櫻井美羽の思い
私は見ず知らずの女の世話をするために、育った。 理由は年が近かったから? 仕える家だから? それとも偶然? 毎日を過ごす中で、私の心の中に思いが募る。
ーーせめて、一度お会いしたいとーー
「駄目だ! 認めん!」
「どうしてですのパパ。 一回だけでも! せめて、顔だけでも⋯⋯」
「それが決まりだからだ! 未熟なお前を、ことね様に合わせる訳にはいかん! 完璧になってからじゃないとな⋯⋯」
パパに反論され、許しを貰えないまま、日々が過ぎる⋯⋯ そんな中、自由時間に彼ーー湊くんから連絡が来た。
湊くんとは、小さい頃から時々、一緒に遊んだり、話しをした仲だ。
私は人見知りで、特に初対面の相手に挨拶など出来ない。 自己紹介なんてしようとしても、名前だけ言って終わってしまうだろう。
ーーいっそのこと私は湊くんに仕える人だったら、よかったのにーー
『美羽、調子はどうだ? 修行は順調に進んでいるか? 将来、共にことね様のために、働けることを期待している』
私はわからない! パパや湊くんの言う、『ことね様』とは何者なのか、何故私は彼女のために生きていくことを、周囲に望まれいるのだろかーー
私は気がついたら、深夜の街に飛び出していた。 最低限の荷物を持って、どこに行くのかわからないまま、私はただ、走り続けた。
気がつくと、私は涙を流していた。
私はこれからどうやって生きるのだろうかーー
「あれ? この部屋だけ、雰囲気が違うね」
「ここは、お婆様のお部屋です⋯⋯この部屋だけは昔のままにしてあるんです」
「なんだが、ここにいると落ち着くね!」
パパとの挨拶の後、私たちはこの部屋へ訪れました。 その途中で、あちこちの装飾を見て、驚くことね様を見て、私は嬉しい、と思ったりしたのは内緒です。
ことね様は、部屋のソファーに座ると、ニコニコしながら部屋を眺めています。
お婆様は、私に色々なことを、教えてくれました。
お婆様は、この別荘で暮らしていました。 本宅より、この場所の方が気に入っていたのです。
私は別荘にいる時、いつもお婆様と一緒に過ごしたことを思い出します。
お婆様のお話しは、どれも楽しくて、私はお婆様といる時間が心の支えになっていました。 虚無な毎日も、お婆様がいたから頑張れたのです。
ことね様は、お婆様の写真を見て、不思議な表情をします。 ことね様が不思議なのはいつものことですわねーー
「懐かしい、気がするの。 もしかしたら、お婆様と一度会ったことがあるかもしれないね。 ⋯⋯と言うことは、もしかして美羽ちゃんとも会ったことがあるかも」
「ことね様が、私と⋯⋯」
ーーそんなこと、考えもしていなかった。 ことねは、私を見つめていた。
その顔はとても優しくて、彼女の瞳に映る私は、微笑んでいました。
「お嬢様。 スイカをお持ちいたしました」
「え! スイカ! 食べる!」
メイドが、スイカを持って来たようだ。 スイカと言う単語を聞いた途端に喜ぶ、ことね様に、私は思わず笑ってしまう。
「秀五郎叔父さんの所では、結局食べなかったからね⋯⋯それから、ずっと食べたいと思っていたの!」
「ことね様! そんなに食べたいなら、言ってくだされば用意いたしますのに」
「ふふ、美羽ちゃん、いつもありがとうね」
ことね様は、私の方を向いてそう言いました。
ーーそう思っているのは、私の方ですわ
あの日、泣きながら、走っていた私に、話しかけてくれたから。
一緒に、暮らそうって言ってくれたから、今の私があるんです。
何があっても、私はことね様に仕えたいですわーー
「うん。 やっぱり夏といえばスイカだね」
「はい、ことね様! あ! ことね様、種が口についております!」
「ありがとう。 ⋯⋯あれ、美羽ちゃんもついているよ! 今、とってあげるね」
そう言いながら、私たちは仲良くスイカを食べるのでした。
「⋯⋯そこの貴方。 どうしたのこんな所で倒れて!」
「家出して来ました」
「⋯⋯その様子ただの家出じゃなさそうね。 来なさい、そんなボロボロじゃかわいい顔が台無しよ!」
「⋯⋯貴方は誰ですか?」
「内緒。 大人の女には秘密があるの⋯⋯」




