独裁者生徒会長の主任の挨拶
初夏の体育館に全校生徒が集められた。 これから、新生徒会長の川端ことねが主任の挨拶を始める所だ。
川端ことねは、まだ一年。 二年の生徒が主任するのが普通のはずだが、候補者たちは皆ーー消された。
普通なら、冗談に聞こえるはずだが、それが十人を超えたら、事件である。 しかし、何故か警察も、メディアも動く気配がない。 ーー私達生徒は、途轍もない陰謀めいた、ナニカに巻き込まれてしまったらしい
「新生徒会長、川端ことね」
「はい」
司会者のに呼ばれて登壇する、川端ことね。 この様子は先日の入学式を思い出させる。 あの時に彼女の発言を笑っていた奴は、もういない。 生徒たちは自分の動作がすべて、見られている錯覚を覚えた。
「みなさん、お久しぶりですね。 おかしいですね⋯⋯前回話していた時より、人数がだいぶ減ってますね」
川端ことねは、首を傾げる仕草をとるがーー彼女の茶番に付き合いたくない、早く終わってくれーーと言うのが生徒達の願いだった。 そんな気持ちを知っているはずの彼女は惚ける。
「ああ、わかりました。 風邪ですね。 季節の変わり目ですからね、皆さんも体調管理してくださいね」
つまり彼女はこう言い訳だーー私に逆らう奴は風邪の扱いで消えてもらう
「改めてまして、こんにちは。 この度、生徒会長に主任した川端ことねです。 よろしくお願いします。 さて、貴方達に理解してもらいたいことがあるの⋯⋯今日から貴方達は私の理想のための駒になるの!」
理想のための駒ーー彼女が入学式で発言していたことだ、彼女は続きを話す。
「貴方達の自由、人権、休日はなくなるわ。 貴方達はただの生きる屍になるの!」
生徒たちの中に疑問が生まれる。 自由と人権の意味はなんとなく理解出来た。 しかし、休日とは?
「みなさんには、これから毎日登校してもらいます。 毎日、朝から、日付が変わるまで学校生活を送っていただきます。 イベントは全部廃止! ⋯⋯もちろん長期休みなどありません」
生徒達は理解、出来なかった。 それを察したのか、川端ことねは説明を始める。
「体育祭も文化祭も、生徒の自主性を騒ぐだけの無駄。 そんな無駄は、私の学園には不要よ。 次に、学ぶ者が遊びを求めるなど、認めない。 この学園は、私が王! その国民である貴方達に休む権利はないの!」
生徒達は、絶望感に苛まれた。 ーーこんな独裁、従えるはずがない。 そのはずなのにーー
「さて、誓いの証として、跪いてもらいましょ⋯⋯さあ、早く!」
彼女の指示に従うように、跪く生徒達。 今ここに、独裁者川端ことねの王国が誕生したのである。
深夜、川端ことねの部屋。 いつものように、鏡に向かって呟く彼女がいた。
「ついに、叶ったわ! 私の理想が⋯⋯」
『よくやった、川端ことね、さすが、私の優秀な駒だ』
「はい、私はやり遂げました⋯⋯ですがまだこれからです。もう暫くお待ち下さいませ」
『いいぞ! ハハハハ!』
川端ことねとナニカが、会話をしている様子を、高坂湊は見ていました。 川端ことねを守るべき存在の自分が、どうすることも出来ないなんてーーあの時の俺に力があれば、彼女はーー
「駄目! 湊に手を出さないで! ⋯⋯私が代わりになるから⋯⋯」
「お嬢様! なにを言って!」
『ハハハ! 面白い! なら、私の理想のために生きるのだな! お前の好きなコイツのために!』
「はい、かしこまりました。 身も心もすべて貴方のために、捧げます⋯⋯」
あの忌まわしき悪霊から、俺を守るためにお嬢様は、闇に覆われてしまった。 俺はなんて非力なんだ!
高坂湊は、一人自分に対して、黙怒するのであった。




