抱かれたい男
「やっぱりここが一番落ち着くなぁ…」
和は綾子の膝に頭を乗せて呟いた。
「なっちゃん、早く帰ってきちゃったって、仕事は大丈夫なの?」
と綾子が聞くと
「大丈夫。今日の仕事は昼過ぎには終わってたから」
と言ったあと、テーブルの上に置いてある雑誌を手に取って
「あ、この雑誌買ってくれたんだぁ。すぐ売り切れたらしいのによく手に入ったね」
と言った。
「あ…ユキが載ってるからって友達がくれたんだ。私さ、ユキの大ファンだと思われてるからさ」
と綾子は笑った。
「ふーん。ユキの大ファンねぁ…」
と和は雑誌をパラパラめくり
「ねぇねぇ、この俺の写真セクシーだと思わない?」
とナゴミが上半身裸で、裸の女性モデルを抱き締めながら首筋にキスをしてるのページを見せた。
「…どうかな」
と綾子が言うと
「うそ!この視線、自分で言うのなんだけどエロくない?じゃあさ、このベッドで女を後ろから押し倒してる写真は?」
と次のページをめくり綾子に見せた。
「…うーん。どうかな」
と綾子が言うと
「なんだよ~。反響スゴいって聞いてたけど嘘だったのかなぁ。この撮影、俺のアイデアだったのに」
と和は残念そうに言った。
「なっちゃんが考えたの?」
と綾子が聞くと
「そう。どうせ抱かれたい男No.1になったなら、雑誌を買った女の子たちに俺に抱かれてるようなスゲェ妄想してもらえるような写真にしようと思って相手のモデルの顔が見えないように撮影したんだよ。でも失敗だったのかな~」
と和はページをめくりながら言った。
「そのアイデアは成功だったんじゃない。学校の女の子達ががこんな風にナゴミに抱かれたいって雑誌見ながら話してるの聞いたもん」
と綾子は言ったあと
「それから、このインタビューの『一夜限りの刹那的な恋に溺れるのもアリだと思う』って記事は男の子も女の子もナゴミらしくてカッコいいって言ってたよ」
と笑った。
「綾子も思ったの?」
と和が聞くと
「私はそうゆうの絶対無理だと思うから。だからその後に書いてあった『でも、実際にはじっくりゆっくり暖める恋愛の方が自分には合ってる気がする』ってセリフの方がカッコいいと思ったよ」
と綾子は言うと
「あ、私はこの写真が一番いいと思うよ」
とナゴミが桃をかじろうとしている写真を指差して言った。
「あー、これ。本当は林檎なんだろうけど、俺の中では桃が禁断の果実って感じがしたんだよ。これを食べるともう今までの二人には戻れないと知っているのに、壊してしまうほど相手の事が愛しくてどうしても自分のものにしたい衝動に負けて禁断の果実を食べてしまうってストーリーまで考えちゃった。そこまで考えなくてもいいのにね」
と和が笑うと
「でも、この写真見てみんなエロいって言ってたけど、私はスゴい嬉しそうに見える」
と綾子は言った。
「そりゃそうだよ。だって、ずっと食べたくて食べたくて仕方なかった桃をやっと食べれるんだから」
と和は綾子の頬に触れて
「俺は、いつになったらこの桃を食べれるのかな」
と呟いたので綾子はドキッとした。
「あ、今ドキッとした?」
と和がニヤニヤにた顔で綾子を見た。
「え?しないよ!」
と綾子が慌てると
「絶対したでしょ?一瞬、俺に抱かれても良いって思わなかった?」
と和はニヤニヤして
「でも、二十歳になるまで綾子に手を出さないってシスコン由岐と約束してるんだよね。あと2年綾子我慢してくれないかなぁ。あ、妄想で俺に抱かれるのはオッケーだけどさ」
と言った。
「妄想とか…バカじゃないの?」
と綾子が言ったが、和は話を聞いてない様子で
「でも、ずっと彼氏のいない綾子の妄想にも限界あるよな。俺、綾子の妄想を越えることいっぱいするからな。女なんて泣いて俺のこと欲しがるし、ちなみに俺の性感帯は…」」
