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第4話 走ること!?

かなり話が前後します。力不足、申し訳ありません。お楽しみ頂けたら、幸いです。

「これ、何?こ、怖いよ、お姉ちゃん。」


ショコラは、エクレにしがみつき、体を震わせる。そんなショコラの肩を抱いて、エクレが優しく声をかける。


「大丈夫よ、ショコ。落ち着きなさい。あたしがついてるわ。」


気丈に振る舞うが、エクレ自身、言い知れぬ不安を感じていた。


―何なのよ、これ。―


二人が今見ているのは、リュウの試合が終わり、暫くした後、突如発生した太陽すらも覆う黒い霧だ。今の所、体調不良を訴えるものはいないが、このままではパニックになる。エクレがそう思った瞬間、頭の中に直接声が鳴り響いた。


「訓練場にいる生徒諸君、これは私からのプレゼントだ。有り難く受け取りたまえ。」


その声は暗く、心の中をかき乱してくるような声だった。

突然、半数以上の生徒が立ち上がった。それは、ショコラもだった。


「ショコ?」


エクレはショコラに呼び掛けるが、虚ろな目のまま、佇んでいる。不意に、ショコラも含め、立ち上がった皆が、驚くべきことを口にした。


「エステリアを殺せ。」


その声は、完全にショコラのものではない。エクレは立ち上がり、慌ててショコラの肩を掴む。


「しっかりしなさい、ショコラリア=ロール!!」


エクレの叫びに、ショコラははっと目を覚ました。


「……お姉ちゃん…。」


ふっと、力が抜けたショコラをエクレが抱き止める。


「もう大丈夫よ。」


エクレは意識を失った妹の頭を優しく撫でた。


「相当ヤバイわね、これ。」


未だ収まらぬ生徒達の呪詛のごとき呟きが、重なりあって、訓練場中を満たしている。まだ、誰一人として動き出した者はいないが、この軍勢が訓練場の真ん中にいるアイツ(・・・)に襲いかかるのは時間の問題だろう。

エクレはその人物に向けて、震える声で呟いた。


「気をつけなさいよ、リュウ。」



▼▽▼▽▼



訓練場が喝采に包まれた直後、この霧のようなものに、一番初めに気づいたのは、リィナだった。霧そのもに、明確な悪意の様なものを感じたからだ。リィナはすぐにその場にいた三人にそれを伝えた。


「確かに、嫌な感じがするわね。」


チヤはリィナの言葉に対して、同意の言葉を返した。それを聞いたカズはすぐに、最良の選択を提案した。


「シンヤ、この子を連れて、訓練場を出ろ。この霧は訓練場の中だけだ。外に行けば、教官達もいる。すぐに知らせてくれ。」


カズの意見をシンヤはすぐに受け入れた。


「行こうか。」


シンヤはリィナの手をとって、走り出そうとするが、それをリィナが拒んだ。


「チヤさん達はどうするんですか?」


リィナは真剣な顔で尋ねる。それを、カズが即答する。


「ここに残って、非常事態に備える。」


その簡潔な答えに、リィナは自分も残ると言い出した。


「私だけ逃げるなんて出来ません!それに、リュウさんを置いていくなんて…。」


「気持ちはわかるけど、あなたがいてもできることはないわ。もし、暴動みたいなことが起こった時、霊戦手のいないあなたがいても邪魔になるだけです。」


いつもとは口調の異なるチヤに、リィナは絶句した。何よりも、チヤの言っている事は正しい。リィナは俯いて、唇を噛む。


「それにね、あなたに何かあったら、リュウが悲しむわよ。」


チヤがいつもの優しい口調で慰めてくれた。これ以上ここにいても邪魔にしかならない。それを理解したリィナは、自分の意思で走り出した。シンヤもその後に続く。


「外に出たら、三年の校舎に行こう。あそこなら、教官室も近いし、放送室もあるから。」


シンヤの提案に、リィナは走りながら頷いた。

訓練場から出るためには、その構造上、いったん中に入り、階段を下りてから、東または西側にある出入り口に行く必要がある。リィナ達は、観客席から一番近い場内への通路に入った。


