孤独な少女
「⋯⋯お嬢様、櫻井美羽が脱走しました⋯⋯」
「櫻井美羽? 誰それ」
「⋯⋯私の親戚です⋯⋯親と前から仲が⋯⋯」
「どうでもいい! つまらない話題を話さないで!」
「⋯⋯すみません。 ですが、彼女には貴方の側近になってもらう予定で⋯⋯」
「高坂湊! お前はいつから、無駄な意識を持ったの?」
「⋯⋯はい、申し訳ございませんでした。 お嬢様」
ーー側近? 私にそんな者は必要ない。 そう、私は一人。
これからも、私はずっと一人で生きていくーー
『ハハハ。 おいおい。 じゃあ⋯⋯あの坊主は?』
「⋯⋯アイツはただの私の駒よ」
『そうか。 ⋯⋯拙者はお主がワザと孤独になっているように見えるでござる』
「ふふ、私の体に居候している分際で喧しわね」
その時、川端ことねのスマホから、着信音が聞こえました。
『⋯⋯出ないのか? 母親からのようだが?』
「母親? 私のことより仕事優先の女。 大方、最近の私のことを聞いたのね。 ⋯⋯今更母親気取りって訳?」
『まあ、子はかわいいからの。 親からしたら子のことはいつまでも⋯⋯』
いつまでもなり続ける着信音が鳴り続け、スマホの光が部屋を照らすのでした。
「社長。 資料を用意いたしました」
「うん、ありがとう」
「お先に失礼します」
「ご苦労様」
部下が部屋から出ると、この会社の社長ーー川端雫は用意された資料に目を通す。
集中して作業をしていると、時間はあっという間に夕刻、雫は休憩をとる。
夫は海外出張、私は単身赴任。 娘のことを同行者の家の子供に任せて、私は遠い場所で生活している。
最後に会ったのは、いつ頃だろうか? 年末年始などの休みにも帰らない私は薄情なのだろうか?
過ぎる日々の中で、それが気がかりだった。
その時、着信音が鳴った。 私は思わず、微笑みながら出るのであった。
「もしもし、お母さん」
「ことね。 元気?」
「元気だよ。 ⋯⋯今、仕事中だったかな」
「いいえ、休憩中よ」
「よかった。 ⋯⋯あの件解決したって」
ーーあの件。 たしか、川端家が代々守っていた祠の話しだったかしら?
「祠の悪霊を対峙したの? 貴方が?」
「違うよ。 私はコタツで寝てた」
「じゃあ湊くんね! お手柄だわ!」
「そう思うよね、違うの。 偶然同行した、生徒会の書記の人が成仏させたの」
「生徒会書記? 成仏? ⋯⋯どういうことかしら?」
雫の頭の中には、頭がハテナでいっぱいになるのであった。
「出ないわ⋯⋯ことね、どうして?」
川端雫は夕方頃から、深夜まで娘に連絡をかけますが、連絡が取れません。
そして、気づいたのです。 今まで、私、ことねに電話さえかけてなかった、と。
今回、電話をかけたのは櫻井家から櫻井美羽が失踪したと、連絡があったから。
あれ? そういえば私、櫻井美羽のことあの子に話したかしら?
そもそも私、最後にあの子と話したのいつだったかしら?
どうして、今になって気付いたんだろう。 私は、あの子に母親らしいことを何もしていない。
焦燥に駆られながら、握る手は震えていたのであった。
「奥様、落ち着いてください」
「美月! どうしよう! 私、あの子に何もしてなかったわ!」
「大丈夫です、奥様。 ⋯⋯あの子には湊くんがいるでしょう」
「⋯⋯そうよね。 大丈夫よね」
その後、柳田美月の口から、高坂湊が軟禁されていることを知るまで、彼女はことねを意識から避けるように、仕事漬けの日々を過ごすのであった。




