体育大会? そんなイベントあったっけ?
その日の朝、体育館に全校生徒が集まることになった。 理由は不明。 生徒達の大半はこの時間の無意味を訴えていた。 倉石瑞稀もその一人である。
「もう! こんな時間があるなら体育大会の練習をしたいのに!」
「そうだそうだ! まったく、時間の無駄だぜ!」
この場にいるほとんどの生徒が学校のイベント『体育大会』を楽しみにしていた。 この時期にする理由は、まだ入学まもない、一年生たちに一致団結して、行事をこなすことで学校やクラスメイトたちと、仲良くなって欲しいという意識が込められていた。
倉石瑞稀もこの行事の後にある、生徒会選挙の前の息抜きとして、楽しみにしていたのである。
やがて、校長先生が高台へ立つ。 ーー近くにいる人は校長先生の様子が変であることに気づく。
「⋯⋯今回、開催予定だった、体育大会は中止いたします⋯⋯」
その校長から出た発言に全校生徒は驚愕した。 ある者は耳を疑い、またある者は野次を飛ばす。 体育館は、一瞬で修羅場とかした。 倉石瑞稀は突然の発言にボーっとしたが、同時に心当たりを思い出す。
それは先日のこと、クラスメイトの桐原彩乃が怪我をした。 体育大会の練習中の生徒が投げたボールが彼女に接触したのだ。 その彼女はまだ、帰って来ていないが、それが関係しているのか。
そのとき、「静かに」と女性の声が響いた。 あんなに騒がしかった、体育館が静まり返る。 それは明らかに異様なことだった。 ーーまるで不思議な力で発言を禁止された様な錯覚を覚える。
「当然ですわ、負傷者が出たんですもの。 桐原彩乃は数日経った今も意識が戻っておりません。 怪我人が出た行事を中止にすることは当然! ですわ」
体育館に彼女ーー川端ことねの歩く足音だけが響く、彼女は校長のいた場所に立つと発言を続けた。
「負傷者は、桐原彩乃一年。 ⋯⋯私のクラスメイトでした。 原因は加害者の怠慢です。 ⋯⋯彼は今頃なにをしているのでしょうか? ⋯⋯ね、みなさん?」
川端ことねの発言は、加害者を処罰したと言う事実を伝えていた。 そして言外に、川端ことねに逆らうと、こうなると言われているようでした。
「さて、それでは迫ってきた、体育大会に向けての練習を今日から始めよう!」
「体育大会? そんなイベントあったっけ?」
「ことね、この学校の伝統行事だぞ! 創立からどんなことがあっても中止したことがないんだ!」
「へ〜、すごいね~」
「凄いねじゃなくて、ことねにはとても関係ある話しなんだぞ!」
湊が難しいことを言っているが、ことねにはよくわからなかった。 理解したのは、一日かけた体育の授業がある。 だから今日からその練習をしようと言うことだった。
「私が怪我をしなかったから、ストーリーが変わった?」
「あ! たしか、あの時謝罪してた男子が体育大会の練習とか言ってたよね!」
「私、体育大会当日は休むわ⋯⋯」
「駄目だよ、彩乃ちゃん。 一緒に頑張ろ!」
ことねは運動が好きなのである。 毎日、ジョギングをしたり筋トレをしている、ぐらいには。 でもそれより好きなのは、湊である。
「運動した後の湊のご飯は、美味しいんだよ! 運動の疲れも湊の笑顔を見れば消えてなくなるよ!」
「はいはい、それはよかったですね」
「もう、そんな態度じゃ、湊は落とせないよ! 彩乃ちゃん!」
「⋯⋯はあ、もう別にどうでもいいかなぁ」
その言葉にことねは衝撃を受けた、恋のライバルが突然、辞退したのだ! と言うことは、このまま、一人勝ち? ことねは勝利の笑みを浮かべたのだった。
「なによ、ニタンタして」
「別に、勝利の笑みを浮かべていただけだよ~」
「⋯⋯ってことなんだ。 つまりことねと、この学校の繋がりは⋯⋯」
三者三様の状況を見せる三人。 教壇にいる倉石瑞稀は思ったーーコイツら全然私の話しを聞いてねぇ、と。
朝方の住宅街をカバンを持って走る女性がいました。 そんなに焦って、彼女はどこへ行ことしているのでしょうか? もう彼女の居場所なんてどこにも存在しないのにーー




