理想学園の変貌
学校の校門に以前までは、設置されていなかった、関所が作られていた。 まるでこの先は、別の国だと主張するようにーー あの日から、この学校の生徒たちは、朝の六時に登校して、二十四時までは学校で勉学することを強制さられていた。
すべては、生徒会長の川端ことねの指示だ。 彼女が就任してから、生徒達の暮らしは一変したのだ。 休日も、碌な睡眠もとれないまま、学校に登校する生徒達の様子は、まるでゾンビの様で生気を感じない。 その状態は、学校活動中でも続いていた。
この学校の花壇に綺麗に咲いていた花は枯れて、かつての美しかった景色は無くなった。 だれもが、自分が今日を生きることで精一杯で、花に水やりをする、心のゆとりがなかったのだ。
朝六時三十分頃、校庭に生徒全員が集まる。 生徒たちがぼんやりと見つめる先には、この学校の生徒会長・川端ことねがいた。 彼女は登壇場に立ち、演説を始める。 彼女の周りには、黒装束の集団がいるが、それらが、何者なのか、いつから彼女に仕えているのか、そんなことを気にする、余裕のある生徒はいなかった。
ーーその時、校門から悲鳴が聞こえた。 生徒達は、ぼんやりとした表情から苦悶の表情に変わる。
悲鳴を上げた主は、黒装束の者に連行されて、前に立たされる。 これは、遅刻したものがどうなるのか理解させるための行為だ。
哀れな今日の犠牲者は、羽交締めにされたままだった。 川端ことねは彼女の方を見ながら演説を続ける。
「本日も、この学校の規則に従わない、愚かな人間が現れてしまいました。 とても遺憾です。 共にこの学び舎で生活する生徒を処罰しないといけないとは⋯⋯」
その言うと川端ことねは、黒装束にアゴで指示して、彼女を連行させました。
ーー以降この学校で彼女を見た者はいませんでした。
生徒会長室ーー元校長室の椅子に座る川端ことねに、この学校の校長先生が話しかけています。
「生徒会長! また、保護者とマスコミから連絡が⋯⋯」
「貴方、そんな些事に私を関わらせるつもりなの?」
「え? いや、しかし⋯⋯」
「適当に、対処しなさい」
「⋯⋯はい。 それと教育委員会からも⋯⋯」
「はあ⋯⋯。 これ以上、私を失望させないでほしいものね、校、長、先、生?」
「かしこまりました!」
校長は逃げるように、生徒会長室から出て行きました。 誰もいない場所で彼女はふと呟きます。
「そういえば、あのゴミはどこに行ったのかしら⋯⋯」
病院のリハビリ室で、桐原彩乃が歩行の練習をしていました。 ずっと、足腰を使わなかったので、筋力が落ちていました。
一歩、二歩、ヨタヨタと歩く彼女。 その時バランスを崩してしまいます。 倒れる衝撃に耐えるために、目を瞑る桐原彩乃。
しかし、その衝撃はやってきませんでした。 その代わりに誰かが、体に触れる感覚がします。 桐原彩乃が目を開けると、そこにいたのは高坂湊でした。
「キャ!」
「危ない!」
慌てて動こうとした桐原彩乃は、またバランスを崩しましたが、高坂湊が彼女を優しく支えました。
「⋯⋯あ、ごめん⋯⋯」
「いえ、こちらこそ。 その⋯⋯ありがとうございます。」
高坂湊は、桐原彩乃を抱くように、起こしました。 お互いの顔が赤く染まります。
「⋯⋯あまり無理をしない方がいい⋯⋯体によくない⋯⋯」
「いえ、私は早く学校に復帰したいですから⋯⋯」
桐原彩乃は、高坂湊を真っ直ぐ見つめて応えた。 その時、部屋の入り口から物音が聞こえた。 二人は視線を入り口の方に向けた。 そこには、桐原彩乃の妹の桐原舞香が口に手を当て立っていた。
「二人とも、実はそんな関係だったんだね!⋯⋯ごめんね邪魔しちゃって」
そう言うと桐原舞香は足早に、リハビリ室を去って行った。 ーー二人は唖然とした様子でそれを見送るのであった。




