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異界の悪魔が恋をして

冬はイルミネーション!

作者: 縁ゆうこ

 『ソラ・コーポレーション』に入社して、初めてのクリスマス。

 毎年この時期は、イヴ前後に、お父さんと日にちをあわせて、あちこちで開催されているイルミネーションから1つをピックアップして見に行くのが恒例となっていた。


 けれど…。


 今年は必然的にそれもなくなり、と言うか、誘ってくれたんだけど、新婚のふたりのお邪魔をするほど、私は無粋な娘じゃないわ。

 私、リリー・エドワーズ。

 今年社会人になったばっかり。そして、今年新しい家族も出来たばっかり。

 そう、お父さんはずっと私を男手1つで育ててくれていたんだけど、ある方と恋に落ちて…。

 けれど私に遠慮して、なかなか言い出せなかったのよね。でも回りにいる友人や同僚や、色んな人たちからの後押しで、私の就職が決まったところで、ようやく打ち明けてくれたの。

「好きな人ができたんだ。死んだ母さんのことは一生忘れないけれど、そのひとと暮らすことを許してもらっても良いかな?」

 って。


 もっちろん! 大賛成したわよ!

 会わせてもらったお母様は、とっても可愛い方でね、きっとお父さんとなら上手くやっていけるような気がしたし。

 それに、ソラ・コーポレーションには、すごく素敵なご夫婦が2組もいるんですもの!


 ひと組めは、私の指導をしてくれてる那波ななみ先輩と、そのご主人のアスラ先輩。この2人はねー、ふふふ、もうあっつーい。

 本人たちは普通にしているつもりなんだけど、言葉の端々や態度に、お互いへの愛! があふれ出ていて、横にいると氷点下でブリザード吹いてる場所でも熱くなりそうなほど。だから、2人が社内で出会うと、他の社員さんたちはススーっとその場から離れちゃったりするのよね。

 ただひとり、それをものともせずに注意するのが、音川おとかわ先輩。

「ほらほら、他の社員が熱くてめまい起こすから、早く離れなさい!」

 とか言って、アスラ先輩の首根っこつかんで13階へ帰って行くの。


 もうひと組は、魔の13階にいる、きょう先輩と、一直いちなお先輩。

 こちらは甘い雰囲気はあまりないんだけど、一直先輩が恭先輩のことをすごーく大事にしていることが、ひしひしと伝わってくる。恭先輩は恥ずかしがり屋なんで、なかなか態度に表さないけど、ときたま一直先輩の方を何とも言えないふわっとした表情で見ていることがある。それが一直先輩にはばればれだって、本人は思ってもいないようだけどね。


