倉石瑞稀の絶望
小鳥が鳴く声で、彼女ーー倉石瑞稀は、目を覚ました。 学校の入学式があるのにも関わらず、深夜までゲームをしていたので、まだ眠たい。 そこへ、彼女の母の声が聴こえた。
「瑞稀! ご飯出来たわよ! 早く起きなさい!」
「もうわかったよ、お母さん」
仕方なく、リビングへ向かう瑞稀。 そこで待っていたのは、彼女の両親と弟である。
「瑞稀! 今日、入学校だね。 お父さんは仕事で行けないけど、応援してるぞ!」
「ありがとう、お父さん」
「もう、瑞稀! また、夜遅くまでゲームしてたでしょ!」
「え! ⋯⋯そんなことないよ~」
「まあまあ。 ちゃんと起きてるし、問題ないだろ」
「ねえちゃん、ズルい。 僕も徹夜でやりたい!」
そう言うと、弟が拗ねる。 お父さんはお母さんを宥めるーーいつもの朝の光景だ。 そんな日がこれからも続くと思っていた。 ーーまだこの時は。
「新入生代表、川端ことね」
「はい」
美しい人ーー瑞稀が川端ことねを見た時に思った第一印象だった。 しかしその後、印象は変わることになった。 長々と語る彼女視線には、私達が見えていないようだった。 ーーなるほど。 これが眼中にナシと言う言葉の意味か、と瑞稀は思った。
「はい、ただの寝不足ね! ⋯⋯入学式の前で緊張した?」
「⋯⋯まあ、そんなところです」
入学式の後、私は気絶して保健室に運ばれていた。 保健室の管理人の今川先生に診察してもらうことになったのだが、倒れた理由が「深夜までゲームしてました!」なんて、言える訳がなかった。 今川先生と会話をしていく中で、入学式の川端ことねの話題になった。
「貴方はどう思った? 彼女のこと」
「⋯⋯正直、怖いと思いました。 彼女は野望を話してましたが、まったく私達の方を見ていませんでした」
「そうよね⋯⋯ありがとう、参考になったわ」
そう言うと、今川先生は私の頭を優しく撫でてくれたのを、今でも思い出します。
学校生活が始まったすぐのこと、私のクラスメイトが怪我をしました。 幸い近くに、保健室があったので駆け込みます。 ーーきっと優しいお姉さんなら助けてくれる!
「今川先生! クラスメイトが頭に怪我を⋯⋯」
中に入るといたのは、知らない男性でした。 その目は、あの川端ことねと同じでした。 ーー後から聞いた話しによると、今川先生は突然居なくなったらしいと。
クラスメイトの彼女は助かりましたが、私は彼女に会うことはありませんでした。
「瑞稀⋯⋯残念だな、体育大会がなくなって」
「うん⋯⋯そうだね」
「どうしたの? 元気ない?」
「え! 元気だよ。 うん」
夕食を親と食べながら、私は考えていました。 ここ最近の学校の雰囲気を。 たしかに、私は一年生だから、入って間もないのは事実だ。 しかし、それでも理解していた。 ーー川端ことね、彼女が裏で、学校を掌握していることを。 このままではみんなが、彼女の駒にされてしまう。 私は川端ことねと戦う決意をした。
ある日、校長室へ呼び出しがあった。 私が向かうと、待っていたのは、校長先生ではなくーー
「こんにちは、倉石瑞稀さん」
「⋯⋯川端ことね!」
「あらあら、怖いわ。 クラスメイトに向けてる態度じゃなくて?」
「なんの用ですか? ⋯⋯すみませんが、私用事がありますので、本題をお願いします」
「なにを急いでいるの? ああ、貴方がしている、無駄行為のことね」
「⋯⋯失礼します」
「貴方のお父さん、個人事業主でしたわね?」
「! ⋯⋯それがなにか」
「私はね、心配しているの、お父さんの信用が崩れれば、貴方達家族は路頭に迷うことになるわね」
「貴方、まさか⋯⋯」
「家族思いの貴方なら、わかるでしょ?」
私は逃げるように校長室を、学校を去った。 そして私は今ーー
「⋯⋯瑞稀、ここにご飯、置いてるから⋯⋯食べてね」
どれくらいの時間が経ったかわからない。 私は家に引き篭もっていた。
ーーもういい、学校は貴方が好きにすれば、だから家族には手を出さないで!ーー
瑞稀は、最後に見た、川端ことねの目を思い出す。 冷え切ったその瞳をーー
「部活の承認はできません」
「え~? どうしてですか! 名前が悪いのでしょうか? しっかり記述してます。 完璧なはずです!」
「人数が最低でも、五人ないと部活として認められません」
「そんな~⋯⋯私の、のんびり推し活部が!」
職員室で瑞稀は体育座りを始めました。 せっかく顧問の先生も決まっているのに出来ないなんて。
「そんなに部活をしたいなら、部員を探しに行きなさい」
「えー、こんな部活、入ってくれる人いないですよ!」
「そう思うなら、諦めて他の部活に入れ! ちなみに、帰宅部は認めないからな」
瑞稀はうなだれます、まだ、無所属の生徒を探さないといけません。
「絶望だわ、他の部活なんて上下関係とかがあって、サボれないじゃん⋯⋯」




