高坂湊の償い
晴れた休日の朝、玄関前で、湊はことねを待っていた。 今日の朝一番に帰って来たことねは、さっそく俺に抱きついてきた。 そして、これから二人きりで、デートをしようと言い出したのだ。 ーーたしかに最近色々あって、一緒にお出かけをしていなかったことを思い出し、了承して今に至る。
「お待たせ! 湊! ⋯⋯どう? この服似合っているかな?」
「⋯⋯ことねは、なにを着ても似合っているよ」
「え~⋯⋯いまひとつな解答するね」
「そうか? 正直な気持ちを伝えたんだが⋯⋯」
「お嬢様! あとついでに湊も、いってらっしゃいませ!」
「美羽ちゃん、そんな態度で大丈夫? 今日で湊は完全に、私が落しちゃうよ?」
玄関で美羽とことねが話しをしている。 ーーことねは、俺と美羽の関係を誤解しているようだ。
櫻井美羽ーー彼女は成人後にことねと顔合わせする予定だった。 美羽には将来、ことねの秘書として働いてもらうように、子供の頃から教育がされていた。 しかし、親と喧嘩して、美羽は家出をしたのだ。 後ほど、美羽の親から連絡が来た時に、聞いた話しによると「知らない女性と、仲良くなんて出来ない!」と言うことで、一度でもいいから、ことねに合わせるかどうかで、揉めたらしい。
そんな、人見知りな美羽がニコニコしながら、ことねと会話しているのを見て、湊は改めてことねの人懐っこいところが好きになる。
ことねとの出会いは、物心ついてすぐのことだった。 なぜかことねは、初対面の時から俺に好意を伝えてきたのだ。 俺は、その意味を理解していなかったのだが、今ならわかる。
ことねの好きは、ライクではなくラブだと言うことを。 最近は彼女はそれが通じてないと思って、好意の例えを並べて伝えてくる。 もう充分に伝わっているが、面白いので内緒にしている。
「よし! どこ行く? 私、湊とだったらどこでもいいよ!」
「おいおい⋯⋯出掛けると、言い出した本日がそれかよ」
「えへへ。 だって昨日の夜、湊に会えなくて寂しかったから」
そう言うと、ことねは俺の腕に抱きついたーーいや、これはもはや締め付けているんじゃないか?
「そうだな、映画でも行こうぜ! 俺見たい映画があるんだ!」
「なになに、あ! 待って、当てて見せるね、ハーレムランドでしょ!」
「⋯⋯そうだよ正解だことね」
俺が正解だと言うと喜ぶことね。 俺は内心、嘘を見抜かれなくて安心した。
だって俺がずっと好きなのは、ことねーーお前だけだから。
「いや、ヒヤヒヤしたね! 終盤の『あなた誰か好きなの! ちゃんと選んで!』って発言にはビビっときたわ、今度使うね!」
どうやら、ことねの頭の中には、今後そのシーンが起こると勝手に想像を膨らませているようだ。
そんなことを考えていると、知り合いに出会った。
「あ! 彩乃ちゃんと舞香ちゃん! さっきぶりだね! 二人でお出かけ?」
「お姉ちゃん、この男の人誰?」
「え? ⋯⋯そうか。 まだ、会ったこと無かったんだ。 彼は高坂湊さんって言うの」
「そう! 湊は凄いよ! 私や美羽ちゃんに、みずちゃん、今川先生、そしてもちろん彩乃ちゃんも狙ってるんだよ! 凄いよね! ⋯⋯は! もしかして、マイマイのことも?」
ことねの発言を聞いた、彼女は口に手を当て顔を赤くしていた。 ーーことね、やめてくれ! 初対面の子にそんなこと言うのはーー
「なんですって! 湊さん! いくらなんでも許しませから! ⋯⋯この妹に手を出すハーレム野朗!」
「わわわ、そんなに堂々とハーレム宣言するなんて! 凄い方ですね!」
違うんだ、俺はことね一筋なんだ! それが恥ずかしくて、この前冗談で、あんなこと言ったからーー
湊は、自分の犯した過ちの代償を、背負って行くことになりそうだーー
高坂湊は、桐原彩乃が入院している病院に、今日も通っていた。 桐原彩乃の体の調子は良好で、もうしばらくで退院出来そうな段階まで来ていた。 そんな中、抜け道から学校の敷地内に入った時、彼女ーー川端ことねが待ち伏せをしていた。
「あーあ。 酷い召使いだこと。 主の世話もせずに、白昼堂々、お忍でどこに行ってたのかしら?」
高坂湊は、沈黙した。 川端ことねーーいや、川端ことね『だった』ナニカは、そんな彼に対して、不気味に笑い出すのだった。
「オイタが、過ぎるようね。 そろそろ貴方を処分しても⋯⋯グ!」
「お嬢様!」
「⋯⋯ふふふ。 川端ことね、まだ抗うの? 面白いわね。 ⋯⋯おい! この男を軟禁しろ!」
彼女の号令で黒装束が、高坂湊を拘束して、連行する。
残されたのは、川端ことねの声を使って高笑いをするナニカだった。




