悪霊に飲まれる川端ことね
「ことね! どこに行ったんだ! ことね!」
真夜に、一人の少女を呼ぶ声が、響いた。
川端ことねーーこの土地の代々の護り主である、川端家の少女である。
彼女は、この土地に重要な存在であり、誕生した時から、大切に育てられていた。
そんな彼女が、その日姿を消した。 すぐに捜査が始まったーー高坂湊もその一人である。
川端ことねは、高坂湊が親の元へ帰った後、突然、姿を消したのだ。
高坂湊は、彼女を必死で探すが見当たらない。 諦めて俯いたーーその時。
「ことねが、いつも履いてる靴! ⋯⋯この山道は!」
高坂湊は駆け出していた。 冷静であれば、一度、大人たちに合い一緒に向かうべきところだった。
しかし、彼の頭はそれどころではなかったのだ。 この山の山頂には、祠があり、その祠には、悪霊が取り憑いていると言う、言い伝えを思い出す。
ーーまさかことねは、自分の存在を否定したかったのか。 川端ことねとして、一人の少女として、みんなに見てもらいたかったのかーー
高坂湊は、今日彼女が言ったことに、答えられなかった自分を恨んだ。
「ことね! ⋯⋯! ことね!」
高坂湊は川端ことねを発見した。 場所は山頂の祠の前ーー
目の前には、禍々しい雰囲気が漂っており、彼女の手には破れた札があった。
「ことね! まさか⋯⋯」
「湊⋯⋯これでもう私は、ただの一人の女の子だよ。 だから⋯⋯」
『この気配は。 ⋯⋯お前が今代の川端の神子か⋯⋯』
「ことね! 危ない!」
突然、聞こえた声に呆然とする、川端ことねを高坂湊は後ろへ庇います。
「なにあれ⋯⋯もしかして、私はとんでもないことをしたの?」
『ハハハ! 神子様は自分のやったこともわかっていないようだ!」
「私はただ、一人の女の子として湊に見てもらいたかっただけなのに⋯⋯」
「ことね! 悪霊の言葉に耳を傾けてるな!」
高坂湊は悪霊と対峙します。 しかし、体が言うことを聴きません。
『所詮、ガキか⋯⋯その絶望! 心ごと喰らい尽くしてやろう!』
「駄目! 湊に手を出さないで!」
「ことね! なにを言って!」
『ハハハ! 面白い! なら、私の理想のために生きるのだな! お前の好きなコイツのために!』
「はい、かしこまりました。 身も心もすべて貴方のために、捧げます⋯⋯」
湊の後ろにいた、川端ことねは、前に立ち霊を向かい入れるように手を広げます。
そして、悪霊がことねの体に、吸い込まれるように一体化しました。
「ことね! しっかりしろ! 大丈夫か!」
「⋯⋯ことね? 私は川端家の神子よ! これからはお嬢様と呼びなさい。 ⋯⋯感じるお前の絶望が⋯⋯私に力をくれるわ!」
ーーそれから、俺と彼女は家に戻った。 悪霊は彼女の周りをまるで蝕むように、孤立させる。 それでも、俺だけは彼女から離れなかった。
理由はわからないでいた。 でも今、理解した。 彼女は俺の絶望を糧にしていたんだと。
心が沈みそうになった時、浮かんで来たのは桐原彩乃の顔だったーー
長い間、一緒に居たわけではない。 しかし、彼女の目に宿る光に何故か吸い寄せられた。 気づけば、川端ことねの指示ではなく、自分自身で彼女の元に向かっていた。 彼女の頑張る姿を見るのが、俺の心の支えになっていたんだ。
ーー桐原彩乃。 君に会いたいよーー
その時、ドアが蹴破られる様に開いた。 その後、中に入って来たのは、一人の女性だった。 部屋の主である川端ことねは、それを向かい入れる。
「桐原彩乃⋯⋯貴方、本当にここまで来るとは思わなかったわ」
「川端ことね! 貴方の独裁はもう終わりです!」
「終わり? ⋯⋯ふふ、面白いことを言うのね。 桐原さん。 どんな手を使おうと、無駄よ! この学校は、私の掌の上にあるのだから」
川端ことねの声は氷のように冷たく、部屋は静まりきっていた。 その時、桐原彩乃の視線が、部屋の隅にいる、人物に向かう。 そこには、廃人の様にぐったりと座り込む、男性ーー高坂湊の姿があった。 桐原彩乃は急いで駆け寄る。 その様子に藤宮ことねは眉をひそめる。
「⋯⋯ふん、何しているの? コイツは、私の駒のひとつにすぎないのに」
「会長のことなんて気にしないでいい! 私と一緒に、もう一度立ち上がろう湊」
「⋯⋯彩乃、ありがとう」
桐原彩乃は高坂湊の手を握る。 高坂湊は目を開いた、廃人化していた心と体が少しずつ蘇るのを感じる。 彼女の暖かい言葉と手の感触が、絶望の闇に光を灯すのだった。 その様子を見た川端ことねは一歩下がり、冷たい瞳で二人を見つめる。
「⋯⋯なるほど。貴方のやり方で、この私に抗うつもりなのね⋯⋯いいわ。 全校生徒の前で、私と貴方たちで最後の勝負をする覚悟はあるかしら?」
「もう、怖くない。 湊、私たち一緒なら絶対に負けない」
「うん、彩乃⋯⋯君と一緒なら、俺はなんだってできる!」
「この学校は私の王国。 私の理想に逆らう者はーー粛清する」
ついに、三人の学校をかけた闘いが始まろうとしていた。




