『理想の信者』5
朝礼の後、私は体を引きずるように、高坂湊の元へ向かった。
「お嬢様!」
「おい! ここを出ろ! 高坂湊!」
私は、ドアを乱雑に開けて、湊に指示を出す。
私の心は今、あの女から溢れた生気で気分が悪くなっていた。
「あり得ない、あの女! 桐原彩乃!」
「⋯⋯彩乃⋯⋯」
「⋯⋯貴方、勘違いしているようね。 学校が救われても、貴方は誰にも救われないわ! 残念だったね⋯⋯湊」
「ことね? ことねがいるのか! ことねを返せ悪霊め!」
「勘違いしているのね湊! 私は最初から正気よ! 貴方は私の駒! 貴方は私だけを見ていればいいの! ⋯⋯桐原彩乃なんかじゃなく、私のことをね!」
「⋯⋯そんな! 嘘だ! ことね!」
『いいぞ! この絶望感! まさに生き返るようだ!』
ーー堪らないわ! 彼の絶望した表情! そして何より、私のことだけを考えていることじたいが! そうよ! 貴方はずっと私だけを、私のことだけを見てればいいの! ああ、ゾクゾクするわ!
「くくく⋯⋯いいぞ絶望! 力がみなぎる! 絶望がある限り、我は不滅だ!」
地下室に私の声が響き渡る。
その後、私と湊は生徒会長室に戻っていた。
私は、椅子に堂々と座ったが、湊は部屋の端に座りこんでしまっていた。
その時、ドアが蹴破られる様に開いた。 その後、中に入って来たのは、忌々しい女、桐原彩乃だった。 部屋の主である私は、それを向かい入れる。
「桐原彩乃⋯⋯貴方、本当にここまで来るとは思わなかったわ」
「川端ことね! 貴方の独裁はもう終わりです!」
「終わり? ⋯⋯ふふ、面白いことを言うのね。 桐原さん。 どんな手を使おうと、無駄よ! この学校は、私の掌の上にあるのだから」
私の発言を聴いていないのか、この女は視線をあたりを見回すように見た後、端で蹲っている湊に駆け寄り、声をかける。
ーー私はそれが気に食わなかった。
「⋯⋯ふん、何しているの? コイツは、私の駒のひとつにすぎないのに」
「会長のことなんて気にしないでいい! 私と一緒に、もう一度立ち上がろう湊」
「⋯⋯彩乃、ありがとう」
見る見るうちに生気を取り戻す湊を、私は見ていられなかった。
ーーなんで? なんでなの? 私のなにがいけないの? 私は湊を! 私は湊のために頑張っていたのに! 許せない! この女!
「⋯⋯なるほど。貴方のやり方で、この私に抗うつもりなのね⋯⋯いいわ。 全校生徒の前で、私と貴方たちで最後の勝負をする覚悟はあるかしら?」
「もう、怖くない。 湊、私たち一緒なら絶対に負けない」
「うん、彩乃⋯⋯君と一緒なら、俺はなんだってできる!」
「この学校は私の王国。 私の理想に逆らう者はーー粛清する」
「うぐ! グアアア」
「悪霊⋯⋯ここはアンタの場所じゃない! 今すぐに消滅せよ!」
全校生徒の目の前で恥を晒す私。
なんだ? なんだよ! 見るんじゃないわよ!
桐原彩乃は封印の札を私に貼り付けて来る。
ーーコイツ何者なの? 私を退治しようとでも言うの?
「小癪な技を! この体がどうなってもいいの?」
「⋯⋯! アンタこそどう言う意味よ!」
「ハハハ、なにも知らないのね」
『俺様が離れるとコイツの体がどうなるかな?』
「アンタ、宿主になにをしたの!」
『ハハハ! 俺様はただ事実を言ったまでだ!』
ーーその通りだった。 もはや私たちは一心同体。 いや、私の方が最初から上だった。 コイツは人間の絶望感を糧に生きる悪霊。 そして私はその力を使い過ぎた。 もはや、絶望感しかない私は、コイツがいなければ、廃人になるだけだ。
悪霊が抜けた私はただ、寝転がることしか出来なかった。
そんな私の前で見えた光景は、今にも消えそうな悪霊と、二人が喜んで抱きしめ合う姿だった。
ーー許せない! お前たち! この学校! すべてが! 憎くい!
『感じるぞ、⋯⋯ハハハ。 やはり最高だ! 絶望の味は⋯⋯』
悪霊が私の負の力を使い私を転送させるーー
私は唖然とする二人を朧げに見ながら消えるのであった。




