対決! それよりも仲良くしようよ~
朝の教室。 生徒たちが集まり、朝の挨拶をしている時間ーーことねは窓際の席で、湊と並んでのんびりしていた。 朝日の気持ち中でことねはリラックスモードだ。
「湊、一緒のクラスで本当によかった! 私、湊が居ないとなにも出来ないよ!」
「本当か? 俺がいなくても関係ないと思うんだが⋯⋯」
「そんなことないよ! ホラ、湊がいるから抱きつける!」
「痛いぞ! これじゃ抱きついているんじゃなくて締め付けてるんだ」
そうして、お互い見つめ合って笑いあう二人。 周りの生徒たちは、二人のイチャイチャに各々のリアクションをするしかなかった。 そこには誰も入れない領域があったのだが。
「あの? お二人さんは仲が良いのですか?」
突然聞こえた声に振り返ると、一人の女性がいた。 その女性は二人に近づき、話しかける。
「すみません、突然話しかけてしまって⋯⋯始めまして。 私の名前は桐原彩乃と言います。 よろしくお願いします」
「おう、桐原さんだね、よろしく。 俺の名前は⋯⋯」
「高坂湊さんですね、知ってます!」
そう言うと、彩乃は湊の手をとった。 そして哀れむような視線を彼に向ける。
「可愛いそうに⋯⋯心身ともに衰弱して疲労しているのに。 みんなの前では普通でいる様に指示されいるのですね。 大丈夫です、もう無理しなくていいんですよ。 ⋯⋯私がこれから貴方の太陽になります!」
突然の彼女の告白に、湊だけではなく、その場にいるクラスの全員が頭にハテナを浮かべた。
「えっと、桐原さん」
「桐原さんなんて、よそよそしいです! 彩乃って呼んでください! 湊さん」
「⋯⋯彩乃さん、俺、別に衰弱も疲労もしてないけど」
「いいえ、わかります。 みんなの前でそう言う風に振る舞うように、強制されているんですね! この女に! ⋯⋯ねえ、川端ことね!」
そう言うと、彩乃は、ことねを指差しました。 はたしてことねの返答はーー
「もう、湊ったら、エッチ! そこは夜になってからね⋯⋯」
「寝るな!」
「⋯⋯え?なに、彩乃ちゃん」
「アンタに親しく呼ばれる筋合いはないわ!」
「⋯⋯覚えてないんだ。 悲しいな。 でも、今日からまたよろしくね、彩乃ちゃん」
そう言うとことねは、彩乃に手を差し出しました。 一瞬呆然とした彩乃でしたが、すぐにことねの手を払い退けます。
「アンタは、そうやっていつまで、猫を被っているの!」
「ネコ! かわいいよね! 私大好き」
「私は犬派よ! ⋯⋯! 違うわ! そうやってとぼけて。 私、知っているのよ貴方の本性を『理想』の使者さん」
そう言うと彩乃はボクサーの体制になりました。 クラスのメンバーはこの状況にどうリアクションすればいいのかわかりません。
「⋯⋯彩乃さん、さっきからなんの話しをしているんだ?」
「大丈夫です、今ここでアイツを倒して、学園の平和を導きます!」
「彩乃ちゃん、ちょっと姿勢が悪いよ~。 こうじゃなくて、ホラ! この体制がいいと思うよ~」
「!! 貴方いつの間に私の後ろに! アンタは瞬間移動の使い手なの!」
後ろに周りこまれた、彩乃はそのままどうすることも出来ず固まる。
「う~ん⋯⋯彩乃ちゃんちゃんと食べてる? あの日から全然体型が変わってないよ⋯⋯」
図星だった。 桐原彩乃として目覚めたあの日から、今日まで彼女は碌にご飯が喉を通らなかった。 元々食は太い方ではなかったが、毎日、自分の役目に緊張と恐怖を覚える日々。 それでも、妹の前だけでも、と元気なフリをしていたのだ。
夜に眠れず、ノートを見たり、妹に聞こえないように、声を抑えて泣いた日もあった。 すべては学園の平和のためにーー
彩乃は蹲ってしまった。 あの日の記憶を思い出した日のように 霞んだ視界によろよろと手を伸ばした。
ーーお願い、誰か助けてくださいーー
「彩乃ちゃん、大丈夫? また具合が悪いのかな? よし! 保健室へ行こう!」
「⋯⋯へ? 大丈夫だから、恥ずかしいからやめて!」
「もう、無理しないで! ゆっくりしよう、ね!」
顔を真っ赤にする彩乃を抱き抱えて保健室へ向かうことね。 その様子をみた人たちは、こう言うのだった。 お姫様と王子様見たいだった⋯⋯と。