 だから、と、それがすべてではないけれど、今まで私のために色んな事を我慢してくれたお父さんには、絶対! 幸せになって欲しかったから。

 2人を見てると、あの2組のように素敵な夫婦になれるって思ったから。


 あ、それと、これは余談なんだけど。うちにはアスラ先輩と言うひとがいたので、驚きも少なかったんだけど。

 新しいお母様と、そのお姉さまが、なんと! 魔女だったの。




 恭先輩は、私が家族のことを初めて話しした時に、「ものすごーくこわいお姉さま」

って紹介したものだがら、私がシンデレラみたいにいじめられてるんじゃないかって、すごく心配してくれたんだけど、それは誤解なの。

 私に対して怖いんじゃなくて、私の心配をするあまり、怖くなるのよね。

 と言うのも、自分ではあんまり自覚がないんだけど、私って端から見ると天然で、どうにも危なっかしいことこのうえないらしい。


 この間も、お姉さまと食事に出かけていて、お勘定をするお姉さまの邪魔にならないように、先に外へ出ていたのよね。そしたら、かっるーい感じの男の人二人連れが来て、

「へいへーい、かのじょー。可愛いね~。ねえ、楽しいところへ連れてってあげるよ~」

 などと言うけど、

「今日は一人じゃないので」

 と答えたら、

「え? カレシと? あ、お姉さん? 君のお姉さんならきっと美人だよね~。どう、お姉さんも一緒に」

「ええっと、あのう」

 もう、しつこいなあ、と思ったそのとき、お姉さまが店から出て来たのよね。

「うちの妹に何か御用?」

 するとそのかるーいお兄さんたちは、

「ヒューウ! すっげえ美人じゃん!」

「うんー、もうぜったい遊びに行こうぜ!」

 と、よだれを垂らしそう。そうなの、お姉さまはすっごい美人なの。

 けれど、そんな2人をジロッと睨んだお姉さまは、無視して歩き出す。

「リリー、行きましょ」

「あ、はい」

 すると今まで軽い感じでいたお兄さんが、ちょっと怖い感じで言い出した。

「ケッ、美人だからってお高くとまってんじゃねーよ」

「そうそう、遊んで差し上げるって言ってんだよー」

 って、私の腕をぐいっとつかんだ。私は驚いて、

「離して下さい!」

 と言ったんだけど、おとなしく離してくれるわけがない。

 そしたらね、お姉さまの顔からスッと表情が消えて…。

「「ギャー!」」

 なんだか知らないけど、男2人がものすごい声で叫びだした。

「今度うちの妹に手を出したら、命はないと思いなさい」

 と、ひくーい声が聞こえて、男たちは「ばけもんだぁー」とか言いながらすごい勢いで逃げていったの。

「失礼ね」

「え?」

「ばけもんじゃなくて、魔女よ。さ、行きましょ。貴女もあんな男にはビシッと言わなきゃダメよ、もう」

「はあーい」

 私はお姉さまがカッコ良くて、それが嬉しくて、思わず腕を組んじゃったりなんかした。お姉さまは照れながらも、ちょっと笑顔を返してくれた。


 それからかな。お姉さまが私にすごく過保護になったのは。だから、私に言い寄る男に対しては、ものすごーくこわいお姉さまよ。

 そんなお姉さまに対する誤解を解くために、ある日企画した恭先輩との3人でのランチでは、会ったとたん2人ともお互いが気に入ったみたいで、それからはとっても仲良しになってくれたの。たまに女2人で飲みに行くこともあるんですって。




 そんな、クリスマス休暇も近いある週末。

 恭先輩とお姉さまがあっちこっちに声かけして、冬のお食事会を企画してくれたの。題して「光のページェントと豪華クリスマスディナー、キラキラお土産3点つき」ですって! なんだか新聞チラシに入るバスツアーみたいね。ふたりして悪のりしてるって感じ。


 でもあとで聞いたところによると、お父さんとお母様が、私が寂しがってるんじゃないかって心配して、お姉さまに相談したらしいの。お姉さまは飲みに行った先で、恭先輩に何の気なしにその話をしたら、恭先輩がなぜかハイテンションで、任せなさい! と大乗り気になったらしい。



 当日は、この間改装されたばかりのデパートのツリー前で待ち合わせ。

 ここのツリーも、デパート室内では最大級と銘打っているだけあって、ものすごく綺麗なの。もうここから今日のツアーが始まってるって感じよね。


「お姉さま! こっち」

 入り口に現れたお姉さまに手を振る。

「お待たせ。もう皆さん揃ったの?」

「ううん、あとは地渡ぢわたり社長とデラルドさんだけね。どうしたのかしら、デラルドさんがいながら遅れるなんて」

 お姉さまの疑問に答えている恭先輩に、そら社長があっと言う顔をして声をかけた。

「おっと、ごめーん。さっき地渡ちゃんからメール入ってたんだよ。どうしても抜けられない仕事が入ったから、今日はディナーだけドタキャンだって。ディナー代はきっちり支払うからってさ。忘れてて申し訳ない! でさ、イルミネーションはどうしても見たいから、直接あっちに行くって」

「あ、そうなんですか? じゃあちょっとお店に電話してみますね」

 言いながら、外へ出ていく恭先輩。


 しばらくして帰ってくると、なんだか嬉しそうに言った。

「キャンセル完了しました。でね、ドタキャンだったにもかかわらず、キャンセル料は頂きませんって! すごい太っ腹のお店だけど、大丈夫なのかしら。でも、ここ選んで良かったね、フローラ」

 嬉しそうにお姉さまに言う恭先輩。そう、お姉さまはフローラって言う名前なの。

「私たちの見立てに間違いがなかったってことね。じゃあ、行きましょうか。あらためまして、皆さんお待たせして申し訳ありませんでした」

 言いながら、優雅に腰を折るお姉さま。その完璧なお辞儀に、インフォメーションにいたプロの受付嬢が、目を見張っていた。



 お店は待ち合わせ場所から徒歩で10分ほど。

 現地集合にせずに、わざわざ待ち合わせ場所をデパートにした意味がわかった。というのはね、皆を先導していく恭先輩が選ぶ道は、趣向を凝らしたイルミネーションが続き、その面白さに寒さも忘れるほどステキだったから。