と和が話していると
「別に、妄想しないししたくないからさ。その話はいいよ」
と綾子はあきれた顔で言った。
「あ…そ…。だよね~。そういえば、ツアー中に一曲作ったんだよね。禁断の桃をテーマに詞を書こうかな?綾子がドキッとして俺に抱かれたいって思うくらいエローいの」
と和は笑ってから、綾子の着けてるネックレスを触り
「綾子、ちゃんと着けててくれたんだぁ。嬉しいなぁ。俺と綾子が繋がってる証…。俺が綾子の物で綾子が俺の物の証…なんてね」
と笑った。
「あー、でも綾子とペアとかマジ嬉しい。綾子が由岐と連絡取ってるくせに俺には連絡くれなくても、綾子がこれを着けててくれたらツアー頑張れそうだ」
と和は嬉しそうな顔をした。
「なっちゃん…」
と綾子が和の頭を撫でると
「でもさ~、やっぱり納得いかないよね。何で由岐とは連絡取ってるの?そんな時間あるなら俺に連絡してよ」
と和はふてくされて言った。
「え?私、お兄ちゃんと連絡取ってないよ」
と綾子が不思議がると
「だって、綾子はテスト勉強してるって一昨日言ってたって…」
と和は言った。
「一昨日?あー、それお父さんだよ。お兄ちゃんが仙台にいるなら牛タン送れって電話してたもん」
と綾子が言うと
「牛タン?」
と考えてから、そういえば昨日、村上に牛タン買って配送するよう手配してもらってたのを思い出した。
「あ…。由岐送ってたわ」
と和が言うと
「でしょ?用事も無いのにお兄ちゃんに電話なんてしないよ」
と綾子は笑った。
「じゃ、俺にも用事無いからしないの?」
と和が言うと
「まぁ…。なっちゃんも忙しいし」
と綾子は言った。
「えー、用事無くても連絡してよ。その時取れなくても、ちゃんと連絡するからさ~。それがダメならlineでもいいよ。俺への愛のメッセージ送ってよ」
と和は綾子の腰に手を回して甘えた声で言った。
「分かったよ。今度からはlineするから」
と綾子が言うと
「本当?興奮して鼻血が出そうなぐらい情熱的な愛のメッセージ送ってよ。スタンプだけとかダメだよ」
と和は嬉しそうに言った。
「…綾子、お願いだから他に好きな奴とか作らないでね。俺、綾子が離れて行ったら死んじゃうよ…」
と和は綾子の膝枕に顔を埋めて言った。
「またぁ。何言ってるよ」
もし嘘でも嬉しくて喜んでいるのを知られたくなくて平然を装って言うと
「他の男に綾子を触らせたく無い。他の男と二人で勉強してるのも嫌だ。他の男と楽しそうに話をしてるのも嫌だ。」
と言って和は綾子の前に座ると
「綾子、俺が欲しいって言ってよ。俺がいないと死んじゃうってくらい俺を求めて。俺ばっかり綾子を求めて苦しいよ」
と俯いた。
「…なっちゃん、わ…私…」
と綾子が顔を真っ赤にして話をしようとすると、和は顔を上げて笑い
「どう?俺に抱かれたいって思った?惚れた?」
と綾子に聞いた。
「綾子に誘惑されたなら由岐も許してくれるかなぁ?とりあえず、キスする?それともすぐベッドでもいいけど…」
と和が服を脱ごうとすると
「脱がなくていいから!エロジジイのなっちゃんに抱かれたいなんて一生思わないよ!」
と言って綾子は和に枕をぶつけた。
「いたーい。綾子ちゃん怒った。冗談だよ冗談。そんなにムキにならないでよ~」
と言って立ち上がり
「そろそろ帰って荷物の整理でもしようかな?綾子、明日も学校だろ?早く寝ないとお肌に悪いよ」
と綾子の髪をくしゃくしゃっと撫でて部屋を出て行った。
「人の気も知らないで何なのよ。バカ…」
と綾子は泣きそうな顔をした。
自分の家に帰り、明かりのついてないリビングのソファーに横たわり
「もう限界。早く綾子を俺だけの物にしたいよ…」
と呟いた。




