海風
空中でラックは何も訊くことができなかった。何も質問しなければならないということでもなかったので一切構わないのだが、ちょっとだけ気まずい空気だったのだ。
港町ナムルがあと100mの所まできたので、ラックとアレックは人影が少ない場所を探した。普通の人には2人の翼は見えないため、人が浮いているように見えるのだ。それに、ラックは眼鏡を捨ててきた上に帽子も飛んでしまわないように鞄にしまっておいたので次期後継者だというのがすぐに分かってしまう。空飛ぶ王子様は国民にとってかなりショッキングにみえるだろう。なにしろ、王族とその世話をする者、よく城に訪れる者以外はラックに翼があること(空を飛べる)を知らないのだから。
何かの建物の間に周りから見えないようにこっそりと降りると、近くを歩き回り、服屋を探した。何本か通りを歩いたところに小さなものを見つけた。
「入ってみるにゃ。」
アレックを促し、ラックも店内へと入っていった。
中はなかなかいい雰囲気で、意外と品揃えも良かった。
ラックは中を見てまわると適当にいくつか持っていってとりあえず着てみるように言った。
試着室から出てきたアレックはさっきと比べ物にならないほど立派に見えた。
「着心地はどうかにゃ?サイズも適当だったから合ってるか分からないんだけど。」
「大丈夫みたいだ。」
アレックは何歩か歩いてみて
「動きやすいし。」
と付け足した。
「それでいい?前の服はもう処分してもらうみょ。」
アレックはうなずき、ラックは店員に一式分の金を払い、アレックが持っていたさっきまで着ていた服を手渡して処分するように頼んだ。
店を出てから2人はゆっくりと周辺を見渡しながら歩いた。
「俺は、記憶の限りではあの森からこんなところまで来たことは無かった。でも、この海も見えていたし町並みも少しなら感じることができたんだ。
行こうと思えばいつだって来る事はできた。でも何故か、あそこを出てわざわざ飛ぼうとは思わなかったんだ。今思うとまるで誰かが来るのを待っていた。何でそう思っていたのかは分からないけれど、こうなるべきだったのだろうな。」
海から吹いてくる潮風はどこか湿っていたが、それは2人を不愉快にはさせなかったし、海にも負けない青さを持った空はいくつかの小さな雲を自由に遊ばせていた。まるで世界が2人のこれからを支えているようだった。
「何かいいにおいがしてこにゃい?」
フィツはどこからか香ってくる優しい香りをその整った鼻で受け止めた。
「もう昼頃だしな。」
アレックも気づいてどこからそれが香ってくるのかを探そうとあたりを見渡した。
「あっ、あそこ。屋台・・・かにゃ」
ラックが指差した先は小さなオレンジ色をした屋台のような店だった。繁盛しているらしく、行列が並んでいる。
「ちょっと早いけど、もうお昼にする?」
ラックがアレックに訊いてみると、アレックはすぐにうなずいた。
「そうしよう。」
変なところで切ってしまいました。。。
いつかこの世界観を出したいと思っています。