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お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
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fate

ライブも終盤に差し掛かってきたころ、和はスタッフに渡されたギターを肩にかけた。

「みんな結構疲れてない?」

和の一言で観客から歓声が上がるとそのままMCが始まった。

「実は、ギター弾きながら歌うのって10数年やってないから上手くできるか心配なんだけど…」

と言ったあと

「fateと言うのは英語で運命とか定めとかと言う意味があるんだけど、今日こうやってステージに立つことも、みんながこの会場に来てくれたことも全て運命だと思うんだよね。何気ない日常の全てが生まれながらに決まってた運命で何かしらの意味があると僕は思いながら生きてます。…多分僕よりも運命と言う言葉の意味を感じながら生きてるやつが隣にいるので今日は彼女にMCをしてもらおうかと思ってるんだけどいいかな?」

と和が言うと大きな歓声が上がった。

「じゃ、綾子」

と和が言うと綾子は自分の前に置かれたマイクスタンドの前に立った。

「MCをしたことがないので…ギター弾くより緊張してるんだけど」

と言ったあと綾子のMCが始まった。

「私には10代のうちに4つの運命を決めるポイントがあったと思うんだけど、全てが今日に繋がっていたと思います。まず1つめは兄の妹として生まれてきたこと。多分、兄の妹として生まれて無かったら今こうやってステージに立つことは無かったと思います。兄の存在から全てが始まったと言っても過言じゃないと思っているので言葉にするのは恥ずかしくてなかなか言えませんが兄にはいつも感謝をしています。2つめは兄の友人ナゴミさんとの出会いです」

と綾子が言うと観客から冷やかしにも似た歓声が起きた。

「ナゴミさんは幼い私の手を引きいろんな世界を見せてくれました。いろんなところに連れて行ってくれたしいろんな音楽も聴かせてくれた。あの経験が私の曲作りに大きく影響を与えてると言っても過言じゃないと思います。3つめは兄とナゴミさんの後をついて何気なく行ったスタジオで今でも一番尊敬している恩師との出会いです。この恩師と出会って無ければ私はギターを弾くことは無かったと思います。スタジオの隅で見学してる私にギターを貸してくれて覚えの悪い私に弾き方を根気よく教えてくれました。ギターの魅力にはまった私は寝る間を惜しんで暇さえあればいつもギターを弾く生活をしてました。そして4つめはギターを弾くことで渉、隼人、誠と出会ったことです」

と綾子が言うと再び歓声が上がった。

「彼らに出会い自分で曲を作ることも始めたし人前で演奏する楽しさを知りました。そして、彼らに出会ったおかげで再び恩師と再会し音楽で生活をしていけるようになりました。…私が兄の妹として生まれてきたことでいろんな出会いがあり今日に全て繋がっていると私は思います」

と綾子は言ったあと

「今日ここで皆さんと出会ったことも何かしらの縁があり運命だと私は思います。ありがとうございます」

と客席に頭を下げると、客席から拍手が起きた。

「じゃ、そろそろ曲に戻った方がいいよね?」

と言うと綾子はジャーンと一度ギターを鳴らすと、シンバルの合図とともに曲が始まった。

ナゴミも演奏に加わりツインギターのより骨太でより聞き応えのある曲の演奏に客席にいた奏たちも驚いた。

ナゴミと綾子とベースの和樹がセンターに集まり並んで弾いてる姿もとてもカッコよくてとても楽しそうに見えた。

ツインギターの曲が2曲終わるとナゴミはスタッフにギターを渡しラストの曲が始まった。

ナゴミ、綾子、和樹がそれぞれステージの上を右往左往しながら隅々まで歩きながら魅せるパフォーマンスに観客は大きな歓声をあげボルテージが最高潮に上がったところでfateはステージを降りた。

ステージ袖でスタッフに楽器を渡したメンバーは楽屋に続く通路で衣装を着替えてヘアメイクの手直しをしてもらっていた。

「綾子もここで着替えるんだ…」

と直則が言うと

「うん。私のトップスとアウターだけだからね。楽屋に戻る時間もったいないでしょ?」

と綾子は言った。

着替えとヘアメイクの手直しが終わったメンバーはステージに続く階段の側でアンコールの声を聴いていた。

目を瞑りアンコールの声を聴いている綾子とは対照的に和は軽くジャンプをしながら気持ちを高めていた。

「ステージ上がって下さい」

と言うとスタッフの指示でメンバーは直則を先頭に蒼太、ステージ袖でスタッフにベースを渡された和樹、和樹同様にギターを受け取った綾子、ナゴミと順にステージに戻るとシンバルの合図とともにアンコールの演奏が始まった。