 先頭で仲良く腕を組む恭先輩と一直先輩のあとには、これまたピッタリと寄り添う那波先輩とアスラ先輩。空社長も、パンダさんの愛称で皆から好かれている半田はんださんも、今日は奥様とご一緒だ。


 そんな中、お姉さまと音川先輩と私の、今日はシングルな女3人? は最後尾をユラユラと歩いて行く。

「ほーんとに、皆、仲がよろしくていいわねー」

 音川先輩の彼も、今日は仕事が忙しくてディナーは不参加。なので、ちょっとご機嫌斜めだ。でも先輩にこんな事言うのは不謹慎だけど、チョッピリ可愛いな。

「いいじゃない、あなたはこのあとイルミネーション会場で逢い引きするんでしょ?」

「やーだあ、フローラったらー。逢い引きなんてスリリングな言い方! 嬉しいじゃない~」

 そう言って、バンっとお姉さまの背中をたたく音川先輩。

 さすがにちょっと痛かったのかな? ムッと先輩を睨んで歩いて行くお姉さま。

 それからすぐに目的のお店へ到着する。


 やっぱり、恭先輩とお姉さまのチョイスに間違いはなかった。

 雰囲気も抜群でお料理もとっても美味しくて、おまけにクリスマス時期ということで、オーナメントのお土産つき。ガラスボールで出来ていて、職人さんの手作りのため、1つとして同じものはないと言う事だった。



 大満足してお店をあとにし、本日のメイン会場へ。

 こんな街中なんだけど、会場となる場所はきっちり囲いが出来て、入城料も取る本格的なものだ。もちろん外からも一部は見られるのだけど。

 でもね。

 ここはお父さんとも何度か来たことがあるから言うけど。

 ぜったい! 入城料を払う価値はある!

 まず、入ってすぐの光のトンネルに圧倒され、毎年テーマが変わる美しいツリーや、通り道の、ため息が出そうなイルミネーションたち。極めつけは光の王冠。イルミネーションがぐるりと回りを取り囲み、中では美しい音楽が流されている。外から見ても綺麗だけれど、中に入るとその荘厳さに鳥肌が立つほどなの。


 そろそろ消灯時間が近いということもあって、入り口付近はそんなに混んでいない。

 そう、ここに来るときはなるべく遅い時間の方がすいてるからおすすめ。だから今日も食事を先にしたのよね。

 ふとみると、入場券売り場のあたりに男の人が3人立っているのが見えた。

 1人は大柄だけど、とても優しそうな雰囲気の人。音川先輩はその人の姿を見つけると、嬉しそうに走り寄り、さっきお店でもらったオーナメントを見せている。それを優しげに見守る彼。なんだろう。いつものビシビシした感じじゃない本当に可愛い音川先輩だ。私はなんだか楽しくなって、恭先輩にこっそり言う。

「音川先輩、嬉しそうだし、チョッピリ可愛いですね」

 すると、ふうーっとため息をついた恭先輩が言った。

「そ、会社でもあんなふうにおしとやかでいてくれたら、もーっと仕事がやりやすいのに!」

 私は思わずプッと吹き出してしまった。

 恭先輩は音川先輩にいつもビシビシ指導してもらってるものね。だけど、恭先輩が仕事出来ないって訳じゃなくて、反対に仕事が出来るから、要求も高くなるだけなのよね。


 そして、あとの2人、あ、あの濃いー感じは…

「いやっほー! そらちゃん! お待たせされたよー」

 やっぱり、さっきディナーをドタキャンした地渡社長と、正反対にまったく濃さがないデラルドさん。

「先ほどは失礼しました。ディナー代は後ほど遠慮なく請求なさって下さい」

 いつものごとく、冷静な言い方で地渡社長をフォローする。

「ああ、待たせたね。でも、キャンセル料金は取らない店だったんで、その点はご心配なく、だよ。」

 そんな風に空社長が説明すると、少し目を見張ったデラルドさんだったが、すぐに立ち直って言う。

「それはそれは、助かりました。ありがとうございました」


 お気に入りの空社長とその奥様に、ピッタリくっついて行く地渡社長。

 案外楽しそうな3人の様子を見て、自分がついて行くこともないと、私たちがいる方に顔を向けたデラルドさんは、殺気立ってる一直先輩に目をやって、恭先輩に目をやって、そしてアスラ先輩とビリビリと無言のやり取りをして…

