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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
105/356

長い夜 1

楽屋口と観客の出入り口から外に出た数十人のスタッフは

「すみません、通路開けて下さい」

「すみません。救急車入りますんで開けて下さい」

と会場の警備員とともに次々と観客に声をかけた。

「あれってSperanzaのスタッフじゃない?パス下げてるよ」

「救急車って…メンバー倒れたの?」

「嫌だ。渉だったらどうしよう」

などと会場付近のファンたちは騒ぎ始めた。

「お願いします。道を開けて下さい」

とスタッフは観客の隙間に入り込み身体でバリケードを作り救急車が入れる通路を開けた。

敷地内に大きなサイレンと

「道を開けて下さい」

と言うスピーカーから流れる救急隊員の声、そしてスタッフの叫び声とバリケードでやっと救急車は敷地内にゆっくりと入ってきた。

救急車が通り過ぎるとその後を追うようにファンの人たちが後ろからついてくる。

「危ないですから離れて下さい」

とスタッフが声をかけても次々とファンの人は救急車の後をついてきて救急車が楽屋口に着いた時には遠巻きに何百人ものファンがいた。

救急車からストレッチャーが運び出されて、入口にいた救護スタッフに誘導されて救急隊員は救護室に向かった。

「救急車来ました!」

と会場のスタッフが救護室に入ってくると篠田のまわりにいたメンバーは篠田から離れた。

救急隊員は篠田の様子を確認するとすぐにストレッチャーに乗せた。

ストレッチャーに乗せられた篠田を見て

「大丈夫ですよね?」

と綾子は泣きながら救急隊員に聞いた。

「最善を尽くします」

と隊員は言うと足早に篠田を乗せたストレッチャーは救護室を出て行った。

篠田の後を追って救護室を出たメンバーは楽屋口を出ようとしてスタッフに取り押さえられた。

「ダメです。外にはファンがいっぱいいるので騒ぎになります」

とスタッフが言うと

「だって篠田さんが!」

と綾子は言ってスタッフの手を払おうとした。

「そうだよ。行かせてくれよ!」

と隼人も言ったが

「また救急車が動けなくなります!」

とスタッフは言った。

救急車に運び込まれて身体に機械をつけて点滴の準備をしている篠田をスタッフに押さえられて見ていると相川が楽屋口にやってきて

「俺が着いていくから。お前たちは会場が落ち着いてから来い」

と言った。

「相川さん…」

と震える声で隼人が言うと

「何かあったらすぐに連絡するから」

と言って相川は救急車に乗り込んだ。

相川が乗り込むとすぐに救急車のドアは閉められて先ほどと同じように大きなサイレンの音を鳴らし始め足早に走りだした。

「篠田さん!」

と綾子は泣き叫ぶと力が抜けてその場に座り込んでしまった。

「綾子!」

と慌てて綾子を支えるスタッフに連れられて綾子は楽屋口から会場の中に消えた。

渉、隼人、誠は涙目で肩を落としていたが集まってるファンに力なく一礼して会場の中に入って行った。


その頃、和は結城と一緒に食事をしていた。

「奏は明日ライブ行くんだって」

と和はふて腐れた顔で言ったが

「そうなんだ。綾子、喜ぶだろうな」

と結城は平然とした顔で言った。

「…俺も行きたいな」

と和がさらにふて腐れた顔で言ったが

「無理だろ?明日はラジオの公開録音あるんだから」

と結城は言った。

「…わかってますよ」

と和が言うと

「お前は、そうやってずっと村上のことを困らせてきたのか…。綾子がいないと本当にダメダメだな」

と結城はため息をついた。

「最近、ずっと仕事ばっかりで綾子とも仕事でしか話しない生活だし…。綾子が不足してるんですよ」

と和が言うと

「綾子が不足?何だよそれ」

と結城は笑った。

「何だよじゃないですよ。綾子の膝枕がないとスタミナ切れするんですよ…」

と和が言ってると結城のスマホが鳴った。

「はいはい、分かったよ。休み取れるようにスケジュール見直してみるから」

と言って結城がスマホを見ると相川からの着信だった。

「相川?何だ?あいつ、今日はSperanzaのライブ見に行ったんじゃなかったか?」

と結城がスマホに出ようとすると

「えー、相川さん行ったんだ。良いなぁ」

