとんど無いじゃん」
と飯田は笑った。
「まぁ、そうだけど」
とマネージャーが言うと
「そういえば今度月9の顔合わせあるんだよね?確か共演者にカヨ子いたよね?俺さ、最近カヨ子可愛いなって気になってたんだよ」
と飯田は言った。
2週間後、飯田はテレビ局でドラマの出演者やスタッフと顔合わせをした。
主演はアイドル事務所に席を起きながらも最近演技の評価が上がってきている吉田陽翔とモデルながら女優業に力を入れてきているカヨ子、脇を固めるのが実力派で有名な飯田と鈴木果奈と由岐だった。
…実は飯田は学生時代にはモデルだったが由岐の出演する映画を見て自分も早坂由岐のような演技をしたいと思い俳優を志した過去があったので、今回の仕事を受けた理由もカヨ子と共演することよりも尊敬する由岐と共演が出来るからの方が大きかった。
顔合わせが終わり、会議室を出た飯田は
「早坂さん!」
と前を歩いていた由岐に声をかけた。
「どうした?」
と由岐が言うと
「このあと、まだ仕事入ってますか?」
と飯田は少し緊張ぎみに言った。
「いや、今日は終わりだけど」
と由岐が言うと
「じゃ、これから一緒にメシ行きませんか?いろいろ話もしたいし…」
と飯田は言った。
「メシ?いいよ。久しぶりに行くか?何が良い?」
と由岐が言うと
「マジっすか?じゃ、焼き肉でも」
と飯田は言った。
「和樹、本当焼き肉好きだな。俺も今日は肉って気分だし平和苑でも行くか?」
と由岐が笑うと
「はい。じゃ、何時に待ち合わせします?」
と飯田は嬉しそうに笑っていると、前から山下と綾子が歩いてきた。
「よう、綾子」
と由岐が声をかけると
「あっ、由岐さん。お疲れ様です。…飯田さんも先日はお世話になりました」
と綾子は笑顔で言った。
「何?綾子と和樹って面識あるの?」
と由岐が驚いた顔をすると
「エンドレスのイベントとfateのライブ収録で」
と飯田は言った。
「へぇ。山下、綾子は曲作りもあるんだし、きちんと休み取らせてるんだろうな?」
と由岐が言うと
「えっ!まぁ…」
と山下は困った顔をした。
「何だ。スケジュール詰まってるのか?だったら結城さんに言って仕事をもっと和にまわして綾子を休ませるように言えよ」
と由岐が言うと
「そんなこと山下さんが言えるわけないじゃない。それに最近はスタジオに籠ってることが多いから、こうやって外に出る仕事は気分転換に良いのよ」
と綾子は言った。
「…そうか?綾子がそう言うなら良いけど…無理だけはするなよ」
と由岐と綾子が話してるのを見ている飯田はとても面白くない気分になっていた。
どいつもこいつも綾子綾子って…。
その上、生意気にも綾子はタメ口だし早坂さんがどんなにスゴい俳優やってるか知らないのか?
…その上、何だ?この空気?親し過ぎるし近すぎだろ?
綾子ってナゴミと結婚してるんじゃないの?
…側にナゴミがいないとこうやって愛想振り撒いて大物に取り入るのか?
と飯田がイライラして二人を見てると
「和樹?…和樹聞いてるか?」
と由岐が言ったので
「えっ!あ…はい」
と慌ててこたえた。
「綾子も今日は上がりだって言うし、野郎二人よりも花がある方がいいだろ?綾子も焼き肉好きだし」
と由岐が言うと
「えっ!…はい。まぁ…」
と飯田は苦笑いで言った。




