権力? それよりも添い寝だ!
学園の校長室に、校長用の椅子に堂々と腰掛ける女性がいました。 そしてその横には、ヘコヘコと彼女の様子を伺う中年男性がいます。
「この度は、ご入学おめでとうございます⋯⋯川端ことね様!」
「まあ、そんなにかしこまらないでいいわよ、校長」
「いえ、こうして私共やこの『理想学園』があるのは貴方の力があってこそですから」
「ふふ、正確には私の親がだけどね。 まあ、悪い気はしないわね」
そう言いながら川端ことねは足を組み返します。 校長は彼女の機嫌を伺いながらも話しを振りました。
「ところで、先日の入学式でお話しされていた件ですが⋯⋯」
「ああ、あれね。 素晴らしいでしょう、もうすぐこの学園のすべてが変わるわ!」
声とは、裏腹にその目は真っ直ぐに校長を見ています。 ーー逆らえばどうなるかわかっているわよね?
校長は冷や汗が止まりませんでした。 彼女の目は本気だったのです。 その時、ドアをノックする音が聞こえました。 川端ことねは、顎を動かして校長に出るように言います。 その指示に駆け出すことで意識を示す校長でした。
「校長先生、お話しがあります」
「今川先生! ⋯⋯どうされましたか?」
「どうしたもこうしたもありません! 川端のことです! 彼女を処分してください!」
「⋯⋯あまり大きな声を出すな」
「ふふ、面白い! 誰が誰を処分するですって?」
部屋の中から聞こえた来た声に、校長と今川は意識を向ける。 校長は顔面蒼白で、今川は彼女の方にかけ出していった。
「川端! 貴方なにをしているの? ここは、校長室よ! 貴方が腰掛けているのは校長の椅子です。 今すぐ立ちなさい!」
「まあ、おっかない、おばさんだこと」
「誰がおばさんですって! 私はまだ三十も超えてない!」
「今川先生、落ちついてください」
校長が今川先生を落ち着かせようとする中、川端ことねは、スマートホォンを弄り始める。
「川端、今は先生と話してる最中でしょう!」
「はいはい、待ってくださいね⋯⋯ありました。 すみません、お待たせしました。 ⋯⋯今川幸子さん」
「なんですか、突然!」
「今川幸子⋯⋯シングルマザーですか、小学生の息子さんがいらしゃるようですね」
「⋯⋯なによそんなの今は関係ないでしょう!」
「校長先生、先程は二人で面白い話しをしていましたね。 たしか⋯⋯校長が誰かを処分すると」
校長先生の体は先程から震えていました。 ーー今彼は判断を迫れているのです。 しかも答えは彼にとって一択しか無い答えを、あえて自らの口で言えとーー
「⋯⋯私が、今川先生を処分いたします」
「な! 校長先生! どう言うことですか!」
「黙りたまえ! 君には学校を退職して貰います」
「そんな! 嘘でしょう! 校長!」
校長室には彼女の悲痛な叫びが響いていました。 ーー次の日今川幸子と言う人物はこの学園から消えました。
「キャ! 恥ずかしいから! 下ろして!」
「も〜こんなに弱っているのに、無理したら駄目だよ彩乃ちゃん」
「川端さん! わかったから、保健室に行くから、だから下ろしてください」
「ことねって呼んでくれたら考えるかな?」
「ことね! 下ろして!」
「駄目~」
「ふざけないでよ~」
そんな風に、二人でイチャイチャしているうちに、保健室に到着しました。 器用にことねは、お姫様抱っこをしたまま、ドアをノックします。 ですが、応答がありません。
「あれ? 留守?」
「いないなら、勝手に入るわけには行かないわ、帰りましょ」
「大丈夫! 保健の先生が来るまで、私が付き添ってあげるから! 寂しくないよ!」
そう言うとことねは、ベットの上に彩乃を下ろし、布団を掛けます。 そして何故か近くにあるもう一つのベットを近づけて、そのベッドに寝転がりました。
「ちょっと! アンタなにやってるの!」
「ふふ、添い寝だよ」
「はあ? なんで? 意味わからないんだけど」
「こうやって一緒に寝ると、安心して、ぐっすり眠れるんだよ⋯⋯」
「こんな状況で眠れるか!」
「⋯⋯湊ったら意外とムッツリなんだから」
「眠るな!」
彩乃はことねを、起こそうとしますが起きません。 その時、ドアが開いて保健の先生が入って来ました。
「うん? お客さんかな?」
「⋯⋯貴方は、今川幸子」
「えっと、いきなりフルネームで呼ばれるのは、恥ずかしいかな」
彩乃は彼女のことを思い出します、川端ことねの計画の最初に犠牲になった彼女のことを。 ーーでもその後のことを考えると、まだ彼女は幸せだったのかも知れません。
「君大丈夫? だいぶ顔色が悪いね⋯⋯あ、だから保健室に来たのね歓迎するわ」
「へ? はいどうも⋯⋯」
「それで、そっちのグースカ寝てる健康児は? 貴方の友達?」
「ぐ! ⋯⋯クラスメイトです。 私をここまで運んでくれました」
「⋯⋯ふん、青春だね! 若いっていいな! 私も昔は彼氏とイチャイチャ⋯⋯」
朝の授業が始まる中、ここだけはまるで、別世界が広がっていました。
「⋯⋯それでね、彼ったらお前が好きだ! なんて⋯⋯」
「⋯⋯湊、もう~せっかちさんなんだから⋯⋯」
「よし、教室に戻ろ」