―リュウさん、待っててください。今、助けを呼びに行きますから。―


リィナはその想いを胸に(いだ)きながら、必死に走った。



▼▽▼▽▼



試合終了後、拍手が鳴りやんだ後、リュウは場内の空気が変わったことを感じとった。

砂金の入ったリュウの目は、未だボンヤリ見える程度にしか、回復していない。


「おい、キラ。何が起こってるんだ?」


座り込んでいるキラに向かって、状況を聞くが、返事は返ってこない。


―仕方ないか。―


リュウも負けるという経験を何度もしたが、負けた後すぐは、何もやる気が起きなくなる。特に、実力が違いすぎると感じたときは尚更だ。

キラは今まで、リュウを自分より下だと、本気で思っていたのだ。そんな相手にあんな負け方をすれば、やる気も無くなるだろう。

リュウは結局、キラを放っておく事にした。


「それにしても、どうするかな。見えないまま歩くのは危ないし。本当に面倒くさいな。」


このリュウの独り言を聞いた人間がいたら、さっきは全く見えない状態で、あんな動きをしただろうと全員が突っ込むだろう。だが、さっきの動きは、神がかった集中があっての動きだ。今は、完全に切れてしまって、当分は戻らないだろう。さらに言い訳すると、リュウの集中はかなりの波がある。それはまだ、リュウが未熟である証拠でもあった。

どう行動をしよか考えた末に、リュウはカズを待つことにした。あの男なら、自分が目潰しをくらったことも、自分を当てにして、リュウが動かないことも予想できると踏んだからだ。

そして、ドサッと地べたに座りこみ、脱力感に深く溜め息をついた。

その直後、頭の中に不穏な声が響き渡った。


「訓練場にいる生徒諸君、これは私からのプレゼントだ。有り難く受け取りたまえ。」


その声を聞いた瞬間、リュウは反射的に立ち上がった。リュウはこの声を聞いた事がある。それも、最悪に近い状況の中で。自身の記憶の中で、この声の主を探し始めたが、すぐに中断した。リュウの背後に、キラが音もなく近づいてきたからだ。

リュウは振り返り、キラに声をかける。


「どうした、キ……っ!」


リュウは咄嗟に、横っ飛びになって、地面を転げ回った。その拍子に、深い窪みに落下した。

リュウはうっすらと見えるキラの姿から、キラは自身の意思で動いていないと判断した。


―これは、まずいかもな。―


そう直感した直後、リュウの耳に呪詛のごとき呟きが、いくつも聞こえてきた。


「エステリアを殺せ。」


目の前のキラも、そう呟いているのがわかった。


「これは、大ピンチって奴だな。」


リュウがそう呟いた瞬間、頭上から何かが降ってきた。それは目の前で立ち上がり、大き目の人影となった。


「カッコ悪いぞ、リュウ。」


それは、頼りになる幼馴染みの声だった。


「現れて早々、悪口かよ。というか、もっと早く来いよ。」


リュウは口悪く返したが、内心ホッとしていた。その姿を見たカズは、現状を軽く教える。


「観客席にいた生徒の半分以上が、キラのように無意識下で動いている。その全員がエステリアを殺せと言っていた事から、敵の狙いは間違えなくお前だ、リュウ。あのままにしておけばこちらに雪崩れ込んでくると判断して、意識のある霊戦者達に眠らせるよう指示してきた。だから、少し遅くなった。すまない。」


最後の一言だけはとても小さかったが、リュウは聞き逃さなかった。


「そういえば、お前、副生徒会長だったな。悪かったよ。ありがとうな。」


照れ臭くなったリュウは、カズから顔を背ける。そんなリュウの、素直じゃない言動に、カズは知らず知らずのうちに笑みを溢していた。


「ここは任せろ。」


そう言って、カズは地面を蹴った。

そんなカズの背中に、リュウは小さな声で頼む。


「あぁ、任せたよ。」


そして、カズとキラが激突した。



▼▽▼▽▼



観客席で、指輪を砕いた男は、困惑していた。


「なぜだ、なぜあれ(・・)が現れない。」


男の目論見では、指輪を砕くことで、あれ(・・)が現れ、ここにいる全ての人間を殺す手はずだった。だが、実際はどうだ。漏れだした(かす)かな呼気(・・)だけで、本体は現れていない。


