混戦? 生徒会会長選挙!
初夏の朝、全校生徒が体育館に集まった。 今年の生徒会長の立候補者の演説が始まろうとしていたーー
「お待たせいたしました。 ただいまより、公開演説を行います、エントリーNo.1 二年 榊葉結衣」
「は~い!」
司会者に呼ばれて登壇したのは、金髪のロングヘアーの女性だった。 彼女は、トテトテとのんびり登壇場に現れる。
「みなさん~、こんにちは! あれ! おかしいいぞ! 声が聞こえないよ~? もう一度~ せ~の!」
榊葉結衣の指示に従い、戸惑いながらも、「こんにちは!」と声を返した。
「えへ~。 みんなよく出来ました! みんなのアイドル! 榊葉結衣だよ~! みんな、気軽にゆいゆいって呼んでね~」
そうして、彼女はポーズを取り、ウインクするのであった。 遠くて誰にも見えてないがーー
「アタシが~、生徒会長になったら~、毎日が~、バライティで~満たされて~⋯⋯」
生徒達は、彼女の演説を聞いているのだが、内容が頭に入って来なかったーー
「⋯⋯でね~、アタシ~、ね~、とっても~、そうだった~、の~」
「榊葉結衣さん、演説の時間終了です」
「あ、そうなの~? みんなまたね~!」
トテトテと帰って行く彼女を、ぼんやりと見つめる生徒達であったーー
「⋯⋯え、No.2 二年 立川竜也」
「はい」
続いて呼ばれたのは、神妙な面持ちの男性。 ーーこれは期待出来る! 生徒たちは演説を真剣に聴きます。
「僕はこの場を借りて、告白したいことがございます。 ⋯⋯新田善子! 付き合ってください!」
「え! 竜也、大勢の前で告白なんて! なんてロマンチックなの!」
「昔から、お前のことが好きだった⋯⋯ 幸せにする! 返事はどうかな?」
「そんなの決まってるじゃない! よろしく! 竜也!」
「みんな! 俺たちを祝ってくれ! ありがとう!」
壇上で抱き合う二人を見て、生徒達は思った。 なにを見せられているんだ、とーー
「⋯⋯No.3 二年 田中幸子 ⋯⋯お休みでしょうか⋯⋯」
「何処を見ている! 我は此処だ!」
そう言うと、登壇場に黒いマントを羽織る女性が立っていました。
「我が名は、闇の悪役令嬢女王・ワルザベスであるぞ! 壊! 我が生徒会長に任命された暁には、其方達に我を崇める権利を授けよう! 皆の衆、跪け! お代官越後屋のお通りだい!」
せめて、キャラ設定をしっかりしてほしい、貴族なのか、邪神教祖なのか、時代劇なのかどっちかにしてほしいと生徒達は思ったーー その時。
「田中! お前理科実験室のカーテンパクっただろ!」
「あ、バレた! いや~、威厳が欲しかったからつい⋯⋯ すみませんでした!」
理科の先生に、連行される形で登壇場から、去って行く田中幸子だった。
「⋯⋯No.4. 二年 柳田健太」
「やれやれ⋯⋯待たせな! 真打登場だぜ!」
そう言いながら、ポケットに手を突っ込みながら歩く、チャラオだった。
『キャ~、柳田様!』
「オイオイ、女性ども、ガッツクなよ⋯⋯いつも声援ありがとうな!」
彼の発言に気絶する、一部の女性生徒たちーーまた、変な奴が来た! と大半の生徒は思った。
「みんな、お待たせ! 俺! 柳田健太が来たからには、問題ない! 最高の学校生活にしようぜ!」
「健太! 健太!」
「ありがとう! ⋯⋯うお!」
彼は歓声を上げる女性を見ていて足元を見ていなかった。 ポケットに手を突っ込んだまま、彼は登壇から転落したのだった。 急遽タンカで運ばれて行く彼を、生徒たちは無表情で見送った。
「次が最後です、エントリーNo.5 一年 倉石 瑞稀」
「はい」
その声で登壇するのは、一人ではなかった。 二人とぬいぐるみ姿の一体? が登壇した。
「こんにちは、みなさん。 私は応援者の川端ことねです。 本日は、倉石瑞稀さんの応援演説をさせていただきます」
登壇者の名前を聞いた、一部の生徒は驚愕した。 川端ことねの登場に。 川端家と言えば、代々この土地の管理人であり、この学校の創立に関わっている、大物だ。 その彼女が推薦するほどなのか、倉石瑞稀!
「倉石瑞稀は、信念を持っております! 私は、その信念に共感を示し、彼女の応援をする所存でございますので、みなさまの大切な一票の用紙に、どうか! 倉石瑞稀と、記入していただきますよう! 重ねてお願いします」
「川端ことねさんからの、推薦をいただきました。 倉石瑞稀でございます。 私が掲げるのは、生徒個人の自由です! 私が生徒会長になりましたら、選択の自由! 個々の好奇心を尊重した、学校作りに取り組んでいきたいと思う次第でございます」
「ブ、ブ、グブ」
「はい! こちら、イメージマスコットのミウミウも、応援しています! ⋯⋯短い時間でしたがありがとうございます。 若輩者ながら、自分の心差しを貫く意識を見せて参ります」
「グブ、グブ、グブ」
生徒たちは感動のあまり、スタンディングオベーションで称えた。 一体化とはまさにこのことでした。
こうして、倉石瑞稀が生徒会会長に任命されたのであった。




