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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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長い夜 3

結城とともに病院に入ると救急室の前でじっと下を向いて長椅子に座ってる相川と篠田の家族の姿を見つけた。

みんな下を向いたまま何も話をしない。

篠田の年老いた両親と何度か会ったことのある少し年の離れた姉夫婦とその子どものすすり泣く声にメンバーは不安で心が押し潰されてしまいそうになった。

「相川、メンバーが来たよ」

と結城が言うと相川と篠田の家族は重い頭を上げた。

「連絡出来なくてすまなかったな」

と相川は力無い声で言った。

「相川さん、篠田さんは?」

と隼人が震える声で聞くと篠田の母親が嗚咽を上げて泣き出してしまった。

「せっかく皆さんが来てくれたのに…」

と泣いてる母親の姿にメンバーが呆然と立ち尽くしているところにちょうど救急室の隣にある救急病室から看護師が出てきて

「処置が終わりましたので中にお入りいただけますよ」

と言った。

「皆さんが来てくれて幸弘も喜ぶと思います。会って上げて下さい」

と篠田の姉は先に病室に入った。

メンバーは不安で身体を震わせながら病室の中に入ると、ベッドに篠田が眠っていた。

「幸弘、幸弘の大切な人たちが来てくれたよ」

と篠田の姉は涙を浮かべながら篠田の耳元に話しかけた。

メンバーがベッドの側に行くと篠田はまるで楽しい夢でも見ているかのように優しい顔で眠っていた。

「篠田さん…」

とメンバーが堪えきれずに泣き出してしまうと

「幸弘、皆さんが来てくれて喜んでいると思います。いつも皆さんの話ばかりしていて、本当に皆さんの事が大好きでしたから…」

と篠田の姉は言った。

「篠田さん…」

と隼人と誠が篠田の手をそっと握ると、とても冷たく篠田がこの世に存在しないことを実感した。

「篠田さん、遅くなってごめんね」

と綾子と渉は篠田の冷たくなった頬に触れた。

メンバーの目からは次々と涙が溢れてきて誰一人として話を出来る状態じゃ無くなってしまった。

「病院に着いた時には既に心肺停止状態だったらしくて…」

と篠田の姉が言うと

「…私たちのせいだ…」

と綾子が呟いた。

「…えっ?」

と篠田の姉が言うと

「救急車がもっと早くに着いていたら助かっていたかもしれないのに…。私たちのファンの子が溢れてたせいで救急車が遅れて…そのせいで…」

と綾子は泣きながら訴えると

「それは違うって私たちも幸弘もわかってますよ」

と篠田の姉は言った。

「息子の友達が今日、皆さんのコンサートに行ってたんです。人がたくさんいて救急車が入れないでいるとスタッフの人が大勢出てきてくれて救急車が通りやすいように観客の整理をしてくれてたって聞きました。…それから、幸弘が救急車に乗るまで皆さんが側にいてくれたことも、救急車に一緒に乗ろうとしたけど騒ぎが大きくなったら救急車がまた動けなくなるってスタッフに止められたことも聞いてます」

と言ったあと

「たくさんの人に良くしてもらって幸弘の最後は幸せだったと思います」

と篠田の姉は泣いた。


それからしばらくSperanzaのメンバーは篠田の姉と社長、結城、相川と篠田の側にいたが誰一人として何も話をせず沈黙が続いたが

「皆さん、明日もコンサートあるんですよね?もう遅いですしお帰りなって下さい」

と篠田の姉が言った。

「いえ、申し訳ないですが今夜は篠田さんの側にいさせてもらえませんか」

と隼人が言うと

「でも、皆さんは仕事もありますし…」

と篠田の姉は言った。

「近くにホテル取ってるって言っただろ?相川と俺がお姉さんと一緒にいるから今日は失礼した方がいい」

と社長が言うと

「でも…」

と渉は言った。

「幸弘、自分のせいで皆さんが疲れた顔でコンサートするんじゃないかって心配してると思います。Speranzaは音楽と夢をたくさんの人に与える最高のプロ集団だって言ってました。そして、そのプロ集団の中に自分がいるのが自慢でもあり誇りだと言ってました。けど、何も言わないけど無理してることもあって心配になるときもあるって言ってました。幸弘のことを思ってくれるのは嬉しいですが、幸弘のことを思うならゆっくり休んで明日のコンサートに備えて下さい。そして、たくさんの人に夢を与えてあげて下さい」

