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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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生と死

結城と話をしていた奏たちのところにスタッフがやってきて、相川は既に帰った事を伝えると

「なんだ、あいつ。いつの間に帰ったんだよ」

と結城は言った。

「じゃ、俺たちも終電無くなったら困るしそろそろ帰ろうか?」

と勇次郎が言うと

「そうだな…。明日学校だしな」

とさっちゃんは言った。


奏たちは電車に乗って乗り換えの駅まで4人一緒にいたが何も話さなかった。

ガクッと肩を落として俯いている奏の姿を見て何か慰めの言葉をかけた方が良いのかも思ったが、果たしてどんな言葉をかけていいのか分からなかった。

乗り換えの駅についた4人は電車を降りた。

「じゃ、明日な」

と琳が言うと

「明日…練習するんだっけ?」

と奏が突然聞いてきた。

「一応、前田には練習したいって伝えてあるけど。何か予定あった?」

と勇次郎が奏に聞くと

「いや…。この前やりたいって言ってた曲を楽譜にしてみたからさ」

と奏は言った。

「マジ?俺たちもこれでオリジナル3曲目に突入じゃん!」

と琳が嬉しそうに言うと

「だよな。学校行くの面倒くせえとか思ってたけど、明日が楽しみになってきたよ」

とさっちゃんは言ってから

「やべぇ、もう電車来るわ。勇次郎、行こうぜ。じゃ、明日な!」

と言って乗り換えのホームに向かって走り出した。

「おう。じゃあな…。って俺も急がないと終電乗り損ねるわ。奏も乗り遅れるなよ」

と言って琳も走ってホームに向かった。

「じゃあな」

と言って奏も乗り換えのホームに向かうと琳が向かい側のホームに立っていて奏に笑顔で手を振っていた。

「バカ、恥ずかしいやつだな」

と奏が言ってるとホームに電車が入ってきた。

奏は電車に乗ると恥ずかしそうに琳に小さく手を振り替えしていると電車は出発してホームが少しずつ遠くなった。

家に着くまで奏は別れについて考えていた。

まだ高校生の自分は大切な人の死を経験したことがないし想像したこともない…いや、想像しようにも自分とは遠く離れた世界の出来事のようで現実味が無くて想像することさえ出来ない。

もし例えるなら…例えが間違っているかも知れないけど唯一自分が今までの人生で経験した別れは初恋の子が遠くに行ってしまい会えなくなったことだろうか?

小学生だった頃の出来事だけからあれが本当に初恋だったかと言われたら実際はどうだったのだろうと言う感じだけど、あの時はあの娘が目の前から突然消えてしまった現実を受け入れることがなかなか出来なくて泣きはらした。

泣いて泣いて…そして少しずつあの娘がいなくなった現実を受け入れれるようになって…いつしかあの娘がいない日常が普通になって…あの娘のことを考える時間が減って今では時々しか思い出さなくなったと言うか写真を見ないと顔も思い出せなくなった。

大切な人の死も同じなのだろうか?

綾子やSperanzaのメンバーも泣いて泣いて少しずつ篠田が亡くなった現実を受け入れて篠田がいない日常が普通になって篠田を思い出す時間が減って顔さえも思い出さなくなるんだろうか?

「…」

ずっと篠田の死を悲しんでこの場に立ち止まっている訳にはいかないとは思う。

もし自分が死んだとしたら家族や友だちなど大切な人が自分のためにずっと泣いてる姿は見たくないし、毎日毎日泣いて過ごしていると思うと死んでも死にきれないと思うから、出来れば明るく楽しく毎日を過ごして欲しいと思う。

