原作改変? そんなに気にしなくても~
「⋯⋯それでね、なんとか、自炊出来るようになったの! お姉ちゃん⋯⋯料理って大変だね」
「まあ、慣れたら、どんどん早くなるよ。 楽しみだな⋯⋯舞香の手作り」
「うん、期待しててね。 ⋯⋯じゃあ、また明日ね!」
桐原彩乃は、妹である、舞香が帰るのを見送る。 目覚めて数日が経ったが、まだ退院するには、リハビリが必要だった。 思ったよりも脳のダメージが大きいらしく、退院や通学はまだまだ先の話しのようだ。
「⋯⋯桐原彩乃さん⋯⋯こんばんは⋯⋯」
「高坂湊さん⋯⋯」
桐原彩乃は高坂湊の様子を見る。 彼は、私が目を覚ました後、病院の検査が終わった時に突然現れた。 どうやら、彼は私のクラスメイトらしい。
しかし、私は彼にまったく覚えがなかった。 入学して、数日間学校生活をあのクラスで過ごしたのにだ。 友達まではないにせよ、普通ならある程度の顔見知りにはなるはずなのにーー
「⋯⋯体調はどうですか⋯⋯」
「まだ歩くのは、辛いですね」
「⋯⋯そうですか⋯⋯」
彼はそう言うと、口を閉した。 二人の間に気まずい、雰囲気が流れる。 桐原彩乃は彼の様子を見た。 どこか、消えそうな雰囲気を身に纏っていた。 顔には、正気がない。 姿勢もまるでゾンビみたいで、声も抑揚がない。 彼は普段、どんな生活を送っているのだろうかーー
「⋯⋯では失礼しますね⋯⋯」
「はい、ありがとうございます⋯⋯」
しばらくすると、彼は帰って行った。 桐原彩乃は高坂湊のことに興味を持ち始めていた。
休日の喫茶店に、彩乃とことねは二人で来ていた。 彩乃はここ最近の原作改変について、ことねと話し合いたいと思っていた。 彩乃はことねの顔をじっと見つめた。
「彩乃⋯⋯どうやら私を甘く見ていたようね」
「川端ことね!」
「貴方は、私を舐めているわね」
ことねは、不気味な笑顔を浮かべながら、一枚の用紙を取り出した。
「じゃじゃん~変更点リスト!」
「⋯⋯なに、これ?」
「私が変わったな~って思ったことを書いたよ! これさえ読めば完璧だよ~」
ことねから、用紙をもらい中身を確認することになった。
『変更点その一、高坂湊。 私の未来の旦那様は、存在すべてが、格好いいの~。 湊に聞いたんだ!
のんびり推活部のメンバーの中で、誰が一番好きなの? って。 そしたら、「みんな俺の虜にしてやるさ!⋯⋯今川先生も含めてな!」だって! 凄いよね! 私もみんなを虜にしよう!』
彩乃はうなだれた。 ーー原作の彼は、川端ことねの駒として、重度の労働を強いられ、常に心身共に衰弱している存在なのに。 たしかに、元気なのはいいんだけれどーー
『変更点そのニ、櫻井美羽。 家族公認の、湊の二股候補として、今まで秘匿に育てられた彼女が、私に宣戦布告しに来た。 その心意気よし! この勝負絶対に負けないんだから!』
ーー櫻井美羽、そんな人物は登場しない。 秘匿、それなら本編に登場しない理由は理解できるわねーー
『変更点その三、倉石瑞稀。 みずちゃんはね、次の生徒会選挙に立候補する予定なんだよ! 凄いよね! 私も部活のメンバーとして応援するよ!』
ーー原作の前半の焦点は、桐原彩乃と高坂湊の交流を中心に書いていた。 だから、その間に学校でなにがあったのかの描写はなかった。 作者の都合と言えばそれまでだけどーー
ふと、彩乃は、ことねの方を見た。 ことねは、視線に気付くと、期待するような眼差しでこちらを見ていた。
ーー川端ことね。 一番の変更点は彼女に違いない! 原作で、描写される『冷たい瞳』は彼女には感じない。
しかも、生徒会長になるつもりもない。 私の敵どころか、彼女はすっかり、私の心の拠り所になってしまった。
彼女がいる限り、この先もきっと頑張れる!ーー
彩乃は、リストの続きを読んだ。 ーー今川先生の存在も謎だが、その次の項目で、頭から消えたーー
『⋯⋯桐原舞香。 マイマイは年は違うけど、毎日連絡を取り合っているし、休日にはよく一緒に遊ぶんだ! この間も、みずちゃんと三人で、ゲームや、ショッピングをしたり、映画も行ったよ! 私達はもう親友⋯⋯』
「ぬが~!」
「どうしたの、彩乃ちゃん! 落ち着いて!」
「舞香ったら勝手に! お姉ちゃん許しませからね!」
「ああ、マイマイとはね、よく彩乃ちゃんのことで相談にのっているんだよ。 この前も『お姉ちゃんが原作と違う、おかしいとか言いながら、ベットで呻いているけど、どうすればいいの?』って聞かれてたから、大丈夫! 思春期には必ずそう言う時期があるよ! ⋯⋯だから優しく見守ってあげて! って言ってあげて⋯⋯」
ーー舞香に中ニ病扱いされてる。 そういえば最近、舞香の視線が優しかったようなーー
暴れる、彩乃を介抱することねであった。 ことねは思った。
ーー原作と一番違うのは彩乃ちゃんだね! 見てると、守ってあげたくなるもん!ーー