 最後にお姉さまと私に目をやった。そのとたん、他の人は無視するようにスルーして、あっという間に私たちの前に立っていた。


「わあ! びっくりした!」

 あまりの早さに、思わず声が出てしまう。それを聞いたお姉さまが、キッとデラルドさんを睨み付けて言う。

「妹を怖がらせないで下さる?」

 普通の人ならそれで縮み上がるところなんだけど、いかんせんデラルドさんは悪魔だ。しれっとした顔をして、少し楽しそうに言葉を返した。

「これはこれは、失礼しました」

 胸に手を当てて、キザっぽいお辞儀をするデラルドさん。

 それをツンと見ていたお姉さまだが、いぶかしげにデラルドさんに聞いた。

「それで? 私たちに何か御用?」

「ええ。おふたりのエスコートをさせていただこうと」

 そう言って、曲げた腕をお姉さまの方に差し出した。

 ええっ! デラルドさんがエスコート? 私はあまりよく知らない人と腕を組むなんて、ちょっとだめ。と、思ったから、お姉さまの腕にすがりついた。

 お姉さまはそんな私の様子に気がついて、

「だったら今日はこのままで。それでよろしいかしら」

 と、腕にすがる私を示して、デラルドさんとの腕組みは断ってくれた。

「もうそれは。では行きましょうか」


 そしてお姉さまとデラルドさんと私の3人は、光の回廊へと入って行ったのだった。


「すてき…」

 夢見るように言う、恭先輩と那波先輩と音川先輩と私。

 お姉さまを除く女性陣は、光のページェントにもうメロメロ状態。


「そろそろ消灯の時間になりまーす」

 係の人の呼びかけに、名残惜しげに出口へと向かう人々。

 私たちも、素晴らしいイルミネーションに心を残しながら出口へと急ぐ。

 出口はなぜか混雑していた。というのはね。

「本日はおいで下さった皆様に、これをお渡ししています」

 係の人が渡してくれたのが、またオーナメントだった。今度のは、光の王冠をかたどった、キラキラとそれは素敵なもの。わあ、これでお土産が2つになった。

 でも3点って言ってたけどな、もうひとつは? 不思議に思ってそのことを聞くと、恭先輩はちょっと照れたように言った。

「えーっとね。あとの1点はあなたの心に残ったイルミネーションたち。って言うのはダメかしら?」

「! ステキです!」

 思わず言うと、「よかったー」と笑顔を返してくれる恭先輩だった。


 出口を出たところで、今日のツアーもお開き。

 ご夫婦や恋人たちは、これからが2人の時間よね。若者組は、それぞれ挨拶を交わして、皆、楽しそうにあちこちへと散らばっていく。

 空社長とパンダさん夫婦、そして地渡社長は、これから落ち着いたお店で大人の時間を過ごしに行くらしい。


 私はお父さんとお母様にこれから帰るメールを送る。

 そして待っていたお姉さまに声をかけようとしたんだけど…。


「今日はもうお帰りですか?」

「ええ、大事な妹と一緒に」

 てっきり、地渡社長とともに大人の時間を過ごすんだと思っていたデラルドさんが、お姉さまに声をかけていた。私はちょっとビックリして2人の会話を黙って聞いていた。

「そうですか。今日は彼女のエスコートですね。では、後日、私と2人の時間を取っていただけませんか?」

「なんのために?」

「デートのお誘いです」


「ええっ!?」

 私は今度は本当に驚いて、思わず声を上げてしまう。

 あたふたしている私を、冷静な目で見ながら2人は会話を続けた。


「よろしくてよ」

 え? お姉さま了解するの? なんだかさっきからビックリすることだらけで、感覚が鈍りそう。

 だけどデラルドさんはそんなお姉さまに、

「ありがとうございます。私の連絡先です」

 と、当然のように落ち着き払って名刺を差し出す。

 ちょっとそれを眺めて、フッと可笑しそうに笑ったお姉さまが言った。


「貴方に私が落とせるかしらね?」






ここまでお読み頂いて、ありがとうございました。

冬の初めにガッツリ風邪をひいてしまい、今年はイルミネーション見に行けないかなーと、ちょっと残念だったので書いてしまいました、イルミネーション話。

大好きなんですよねー、イルミネーション。

けれど実は、デラルドさんの初恋? 話でもあるのでした。

さて、デラルドさんは手強いフローラお姉さまを落とすことが出来るのでしょうか。


それはさておき、そろそろ今年も終わり。皆様に良いクリスマスと新年が訪れますように。

MERRYCHRISTMAS! & HAPPYNEWYEAR!


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