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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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プロだから

結城はワゴン車の運転手に何か話をしてすぐに楽屋口に戻っていった。

少しして後部座席のドアが開くと楽屋口から綾子のマネージャーの山下と和のマネージャーの佐伯が出てきた。

それに続いて出てきた綾子と綾子に寄り添っている和を見て奏は言葉を失った。

キャップを深く被り俯いてガクッと肩を落としてとても小さく見える綾子と、俯きながらも綾子の肩を抱き支え悲しそうな顔で歩く和。

そんな二人に容赦なくスマホを向けて写真を次々と撮る大勢のファン。

二人が車に乗り込むと和は綾子に何か話しかけて肩を抱き寄せた。

綾子の肩が震えていて泣いてるのが離れていてもわかった。

ファンが次々と二人の姿を写真を撮っているなか、結城が車に乗り込むと後部座席のドアが閉まり、ワゴン車はすぐに会場を出ていった。

綾子と和が去った楽屋口でファンの人はそれぞれ話をしていた。

「写真撮れた?」

「二人とも顔もバッチリ撮れたよ。渉と誠のもあるよ」

「マジ?私の表情が上手く撮れてないから送ってよ。隼人の送るからさ」

「ナゴミと綾子が寄り添ってるなんて貴重だよね」

「やっぱりさ、綾子のことが心配だったのかな?ほらこの写真、綾子が泣いてるの撮れてるもん」

「本当だ。目真っ赤じゃん。可哀想だね」

「すぐにツイートしなきゃ」

「そうだよね?こんな写真滅多に撮れないよね?」

こんな会話があちこちから聞こえてきて奏は言葉に出来ない悲しみと怒りで胸が張り裂けそうになった。


楽屋口からどんどんとファンの人たちが去っていき、いつの間にか奏たち以外は誰もいなくなった。

入り口の側にある縁石に座ってる琳たちは俯いて何も話さない奏に何と声をかけていいのかわからず、3人で今日のライブの話をしていたが

「でもさ…あれはひどいよな」

と勇次郎が言うと

「さっきのファン?」

とさっちゃんは聞いた。

「そう。あんな写真撮って嬉しいか?撮られる方の気持ち考えろよって思わない?撮った写真を投稿するんだろ?最悪じゃん」

と勇次郎が言うと

「メンバーもスタッフも写真撮るの止めれば良いのに…」

とさっちゃんは言った。

「…でもさ、俺は何も言えないな。そうゆう投稿を今まで見てたからさ。ファンとしてはちょっとしたことでも知りたいって思うじゃん」

と琳が言うと

「確かにな…。でも、こんな風に撮られてるって思うとさ…。同じファンとして嫌だよな」

とさっちゃんは言った。

「俺さ…」

と奏は呟いたあと

「父さんも母さんも芸能人なんだなって思った。あんなふうにいっぱい写真撮られても何も言えないで逃げるように車に乗って…。何かさ、ファンの姿にガッカリしたのと腹立つのと…。本当にファンなら撮られる方の気持ち考えろよって」