「どうしてだ…。」


「お前さんのう。こんだけ派手なことすれば、わしじゃなくても気づくだろうのう。」


その声を聞いた途端、男は体をガタガタと震わせ始めた。


「ク、クヤザ=フィアマ。なぜだ、なぜ貴様のようなやつがここに…。そうか、エステリアの監視…。だが、なぜ、私が事を起こすと予測できた?」


声を震わせながら、男は尋ねた。だが、男の企て(・・)を見抜いたクヤザは、 一笑に付する。


「臭い芝居は止めようや。時間を稼ごうっちゅうんがみえみえだのう。われ、あんまり人をなめてると、痛い目見るぞ。」


そう言って、サングラスの隙間から、男を睨み付ける。竦み上がった男を見て、ふっと笑いを漏らす。


「まぁ、すでに見てるかのう。お前さんが時間を稼いでいたのは、大方、霊魔(れいま)の召喚にでもてこずっていたとちゃうか。」


今度こそ、男は本気で狼狽した。


「な、なぜ貴様がそれを。」


男の疑問に、大袈裟に溜め息をついて答える。


「お前さんは、本当に人の話を聞いとらんのう。言うたじゃろ。こんだけ派手なことすれば、わしじゃなくても気づくだろうのうと。」


そう言って、クヤザは、訓練場の中央を見た。二人の子供が戦っているのとは別に、一人の女性が短剣を地面に突き刺して、何事かを唱えている。


「まさか…。」


「そうじゃ。我が校の霊戦者の中でもっともあれ(・・)と相性の良い、カナリアとセラスの封印の儀じゃ。お前さんなら、これがどういう事か、わかるじゃろ?」


クヤザそう言い終わるや、男の方へ歩き出した。男は後ずさるも、座席に引っ掛かり、それ以上下がれない。男は内心、クヤザの言った理由とは、別の意味で焦っていた。

霊魔(れいま)―それは、精霊とは異なり、古より存在する悪しき意志を持つものである。それがいったい何なのか、未だはっきりと知られてはいない。だが、それは人だけでなく、精霊すらも狂わせる力をもった異形の存在だ。その存在はずっと人々に伏せられてきた。

それを、このクヤザ=フィアマは知っていた。

いや、それすらも今のこの状況では、些細なことだ。

ではなぜ、男は焦っているのか。

それは、指輪に込められた霊魔は、封印の儀を直接(・・)与えない限り、効果がないはずだからだ。訓練場で行われている封印の儀は、訓練場に対してのものであって、霊魔に対してのものではない。それなのに、未だ現れぬ霊魔に対して、男は焦りを感じていたのだ。

