破滅? それより晩ご飯~食べよ!
春の涼しさを感じる夕方、部屋の中で制服のスカートをひらりと揺らしながら、鏡の前で女性ーー川端ことねはニコニコとした表情でポーズをとっていた。
「よし、完璧! これで湊の視線は私に釘付けだね!」
ことねは、幼馴染で同居人の高坂湊が自分の制服姿にメロメロになる姿を想像して、思わず微笑む。 ーーその時、頭の中に雷のような衝撃が走ったかと思うと、色々な景色が流れ込んで来た。
推しのグッズを買うために店の前で仲間達と並んだこと、仕事終わりにパン屋さんで買った、チョコチップメロンパンの味、そして家でのんびり漫画や小説を読んだ記憶をーー
「私、もしかして⋯⋯転生した? しかもこれ⋯⋯前に読んだ小説の⋯⋯?」
ことねは思い出したのだ、自分が破滅する運命である悪役であることをーーしかし。
「まあいっか! なんとかなるよね~」
そう言うと彼女は部屋を飛び出し、料理を作ってくれている湊の元に向かった。 台所にいるエプロン姿の彼に声をかける。
「湊~どう? 似合う?」
「おう、似合ってるぞ。 サイズも丁度良かった見たいだね」
「じゃあ私を見て、ドキドキする?」
「するよ、とっても」
「やった! さすが、悪女の実力だね!」
「悪女? ⋯⋯それより早く着替えて、晩ご飯食べよか。 今日はことねが好きなカレーライスだぞ!」
「本当! すぐに着替えて来るね!」
喜びながら、ことねは部屋に向かうのでした。 そして、いつもの部屋着に着替えながら考えます。
ーーなんか、湊って原作の雰囲気と全然違うな、私にとって湊はお兄さん見たいだよ。 でも兄としてじゃあなくて、彼氏として好きだからね! と、彼女の頭の中は彼のことでいっぱいの様です。
「明日のクラス分け同じクラスになれるかな~」
「ことね、俺が居なくても八つ当たりしたら駄目だぞ」
二人はそんなことをのんびりしながら、会話してました。 ことねの親は遠方暮らしのため、幼い頃から湊がことねの世話をしていました。 その理由は、代々湊の家はことねの家を支えるのが役目だからです。 しかし、そんな様子はこの二人からは見えません。 お互い、幼馴染以上の仲を感じます。
「ねえ、湊。 これからまた一緒にお風呂入ろっか」
「おい! ことね、勘違いするようなことを言うな! 一緒に入ってたのは小学生までだろ⋯⋯」
「あ、そうだったね! ごめん。 と言うことで、久しぶりに⋯⋯」
「駄目だ。 一人で入れ!」
「ケチだな、湊は。 じゃあちょっとだけ、ね!」
「ちょっとってなんだよ⋯⋯駄目なものは駄目だ!」
ことねは渋々、一人でお風呂に浸かります。 ーーそれにしてもこのお風呂広いよね、前世のお風呂の三倍ぐらいあるよ。 一緒に入らないともったいないぐらいだよ。
そんなことを考えながら、ことねの学校生活の前日は過ぎて行きました。
夜の暗闇、月の光が照らす部屋の中、川端ことねは制服姿のまま鏡にいました。 うつる彼女の表情には笑顔はなく冷徹な瞳が周りを⋯⋯世界を睨んでいるようでした。
「⋯⋯お嬢様、明日は学校です。 もうお休みになられては、いかがでしょうか⋯⋯」
「貴方はいつから私に意見を言える存在になったの? 貴方は私の駒なんだから! ねえ、そうでしょう?」
「⋯⋯その通りです、申し訳ございませんでした、お嬢様⋯⋯」
そう言うと、静かに部屋から出て行く高坂湊。 彼が去る間も川端ことねは、視線は鏡から動かない。
「始めるわ、私の闘いが。 ⋯⋯そう、すべては私の理想の為に!」
月夜にうつる彼女の影がまるで彼女を縛る様に絡みついていました。