と話をしていると、さっき綾子と和を乗せて行った車が戻ってきた。

車の中から縁石に座ってる4人を見て

「メンバーいないのにまだ待ってる子がいますよ」

と運転手が言うと結城は外を見た。

「あれ?あの子たち…」

と結城は呟くと、車を降りて奏たちの方へ歩いてきた。

奏たちがこんな時間までいて何か言われるのでは?と思っていると

「もしかして、奏君か?」

と結城は奏に聞いた。

「えっ?…はい」

と奏が答えると

「やっぱりそうか」

と結城は言った。

「あの…」

と奏が困った顔をすると

「そっか、俺のこと覚えてないか。ほら、fateのライブで楽屋に来たときに会っただろ?fateのマネージャーの結城だよ」

と結城は言った。


結城に連れられて楽屋口から中に入った4人に結城は缶コーヒーを渡し

「こんな時間までどうしたの?綾子を待ってたの?だったら、さっき送って行ったから家に帰ってるよ」

と言った。

「それはさっき帰るところを見たので…。もしかしたら相川さんに会えるかなって思って」

と奏が言うと

「相川?」

と結城は聞いた。

「はい、スタッフの人が亡くなったって聞いたのでもしかして篠田さんが…いや、違うとは思うんですけど不安で…相川さんに聞いてみようと思って」

と奏が言いづらそうにしてると

「あぁ、その話か…。奏君は篠田のことを知ってるの?」

と聞いた。

「はい、小さいときには一緒に遊んでもらうことが多くて、遊園地とかにも連れてってくれたこともあって」

と奏が言うと

「そうか…。そう言えば篠田は奏君が可愛い可愛いってよく言ってたもんな」

と結城はコーヒーを一口飲んだ。

「あの…違いますよね?」

と奏が聞くと

「残念だけど…亡くなったのは篠田だよ」

と結城は言った。

「あっ…」

と言ったきり何も言えなくなった奏を見て琳たちは

「奏、大丈夫か?」

と聞いた。

「昨日のライブの後、突然倒れてメンバーがずっとそばにいたんだけど意識が無くて。救急車には相川が付き添ったんだけど、病院に着く前に心臓が止まったらしくて俺とメンバーが病院に着いた時には既に亡くなっててね」

と結城は言った。

「篠田さんて、誰なんですか?」

と勇次郎が聞くと

「デビュー前からずっとSperanzaについてたマネージャーだよ」

と結城は言った。

「マネージャー…」

と琳たちは驚いた顔をした。

「そんな身近なが亡くなったのに何で何も無かったようにライブして…。それに、昨日だって今日だって出待ちのファンにあんなに写真撮られて…。ライブだって中止にしてあげたり、それが無理なら出待ちの写真を止めさせればいいのに…。メンバーが可哀想過ぎます」

と琳が言うと結城の顔が一瞬にして曇り

「君たちには申し訳ないけど、可哀想って言葉はあいつらも俺たちスタッフも絶対に言われたくない言葉だね」

と言った。

「えっ?」

と琳が言うと

「あいつらの仕事はミュージシャンだけど、エンターテイナーでもあるんだ。自分達の音楽を聴いてもらうだけじゃなくて、たくさんの楽しませたり夢を与えるのも仕事なんだ。楽しかった来てよかったって笑顔で帰ってもらえるようにあいつらはステージに立ってるんだ。それを可哀想とか絶対に言って欲しくないな…」

と結城は言ったあと

「プライベートで写真を撮られるのはNGだけど、出待ちはね…。出待ちが良いか悪いかって難しいけど、写真はどうしようもないとしか言えないな…。本当はメンバーだって撮られたくないし、昨日なんて誠が車の中でこんな時にも笑顔で手を振らなきゃならないなんて嫌な職業だって嘆いていたよ」

と言った。

「だったら…」

と琳が言うと

「けど、他のメンバーに誠は怒られてたよ。自分たちの仕事は夢を与える仕事だって。笑顔で手を振るのも仕事の一環だから我慢しなきゃなんないって…」

と結城は言った。

「それから今日のライブだけど…篠田の家族に言われたんだよ。篠田はSperanzaと一緒に仕事してることが自慢で誇りだっていつも言ってるって。たがら、篠田のためにも今日のライブを頑張って欲しいって」

と結城は言ったあと

「俺が篠田は自分のせいで仕事に穴を開けたらどう思うだろって話をしたら、相川がライブが終わるまでもう絶対に泣くな、泣き晴らした顔でステージに上がるのはプロ失格だって。昨日のライブの後、スゴい良かったって嬉しそうに誉めてた篠田を失望させるようなことだけは絶対にするなって言ったんだ。それからは誰一人として絶対に泣かなかった。今日は朝から会場入りしていつも以上に細かいリハーサルしてたし、開演ギリギリまで楽屋でdaybreakの練習してて…あんなに気合いが入ってるメンバーに長年一緒にやってるスタッフも驚いたしメンバーに引っ張られる感じでスタッフもいつも以上に気合いが入ったらしい。だから、可哀想とは口が裂けても言って欲しくない。スゴい良かったって誉めてあげて欲しいな。そう言われるのがメンバーもスタッフも一番望んでるし嬉しいと思うよ」

と結城は言った。

「実際、スゴい良いライブだったけど…でもやっぱり」

とさっちゃんが言うと

「Speranzaのメンバーもスタッフもプロの集団だから仕事に私情は挟めないし挟まない。篠田が亡くなったのに笑ってステージに立ってるメンバーを非情だと思う人もいるかもしれないけど、今日を楽しみにしていた人が17000人もいるのに突然ライブを中止にすることも出来ないし、だからと言って観客の期待を裏切ってガッカリさせるようなステージには絶対に出来ない。それがプロなんだよ」

と結城は言った。

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