桐原彩乃の覚悟
深夜の柳田家の応接間で、柳田秀五郎は一人の女性と打ち合わせをしていた。
秀五郎は代々、この地を管理する名門の一家の主なのだが、そんな彼でも、目の前の女性には、頭が上がらない。
二人が会話している最中、屋敷の中が騒がしくなった。 秀五郎は、使いを呼ぶ。
「この騒ぎはなんだ? お嬢様との会談中だぞ!」
「申し訳ございません! 侵入者が現れまして⋯⋯」
「なにをやってる! さっさと捕えろ!」
「かしこまりました!」
使いの黒装束は、飛びのくように姿を消した。 部屋にいた、女性が声を上げる。
「侵入者ですって! 怖いですわ!」
「すみません、ことね様」
「早く捕まるといいですね」
お嬢様ーー川端ことねは、秀五郎にそう言うと、冷たい瞳で彼を見る。
秀五郎は、蛇に睨まれた蛙の様な気分を味わっていた。 ーーその時、襖が開き、中に男女の二人が入って来た。
秀五郎は男の方を見て、その人物を認識して、苛立ちを隠せずにいた。
「貴様! なんの真似だ! 侵入者を堂々と家主の前に連れ込むとは!」
「親父⋯⋯話しを聞いてくれ!」
「何をふざけたことを!」
「まあ、叔父様。 ここは、一旦彼等の話しを聴きませんか?」
その声に反応したのは、侵入者の方だった。
「川端ことね! そんな⋯⋯」
「何故、ここにアンタが⋯⋯」
「健太。 悲しいですわ! 幼い頃は一緒に遊んだ仲でしょう?」
川端ことねは、悲しがるそぶりを見せます。 そして、秀五郎の方を見て言いました。
「話しは終わりましたので、お先に失礼します⋯⋯貴方達はせいぜい無駄な足掻きをしてください、ふふ」
後ろの発言は、二人の方をあざ笑う様に見てーーその後、返答を待たずに川端ことねは、部屋を出て行きました。 残されたのは、絶望する柳田健太、怒り心頭の秀五郎、そして、桐原彩乃でした。
「貴様! どこまで、儂を失望させる気だ! まったく役立たずの無能が⋯⋯」
「すみません、すみません、⋯⋯⋯」
柳田健太の意識が遠ざかっていきます。 失望、後悔、さまざまな感情が彼を襲います。 目の前が真っ暗で、塞ぎ込みそうになった時ーー
「柳田秀五郎さん! 貴方にお話しがあります!」
「侵入者ごときが、儂にお話し? 飛んだ笑い草だな」
「学校は独裁者川端ことねに、占領されています。 貴方の使いがその手助けをしていることも知っています! ⋯⋯ですが、あの学校に軟禁されている、高坂湊と言う男性を助けたいんです!」
桐原彩乃が懸命に、秀五郎に向かって説得をしている、その事実が柳田健太の意識を覚醒させる。 そして、秀五郎を真っ直ぐに見て発言する。
「親父! 俺からも頼む! コイツの願いを聴いてくれ!」
「⋯⋯高坂湊が軟禁されているだと? そんな報告、使いから聴いてないが?」
「本当です! 川端ことねによって、軟禁されてます!」
秀五郎はしばらく、黙考した後、桐原彩乃を見て言いました。
「理解した。 確認の上、対処するから、今日の所は帰りなさい」
「ありがとうございます! よろしくおねがいします!」
桐原彩乃は、何度も頭を下げた後、帰って行くのであった。
柳田健太は、目の前で起きた奇跡に驚いていた、彼は秀五郎に尋ねる。
「親父、本当に対処してくれるんだよな!」
「彼女の発言が事実の場合は、対応する」
この深夜の出来事が、川端ことねと桐原彩乃の戦いの始まりを告げたのだった。
「それで、泥だらけでなにしてたんだ?」
「山に宝探しを⋯⋯嘘です! すみません」
お風呂に入ったことねは、健太に事情聴取されていた。 どうにか護摩化そうとしたが通用しない。 ことねは諦めて祠の話しをすることにした。
「理解した。 君にはこれから、親父に会ってもらう」
「え? 柳田秀五郎に!」
「おう、詳しいんだな!⋯⋯やっぱり俺の判断は間違ってなかったか⋯⋯」
健太は、彩乃を連れて柳田家に向かうのであったーー




