イレギュラーしか存在しない、学校生活
朝のホームルームが始める教室で、今日も、桐原彩乃は混乱していた。 入学してから、まったく前世の知識が役に立たないことをーー
「今日からみなさんと少し遅れて、同じクラスの学生になった、櫻井美羽さんだ。自己紹介お願いします」
「櫻井美羽」
「はい。 どうぞ、続きをお願いします」
「特にありません。 席に座ってもいいですか」
そう言うと櫻井美羽は、川端ことねの隣に座った。 先生は櫻井美羽に問いかけました。
「あの、櫻井さん。 何故そこに、座るのでしょうか?」
「はい、簡単なことです。 私は、ことね様の世話をするために。 この学校に来たからです」
「まあまあ、先生。 ここは俺に免じてどうか、お許しください」
高坂湊が先生に向かって頭を下げると、先生は渋々と言った様子で諦めた。 ホームルーム終了後、さっそく私は、彼女たちの席に向かった。
「はい! ことね様、一時間目の授業は国語です! わからなかったら、いつでも聞いてくださいね!」
「⋯⋯アンタ何者? ことねと、どう言う関係なの?」
「それは、私、川端ことねが答えよう!」
そう言うとことねは、待ってました! と言わんばかりに、経緯を話し始めたのだがーー
「⋯⋯つまり、ライバルって言いたいの、アンタは?」
「そうだよ~。 彼女と目があった瞬間感じたね! 私たちには因縁があると。 実際その通りだし⋯⋯」
そう言うと、見つめ合う二人に、彩乃はますます混乱する。 このあたり様にいる櫻井美羽は、原作では登場しない。 ーーそしてさらに、もう一人登場しない人物が、堂々とこのクラスにいるのだがーー
「櫻井美羽さんですね。 始めまして。 私の名前は倉石瑞稀と言います。 このクラスの学級委員をしています。 よろしくお願いします。 それでお話しがありまして、間近に迫っている体育大会について⋯⋯」
「そんなことは、お前よりわかってる! 話しが以上なら去れ!」
「なんですって! だったら説明してもらおうじゃない!」
原作に登場しない彼女たちが、さっそくクラスで激突を始めた。 彩乃は混乱のピークに達していた。
「彩乃ちゃん、また具合が悪くなったの? もう~! しょうがないな~。 おいで彩乃ちゃん! 膝枕してあげる。 私の膝枕は好評なんだよ~、湊も美羽ちゃんも、私の膝の虜なんだから~」
ことねは、膝をポンポンと叩きながら、ニコニコと笑いかけて来る。 彩乃は吸い込まれる様にことねの膝に頭を乗せた。 ーーあれ? 本当に気持ちいい! このまま意識を失いそうーー
「ことね、前から気になってたんだけどさ、いつも彩乃のことを気にかけているよなぁ?」
「だって、彩乃ちゃんさ、ほっとけないじゃん。 ⋯⋯この子ずっと頑張ってるんだよ。 ⋯⋯そんなに状況に混乱しないで、その場の流れで過ごせばいいのにね⋯⋯」
「まあ、たしかにコイツ、いつも無理してるからな⋯⋯せめて俺たちが、彼女を元気にさせようぜ!」
「うん! さっすが、私の大好きな湊だね! もう~さらに好きになっちゃたよ!」
「まあ、その⋯⋯俺もまんざらじゃないと言うか、嬉しいかな」
「⋯⋯アンタたちさ、イチャイチャしすぎじゃない?」
彩乃のツッコミにクラスメイトの、ほぼ全員が頷くのであった。 教室に一体感が出た瞬間である。 その輪に入らない例外がいたーー転校生の櫻井美羽と学級委員の倉石瑞稀である。
「⋯⋯⋯以上がこの学校の体育大会の歴史だ、偉大なる川端家の道筋とこの学校の繋がりが、よくわかるだろう。 これで貴様もことね様の凄さが、理解出来ただろう!」
「⋯⋯うう。 サイン、コサイン、タン塩牛タン、食べたいな⋯⋯」
「な! 貴様! 私の話しを全然、聞いてないじゃないの! 起きなさいよ!」
「はい、おはようございます。 ⋯⋯えっとなんでしたっけ? 理想が世界を闇に覆う時⋯⋯」
「それ! めっちゃ序盤! 偉大さが全然伝わってないじゃん! ⋯⋯こうなったら放課後、最初から講義しないと⋯⋯」
「え~、ゲームしたり、漫画、読みたいから嫌! あ、しまった! ゴホン⋯⋯体育大会が近づいていますので競技の練習を行います」
「貴様! 全然ごまかせてないぞ⋯⋯ ところで、私は当然ことね様と常に一緒の種目だろうな?」
「じゃん! おめでとうございます。 貴方の役割は応援マスコットです!」
「はあ? マスコット? 何故だ!」
「⋯⋯だって今から役割変更するの面倒だし。 ゴホン。 転校生である貴方に、配慮した結果です!」
「後で誤魔化しても丸聞こえだから! この怠慢委員長!」
ついに、取り組み合いの喧嘩になる二人ーーしかし、誰も彼女たちを止める者はいませんでした。 ーー周りから見たら、彼女たちは仲良く話している様にしか見えないのでした。