さっきまでのハードな曲とはまるで違いとてもポップで可愛い曲に観客は驚いてるなか

「…この曲」

と相川は呟いた。

アレンジが少し変わっているけど、この曲は昔綾子が和のために作った曲だと相川にはわかった。

和を想いながらも一人で奏を産もうと必死になっていた綾子が和をイメージして作った曲。

ボロボロでいつ壊れてもおかしくない和を救った曲。

あの曲をこうやって二人で演奏するのを観る日が来るなんてあの頃には想像することさえ出来なかった…。

相川の目に涙が滲んだ。

曲が終わると今日、最後のナゴミのMCが始まった。

「今演奏した曲は17年前に作った曲でいろんな思い出がつまってる曲で…本当は一生人前でやることはないと思ってたし今日が最初で最後の演奏になる曲なんだけど、今まで僕たちを支えてくれたたくさんの人への感謝を込めて演奏しました。…そして、今日最後の曲は僕たちの中では一番新しい曲で出来上がったのが5日前なので間違えて演奏するかもしれないけど…。出来上がりをとても気に入ってる曲なので聴いて下さい。『fate』です」

とナゴミが言うとキーボードの幻想的な演奏が始まった。

スローテンポの曲はとても幻想的でナゴミの歌声はとても切なくて…でもサビに入ると幻想的なのにとても力強くかんじるような…まるで映画音楽のような壮大さもあり…綾子の得意分野と言えばそれまでだけど、そこに和の歌声が重なるとなぜか涙が溢れてきてしまいそうな感覚になってしまう。

切なくも力強い大サビが終わると同時に曲も突然終わり照明が全て落ちた。

曲の余韻で一瞬何が起きたか判断出来なかった客席から拍手が起きると、ステージが照明に照らされた。

メンバーは大きな籠を手に持って5人でセンターに立っていた。

「1日遅れのバレンタインです」

とナゴミが言うとメンバーは左右に別れて籠に入ってる可愛くラッピングされたチョコレートを手に取ると客席に向かって次々と投げ始めた。

観客は大きな声をあげてチョコレートを次々と受けとると嬉しそうな顔をした。

籠いっぱいのチョコレートを投げ終わると次々と観客に手を振ってステージを降りた。

最後に一人残ったナゴミは

「また、会おうね」

と客席に軽く手を振ってステージを降りた。

ステージを降りた和はスタッフからタオルを受けとると汗を拭き楽屋に戻った。

「お疲れ」

と嬉しそうに言う結城に

「お疲れです。…でも、まだあるんですよね?もう打ち上げでいいんじゃないんですか?」

と和は言った。

「いやいや、打ち上げはもう一仕事してからだから」

と結城が言うと

「俺たちも記者会見見てるから頑張ってこいよ」

と直則は言った。

「あー、シャワー浴びたい。のりちゃんたちはシャワー行くんでしょ?うらやましいな…」

と和が言うと

「何ワガママ言ってるんだよ。綾子なんておとなしくしてるだろ?」

と直則が言うと

「え?私?私は汗がひくまでヘアメイクも着替え出来ないし大人しくしてるだけだよ」

と綾子は言った。

「大人しくしてるって言えばさ、何かキョトンとした顔で立ってた男の子いなかった?」

と和樹が言うと

「あっ。俺も見ましたよ。5列目ぐらいにいた男の子ですよね?隣にいた子に腕持たれて無理やり手を振ってたけど…。めちゃくちゃイケメンだから目立ってましたよね。fateが和さんと綾子で驚いたんですかね?」

と蒼太は言った。

「だろ?でもさ、途中からスゴい顔つきが変わってあんな真剣な目で見なくても…。イケメン君だから余計に見られてる方が恥ずかしいって言うかさ」

と和樹が笑うと

「それ、多分うちの息子だよ」

と和は言った。

「えっ?息子?」

と和樹が驚いた顔をすると

「だよな?」

と和は綾子に聞いた。

「うん。うちの子だと思うよ」

と綾子は言った。

「息子って…あんなに大きかったですか?」

と蒼太が聞くと

「だよ。16だもん」

と和は言った。

「マジ?そりゃ和と綾子の子どもならイケメンなのも納得だわ。でも、自分の親のライブ見に来るとか可愛いな。嬉しいだろ?」

と和樹が言うと

「いや、あいつfateが俺たちだってこと知らなかったから」

と和は言った。





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