じわじわと近づいてくるクヤザに、男は恐怖を感じはじめていた。


「ひっ、く、くるな。」


クヤザの圧倒的な威圧感に追い詰められ、ついに男は自暴自棄とも言える行動に出た。

懐からナイフを取り出したのだ。


「おいおい、まさかお前さん、そんなものでわしに勝てるつもりじゃあるまいな。」


そう口にしながら、クヤザは失笑した。

だが、次の行動は、クヤザの予想を越えたものだった。


「我が身は、我らが神のものなり!!」


男は突如叫びだし、ナイフを自らの胸に突き刺した。


「なっ!」


男の言動に、初めてクヤザが驚きの顔を見せた。それを見た男の顔は、歪んだ笑みで満ち溢れていた。


「くっくっくっ、私はどのみち主の命に逆らった罰で、消されるのだ。ならば、この場のにいるものを道連れにしてくれよう。」


そう男が言葉にした直後、男の体から回りにあるよりもさらに濃い霧が溢れだした。


「はっ、はははははは!これが神の御力!素晴らしい。私は、神と1つになるのだ!!」


男が狂った笑いをあげた瞬間、黒い光を放って、爆散した。

クヤザは、咄嗟に腕を前に交差し、頭を庇う。

そして、その光が途切れた瞬間、それは現れた。


「……っ!こいつは、やばいのう。」


クヤザの顔は厳つい笑いで歪んだ。

そこに現れたのは、羽と尻尾を生やした女だ。ただし、全身は黒一色で、その目には、何も写していない。大きさは3m程度である。怪物は、頭を傾け、首を鳴らしていた。今はまだ、動く気がないらしい。

だが、その姿を見た一人の生徒が、悲鳴と共に槍を投げて、攻撃を放ってしまった。


「うわぁあぁああ、消えろ、化物っ!」


「止めんか、馬鹿もんがっ!!」


クヤザが叱咤し、攻撃を止めさせようとするが、すでに遅かった。生徒の投げ放った槍が怪物の首に突き刺さる。その瞬間、怪物は動きを止めた。

それを見た生徒が、笑顔を溢したその刹那―


「キィァァァアアアアア!!」


怪物が甲高い叫びを空へと放つ。そして、生徒の元へ瞬時に移動し、右手を上げる。その指の1本1本が、刃物へと変化し、生徒に降り下ろされた。生徒はなすすべもなくうずくまった。周りにいた誰もが、切られると感じた瞬間、ハンマーを手にしたクヤザがそれを受け止めた。一瞬の均衡の(のち)、クヤザはゴミのように反対側へと吹き飛ばされた。

そして、怪物は虫でも見るかのように、自分を攻撃した生徒を見下ろす。生徒は恐怖のあまり失禁し、目やはな、口からあらゆる体液を流し気絶した。そこに、もう一度怪物は右手を降り下ろした。

