断念! それより夏を楽しもう!
「彩乃ちゃん! 起きて! もう昼過ぎだよ!」
「⋯⋯え? 昼過ぎ? 最近、ほとんど寝れない私が?」
「お寝坊さんだね。 私はいつも通りに起きたよ」
「だったら、早く起こしなさいよ!」
「だって、気持ち良さそうに寝てたから⋯⋯」
緊張続きの一日だった彩乃は、相当疲れていたのか、昼過ぎまで寝てしまっていた。 ふと、彩乃は昨日のことを思い出す。
「あの祠! 早くなんとかしないと!」
「⋯⋯彩乃ちゃん、もう手遅れだよ⋯⋯あの祠には立ち入れない」
「え? ⋯⋯ことね? それはどう言うこと?」
「どうにかしたい気持ちはわかるけど、今の彩乃ちゃんには、どうすることも出来ないの。 おとなしく諦めてね⋯⋯」
彩乃は、ことねの顔を見つめる。 ことねは、まるで諭すように事実を告げた。
「影が動いたの、祠の周りは厳重に管理されている⋯⋯今は時が来るまで待つしかないの⋯⋯」
「なによ、それ! 貴方、わかっているの! このままじゃ、危険なのに⋯⋯」
「彩乃ちゃん、諦めて! ⋯⋯それより、海やプールで泳いだり、お祭りの屋台で食べ物を買ったり、打ち上げ花火を一緒に見て興奮しようよ! まずは、ここにスイカがあるから、スイカ割りしよ! 私が目隠しするから、彩乃ちゃんは指示してね」
「そんな気分じゃない! 私は諦めないんだから!」
彩乃は、そう言い残して、去って行った。 また、祠に向かったのだろうーー
「お姉ちゃん、どこか行ったの?」
「山登りに出掛けちゃた」
「もう! 落ち着いて欲しいよ。 私、帰って来たら説教する!」
その後、黒装束に抑え込まれた彩乃は、反省したのか、舞香に説教されながら、トボトボと、家に帰って行くのでした。
「ただいま! 湊!」
「おかえり⋯⋯どうだった?」
「監視体制は整っているから、後は時が来るのを待つだけだね⋯⋯」
「やっぱり避けられないのか⋯⋯」
「だから、今は待つだけだよ」
「そうか⋯⋯ところで、いつまで抱きついているつもりなんだ?」
ことねは、湊を見つめる。 彼の目には、恥ずかしさがあるが、満更でもない様子だった。
ーーやっぱり、私は湊が好き! ことねは、湊を抱きしめなら、思った。
「ことね様、お願いがございます」
「どうしたの、美羽ちゃん? そんな真面目な顔をして」
「一緒に、実家に来てくださいまし」
「うん、わかったよ。 ⋯⋯どこに行けばいいの?」
「夏は家族全員が別荘にいますので、そちらへ⋯⋯」
別荘ーーその言葉を聞いた時、ことねは喜んだ。 色々な妄想が頭に浮かぶーー
「⋯⋯じゃあ、俺は留守番かな」
「ええ! 行かないの! 私、湊と愛を深める手段を考えていたのに⋯⋯」
「家の管理とか、連絡が必要だろ」
「⋯⋯そんな! 毎日、連絡するから、絶対に返してね」
「はいはい、俺がことねからの連絡を、見落す訳ないだろ⋯⋯だからいい加減、俺を開放してくれ!」
一方、彩乃は、家の中でトレーニングをしていたーー 体操服姿で、『打倒、黒装束!』と書かれた鉢巻をしていました。
「お姉ちゃん⋯⋯今度はどうしたの?」
「黒装束の軍団に勝つために、修行をしているの! 今日こそは、絶対に負けないんだから!」
「そう言いながら、毎日、健ちゃんに送ってもらっているのに⋯⋯」
彩乃は、あの日以降、毎日深夜に山に向かっては、黒装束ーー柳田健太に連れ戻される日々を送っていた。
「諦めて、夏休みを満喫しようよ⋯⋯」
「舞香⋯⋯そんな、呑気なこと、言ってる場合じゃないの! それに昨日は、ベスト記録を更新したの! アイツも『記録更新おめでとう! 祠に一歩、近づいたな』って言われたもん。 ここで諦める訳にはいかないわ!」
「それって、遊ばれているだけだよ、お姉ちゃん⋯⋯」
彩乃は、ある意味、夏を満喫しているのであった。