…けど、顔さえ思い出してもらえなくなってしまったら…自分が存在していたことを忘れられてしまったら…。

「そんなの悲しすぎる…」

と奏は呟いた。


「ただいま…」

と奏がリビングに入ると和がソファーに座ってPCを見ていた。

「父さん?」

と声をかけると和は振り返り

「あっ。おかえり」

と奏に言った。

「ただいま」

と言って奏は隣のソファーに座ると

「何見てたの?」

と聞いた。

「これ?事務所から送られてきたスケジュールだよ」

と和が言うと

「へぇ…。忙しいの?」

と奏は聞いた。

「今週、少し取材や撮影があるけどそのあとはレコーディングに入るから少し余裕が出来てくるよ」

と和が言うと

「レコーディング?」

と奏は聞いた。

「そうだよ。実写版のエンドレスのテーマソングの以来があるからね。…そのあとは新曲のPRとアルバム製作…」

と和はため息をついて

「曲作りの宿題があるとオフもオフで無いようなもんだからな…」

とソファーに寝転んで

「俺は良いとしても、綾子はSperanzaもfateもってずっと忙しかったからまとまった休み欲しいんだろうな」

と言った。

「…」

奏が黙っていると

「嫌な場面を見せてすまなかった」

と和は言った。

「えっ?何が?」

と奏が聞くと

「さっき結城さんから電話あってさ…。俺たちが楽屋から出て来るところ見たんだろ?」

と和は言った。

「あ…、うん。まぁ…」

と奏がどう答えて良いのか迷っていると

「はっきり言って俺もあんな写真を撮られるのは嫌だよ。スマホを取り上げてぶっ壊してやりたくなるぐらいムカつくよ」

と和は言った。

「でもさ…渉も誠も隼人も我慢してたんだ。それなのに部外者の俺が綾子の写真を撮るなって怒る訳にはいかないだろ?」

と和は言ったあと

「結城さんから篠田さんのことを聞いたんだろ?篠田さんが死んだって言うのに笑顔でステージに立つSperanzaを軽蔑したか?」

と奏に聞いた。

「えっ?いや…そうは思わないけど、何でこんな時にまで仕事しなきゃいけないんだろう?って可哀想だと思った」

と奏がこたえると

「可哀想か…。そうだよな。こんな時でも仕事しなきゃいけないなんて本当に嫌な職業だと思うよ」

と和は言ったあと

「でも、もしも綾子は俺が死んでもステージに立つと思うよ…。もちろん、俺も綾子が死んでもステージに立つと思う」

と言った。

「えっ?」

と奏が驚くと

「奏はさ、死を想像したことある?…違うな…。死んだらどうなるとか考えたことがある?」

と和は聞いた。

「想像って言うか…。自分が死んだらみんなが悲しむのかな?とか…でも、いつまでも俺が死んだことを悲しまないで欲しいなとか…でも、いつか俺のことをみんな忘れるのかな?とか考えたら悲しくて…いつまでも俺が死んだことを引きずって欲しくない気持ちと忘れられたくない気持ちとで…」

と奏が言うと

「確かにな…。俺はさ、忘れることはな無いと思うよ。そりゃ、毎日毎日その人のことを考えて暮らすことは無くなるけどふとした時にその人のことを思い出したりその人と過ごした日々を思い出したり…」

と和は言った。

「ふとした時?」

と奏が聞くと

「そうだな…。俺の場合は突然思い出す時もあるし、その人との思い出のある場所とか出来事があると思い出すな」

と和は言ったあと

「自分の胸の中ではいつまでも生き続けていくんだよ」

と言った。

「そっか…」

と奏が言うと

「だから、その人のためにも恥ずかしくない生き方をしなきゃいけないと俺は思うよ」

と和は言った。

「恥ずかしくない生き方?」

と奏が聞くと

「そうだよ。涙が枯れるまで泣いて涙が枯れたあとは前を向いてしっかりと生きてく…と言っても特別なことをする訳じゃなくてご飯食べて自分のやるべきことはきちんとやって笑いたい時はいっぱい笑って楽しいことはおもいっきり楽しんで精一杯生きる…。それが恥ずかしくない生き方なんじゃないかな?って俺は思うよ。だから、俺は例え綾子が死んでもステージに立つと思うし、俺が死んでも綾子にはステージに立って欲しいんだよ。それが俺たちの精一杯生きるって意味だとも思うからね」

と和は言った。

「…母さんもまこちゃんたちもみんなそうなのかな?Speranzaは大丈夫なのかな?」

と奏が聞くと

「篠田さんとの別れは突然過ぎて今すぐ現実を受け入れて前を向けないとは思うし悲しみから立ち直る速度は人それぞれだから俺は何も言えないけど、今日のライブを見たなら分かるだろ?あいつらは自分たちが何をするべきか分かってるし、何をしたら篠田さんが一番喜ぶかも悲しむかも知ってる。だから、大丈夫。Speranzaが篠田さんを失ったことはとてもツラいことだけど、それを乗り越えてSperanzaはますます大きく成長すると思うよ」

と和は言った。


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