生徒がいた場所は陥没し、通路が見える。

怪物は生徒を殺した感触に浸っているのか、降り下ろした方の手をじっと見ていた。

周りにいた生徒達の顔に絶望の色が浮かんだ時、一人の生徒が怪物に話しかける。


「そこのでかいの。そんなに退屈ならさ―」


怪物はゆっくりと首を回し、己の背後を見る。そこにいたのは、先程の生徒を抱えたリュウだった。


「俺と遊ぼうぜ。」


リュウは不敵に笑った。



▼▽▼▽▼



訓練場から出る直前、リィナとシンヤはその声を聞いた。


「訓練場にいる生徒諸君、これは私からのプレゼントだ。有り難く受け取りたまえ。」


それを聞いた途端、シンヤが叫びだした。


「うわぁぁああああ!」


それを見たリィナは、慌ててシンヤの元に近寄る。


「シンヤさん、大丈夫ですか!?」


リィナは、シンヤの肩を押さえ、必死に呼び掛ける。割れそうな頭で、この痛みの理由を直感的に理解した。


―これは…、あれが呼び出されたのか?でも、まだ、早すぎる。―


シンヤは頭を抱えながら、気力を振り絞ってリィナに指示をした。


「リィナさん……。君は……、うっ。」


苦悶の声を漏らすシンヤに、リィナが泣きそうになりながら声を欠ける。

だがそれを、シンヤは手をかざして遮る。


「聞いて……、今から君は……、急いでリュウの元へ行くんだ……。」


シンヤは痛みを抑えつけるかのように、自らの髪を握る。


「君と……、リュウなら……、この状況を……、打破……できる。」


どんどん増していく痛みに、シンヤは意識が飛びかけるのを、気力の限りに食い止める。


「だから……、早く行って…。」


シンヤの全身からは脂汗が噴き出している。そんなシンヤをリィナは放って置くことができず、シンヤの指示を承諾できずにいる。


「でも、シンヤさんが……。」


「いいから早く行くんだっ!!」


シンヤは残る力を振り絞って叫んだ。リィナはシンヤの必死の叫びを聞いて、その指示に従う事にした。


「絶対戻って来ますから、待ってて下さい!」


そう言い残し、リィナは場内へと走り出した。

残されたシンヤは朦朧とした意識の中で、友人に話しかける。


―リュウ、ごめんね。後は頼んだよ。―


シンヤはそのまま、暗闇の中に意識を落とした。


▼▽▼▽▼


カズとキラが戦い始めてから少しして、リュウの目はほぼ回復していた。そして、呑気な事に、二人の戦いを観戦していたのだ。


「カズの奴、待た強くなってやがるな。」


カズはキラの攻撃を一切受け付けず、隙をついて、全ての攻撃を当てていた。それも全て、急所に当たらないようにだ。カズは、キラズが力尽きるのを待っているのだろう。

カズが武装している霊戦器は盾と、宙に浮かぶ9個の鉄球だ。それは、別々の霊戦器ではなく、全てチヤ=ミーティアの変化した姿だ。その属性は重力。玉を重量を変化させ、方向性を与える事で、どこからでも襲いかかる弾丸となる。

その位置を全て把握、変化させる技術は恐らく国内でも最高クラスの技術だろう。


―さすがは、ランキング一位コンビ。―


リュウは目を閉じて、心の中で称賛した。面と向かっては、絶対に口にしないが、リュウはカズを心から認めている。

かつて、毎日のように戦いあったリュウは、少しだけ、カズとの距離を感じた。


「俺も鍛え直すかな。」


そう呟いたが、そのきつさを思い返し、めんどくせぇと溜め息をついた。

その時、観客席の方で、異変が起きている事に気がついた。黒い霧が色濃く溢れだしている場所がある。


「ん、あれはクヤザのおっさんか?」


その近くで、ハンマーを担いで表情を強ばらせているフィアマ教官がいた。


「あんなとこで何やってんだ?」


リュウがそう呟いた直後、変化は起きた。

黒い霧が人の形を作っていく。それも羽と尾生やした異形の姿だ。


「何だよ、あれ…。」


リュウは直感的に、あれのやばさ(・・・・・・)を理解した。だが、言葉とは裏腹に、その顔には笑みが溢れていた。まるで、待ち望んでいた宿敵と出会ったかのように。

そして、怪物の方向へと走り出す。


「カズ!キラは任せた!」


振り返り、それだけ叫んで、リュウは怪物の方に視線を戻す。そして、それに驚愕した。

怪物の首に槍が突き刺さり、その動きを止めていたのだ。それを見たリュウに、悪寒(・・)が走った。


「キィァァァアアアアア」


怪物が甲高い叫びを空へと放つ。直後、怪物は姿を眩ませる。リュウはギリギリその動きを追えた。怪物が向かった先には、一人の生徒がうずくまっていた。


「ちっ」


リュウは舌打ちをして、即座に壁をかけ上がる(・・・・・・・)。だが、すでに怪物は腕を挙げていて、ここからでは間に合わない。リュウがそう悟った瞬間、1つの影が怪物と生徒の間に割り込むのが見えた。


「おっさん!」


なんと、フィアマ教官はあの怪物の一撃を受け止めていた。だが、その均衡はすぐに崩れ、クヤザが訓練場の反対側へと吹き飛ばされて行った。

それを見た瞬間、リュウの中で、スイッチが入った。最短距離で怪物に襲われている生徒の所へ行き、怪物の腕が降り下ろされるその刹那の間に、生徒を抱えて怪物の背後へと回り込む。

先程までいた場所が跡形もなく吹き飛び、通路が見えている。

そして、怪物は降り下ろした方の手をじっと見ていた。周りにいた生徒には、人を殺した感触に浸っているように思えるだろう。だが、リュウだけには、それが手応えを感じられず、残念そうにしているように見えた。

そんな怪物に、リュウ自ら話しかける。


「そこのでかいの。そんなに退屈ならさ―」


怪物はゆっくりと首を回し、自分に話しかける稀有な人間の顔を見る。


「俺と遊ぼうぜ。」


両者は全く同じ、歓喜の笑みを溢した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。7月18日21時に第5話を掲載予定です。よろしくお願いいたします。

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