と和はブツブツと文句を言い出した。

「もしもし?」

『相川ですけど…今…』

「え?なに?」

『今…で…』

結城は和がブツブツ言ってるのと相川の声の向こうで鳴ってる救急車のサイレンの音で相川の声が聞き取りづらかった。

「和、ちょっと静かにしてろ!」

と結城は言ったあと

「ごめん、何か聞き取りづらくて…。何かずいぶん騒がしいところにいるみたいだけど、どうした?」

と結城が相川に話していると和は口を尖らせてオレンジジュースを飲んだ。

『すみません、実は篠田さんが倒れて今救急車で○×大病院に向かってるところで』

と相川が言うと

「えっ!篠田?」

と結城は慌てた顔をして鞄からメモ帳とペンを取り出した。

「病院どこだって?篠田の様子は?」

と言うと結城はメモ帳に○×大病院と書いてから

「分かった。社長には俺から連絡しておくし家族の方も事務所のスタッフに連絡させるから。…あいつらはどうしてる?」

と相川に聞いた。

『観客を出してる途中で救急車が入ってきて騒ぎになってしまったんで、騒ぎが収まるまで会場で待機するように伝えました』

と相川が言うと

「そうか。それがいいな。じゃ、今から俺も行くけど篠田のこと頼むな」

と言って結城はスマホを切った。

結城が青ざめた顔をしてスマホをいじってると

「結城さん?…篠田さんどうしたんですか?」

と和が聞いた。

「…詳しいことは分からないけど、倒れて運ばれたらしい」

と結城は言うとスマホを耳にあてて

「和、申し訳ないけど病院に行かなきゃならないから、一人でタクシーで帰ってもらってもいいか?」

と聞いた。

「俺は大丈夫だけど…。篠田さんは…」

と和が話をしてると結城は静かにしろと言うジェスチャーをして

「もしもし、社長ですか?結城ですけどお疲れ様です。実は相川から連絡がきて篠田が倒れたて…意識が無いらしくて救急車で○×大病院に運ばれてるそうです。…えぇ、それがかなり危険状態らしくて。…はい、家族にはまだ連絡してなくて…。はい、事務所のPCにご両親の連絡先は入ってます。…いいんですか?…じゃ、ご両親にお願いします。僕は先に病院に行ってますので」

と言ってスマホを切って、慌てて帰る準備を始め

「和、悪いな。じゃ、明日午後2時に迎えに行くから寝坊するなよ」

と言うと結城は慌てて店を出た。


結城と別れた和が家に帰るとお風呂から上がった奏が冷蔵庫から牛乳を出して飲んでいた。

「父さんお帰り。今日は早いね」

と奏が言うと

「早いって言っても11時だろ?」

と和は言った。

「でも、最近は日付変わる前に帰って来ないでしょ?でも、母さんいなくて残念だね」

と奏が言うと

「…綾子から何か連絡あったの?」

と和は聞いた。

「今日は帰れないかも知れないって1時間ぐらい前に連絡きたけど…」

と奏が言うと

「そう…か…」

と和はソファーに座った。

和の様子がおかしいことに気付いた奏が

「どうしたの?何かあったの?」

と聞くと

「…いや、別に何もないよ」

と和は言ったあと

「明日、ライブ行くんだろ?」

と聞いた。

「うん。今回は自分たちで取ったからアリーナでも結構後ろの席なんだ。さすがにわっ君でも見つけれないだろうな」

と奏が言うと

「そうか。俺も行きたかったな」

と言ってから和は立ち上がり

「ごめん、疲れたから先に寝るから」

と言ってリビングを出て行った。

いつもと明らかに違う和の様子に奏が違和感を感じてると琳からlineが入った。

『Twitter大変なことになってるみたいだけど、知ってる?』

とのメッセージに

「知らない。何があったの?」

とlineを送ると

『とりあえず俺のTwitter見てみろよ。大変なことになってるみたいだぞ』

と返事が帰ってきた。

「何が大変なことだよ」

と呟きながらTwitterを見ると琳のリツイートした記事に驚いた。

『Speranzaライブでスタッフが救急車で運ばれる』

『スタッフ総出で救急車誘導してた』

そして、一番最新のリツイートには綾子がスタッフに支えられて楽屋に入ってく様子の写真が載っていて

『綾子、号泣。スタッフに支えられて楽屋に戻っていったよ。明日のライブ、大丈夫かな?』

と書いてあった。



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