と篠田の姉が言うと

「そうだよ。お前たちがもしも倒れたりして仕事に穴を開けたりしたら篠田さんどう思うと思う?自分のせいでって思うんじゃないか?」

と相川は言った。

「…」

メンバーが黙っていると

「それから、今日のライブが終わるまで絶対に泣くな。泣き晴らした顔でライブに立つなんてプロのすることじゃない。今日のライブ、スゴい良かったって篠田さん嬉しそうに話していただろ?そんな篠田さんを失望させることだけは絶対にするな」

と相川は言った。


ホテルに向かう車の中で綾子は

「今日は一人になりたくない…」

と言うと車の中にいるメンバーと結城は驚いた顔をした。

めったにワガママを言わない綾子が

「一人になると泣いちゃいそうだから、一人になりたくない」

と言い出したので、どうしていいのか皆迷ってしまった。

さすがに、何も起きないとは言え綾子と二人で同室にはなれない…と結城が思っていると

「じゃあさ、4人一緒の部屋でいいんじゃない?」

と渉が言った。

「4人で?」

と結城が言うと

「だって、綾子と二人で同室ってのはさすがにヤバいでしょ。だったら、部屋を変更してもらえるなら変更してもらって4人一緒でいいんじゃないんですか?もし、それが無理なら3人で同室でもいいし…」

と渉は言ったあと

「俺が綾子ならやっぱり今夜は一人になりたくないし」

と言った。

「最悪、部屋に集まってもいいよな」

と誠が言うと

「そうだな。今夜は皆で寝るか」

と隼人も言った。


ホテルについて結城がフロントに話をすると、運良く5人で泊まれるスイートルームが空いていたので部屋を急遽変更してもらった。

「スイートなんて…大丈夫ですか?」

と隼人が心配そうに言うと

「なんとか経費で落としてもらえるようにするよ」

と結城は言った。

部屋に入るとメンバーは渉と誠、綾子と隼人と結城とでベッドルームの部屋割りをした。

ベッドに寝ても眠りにつけない綾子がリビングに行こうとすると

「綾子、寝れないのか?」

と隼人が声をかけた。

「ごめん。起こした?」

と綾子が言うと

「何か寝付けなくて…」

と隼人は言った。

二人が眠っている結城を起こさないようにとリビングに行くと物音に気付いた渉と誠もリビングにきた。

「こんな風に4人で夜明けを迎えるなんて初めてじゃない?」

と渉が言うと

「デビューしたばかりの頃、北海道に船に乗って移動したことあったじゃん。あのとき、くそ寒い甲板に出て朝日見たじゃん」

と誠は言った。

「あのとき渉が絶対にビッグになってやる!って朝日に叫んでさ…」

と綾子が言うと

「それで少し離れたところで朝日見てたトラックの運ちゃんが頑張れよってコーヒー奢ってくれてさ。俺たちのCD渡したけど、運ちゃんあのCD聴いてくれたのかな?」

と隼人は笑った。

「確かさ、頼まれてもいないのにサインも書いちゃってさ…。名前も聞いたことないガキのサイン入りCD貰ってあの運ちゃんどう思っただろうな…」

と誠が言うと

「デビューしたばかりの頃って全然相手にされなくて悔しい思いばっかりしたけど、篠田さんの運転する車で日本中まわって楽しかったよな…」

と隼人は言った。

「関西のラジオ局でディレクターが綾子に曲を流して欲しがったら枕営業しろって冗談言った時に篠田さんがめちゃくちゃキレて、二度とこの局には来ませんって啖呵きってさ。向こうも二度と来るなって言ってきてケンカみたいになって俺たちが止めに入ったよな」

と渉が笑うと

「あとで後悔しても知らんぞみたいなことを言って帰ってきたよな」

と隼人も笑った。

「あんなにキレてた人が局出た途端に今相手にしてくれない奴ら全員絶対に見返してやろうって泣き出してさ。俺と渉が車運転して東京に帰ったよな」

と誠が言うと

「篠田さん泣きつかれて東京につくまでずっと寝てるし…」

と綾子は笑ったあと

「あの頃、どこに行っても相手にしてくれないし、ライブやっても全然客が入らなかったし…悔しい思いや悲しい思いをたくさんしたけど、今となっては皆で車1つで日本中まわってたあの頃が一番楽しかったかもしれないね」

と言った。


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