『川端家の神子』
あれ? ここは何処? 廃墟? でも見覚えがあるような気がするーー
そもそも私、どうしてこんな所に居るのかな? 記憶がぼんやりしてる。
たしか、アイツから解放されたはずーーあの祠の悪霊から私はーー
私の名前は、川端ことね。 周りのみんなから、お嬢様って呼ばれてる。
その理由は、私はこの土地の神子だから、らしい。
私の存在がこの土地にとって大きな意味があると、父様や母様、それに私をいつも世話をしてくれる、美月おばさんがよく言ってる。
いつも、外で遊んでいる時に会う人たちは、私のことを崇めてくる。
ーー不思議だよね、私はただの一人の少女なのにーー
「ことね! 一人で外にいくな! 危ないだろ!」
「ちょうどよかった!」
私のことを、ちゃんと叱ってくれる彼ーー高坂湊。
お出掛けする時は、いつも湊がそばにいてくれるの! それで私が悪いことをしたらいつも注意してくれる、私にとってとても大事な人。
ーー湊は私のことどう思ってくれているのかな?
「湊! これからお出掛けしましょう!」
「駄目だよ、いつも勝手に出歩いて怒られているだろ」
「⋯⋯父様も母様も私に過保護すぎるよ!」
「当たり前だろ! ことねは、大事な存在なんだから」
「⋯⋯大事。 それって私のこと自身が? それとも存在が?」
「⋯⋯それは⋯⋯」
「⋯⋯湊。 答えてくれないんだ⋯⋯」
私はショックだった。
「当然ことね自身だよ」って言って貰えると思っていたから。
ーーそうか、誰も私自身を見てないんだね。
みんな、私のことを『川端家の神子』だと思っているんだね。
ーーねえ、神子ってなに? 私は『川端ことね』だよ!
私はただの、一人の少女だよ! なんでみんな、私を見てくれないの?
ーーそうか。 私が、神子の役割があるからなんだ。
その役割がなくなれば、みんなきっと『私』のこと見てくれるよねーー
私は、湊が家に帰って、周りに誰もいない時に屋敷から離れた。
向かうのは、山の山頂にある祠ーー
美月おばさんから聴いたんだ。 私の神子である原因が、アソコにあるって。
ーー私は山道を歩いた。 不思議と暗いはずの道なのに、登れた。
だって、聴こえるのーー私を呼ぶ声が。 私を自由へと導く声が。
そして気がつくと、私は山頂にいた。 目の前には禍々しい祠と、不思議なお札があった。
私は思った。 ーーこの札を取れば私は神子から解放されるーー
そして、私は札を剥がした。 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ことね! まさか⋯⋯」
湊がこちらに駆けつけてくる。 湊の手に持っているのは私の靴? 気づかなかった。 靴が脱げていたこともーー
湊は焦ってる? 私の手に、この札があるから。 また怒られるかな? ーーでももういいよね、だって私はもう『神子』じゃないよーー
「湊⋯⋯これでもう私は、ただの一人の女の子だよ。 だから⋯⋯」
『この気配は。 ⋯⋯お前が今代の川端の神子か⋯⋯』
「ことね! 危ない!」
「なにあれ⋯⋯もしかして、私はとんでもないことをしたの?」
『ハハハ! 神子様は自分のやったこともわかっていないようだ!」
「私はただ、一人の女の子として湊に見てもらいたかっただけなのに⋯⋯」
「ことね! 悪霊の言葉に耳を傾けてるな!」
『所詮、ガキか⋯⋯その絶望! 心ごと喰らい尽くしてやろう!』
「駄目! 湊に手を出さないで!」
「ことね! なにを言って!」
『ハハハ! 面白い! なら、私の理想のために生きるのだな! お前の好きなコイツのために!』
「はい、かしこまりました。 身も心もすべて貴方のために、捧げます⋯⋯」
ーー私の中に悪霊が入ってくる。 『私』が侵食されていく。
「ことね! しっかりしろ! 大丈夫か!」
「⋯⋯ことね? 私は川端家の神子よ! これからはお嬢様と呼びなさい。 ⋯⋯感じるお前の絶望が⋯⋯私に力をくれるわ!」
湊! 違うの! 私はお嬢様って呼ばれたくない! やめてよ!
ーーこの日から私は『神子』ではなく理想の『信者』になったのだーー




